【ムーミン出現!?】2018年センター試験~地理Bのアレを解説

今年のセンター試験(1日目)の概況報告です。今年も何かとネットを賑わせているようですが・・・?


センター前日は全国的に大雪となり結構な交通障害が予想されましたが、センター試験は無事に終了したようですね。一部で入試センター側の連絡ミスやリスニング機器の不具合があったようですが、特に大きな混乱も発生しなかったようです。

北海道の胆振管内ではJRが乗用車と衝突した事故により、足止めを食らった受験生があわや会場の室蘭工大に辿り着けなくなってしまうところだったそうです。事故の連絡を受けた苫小牧署がJRに問い合わせると、4名の受験生に影響が出ていることが判明。苫小牧署と室蘭署から急遽パトカーが出動し、受験生を会場まで無事に送り届けたそうです(サイレンは鳴らさなかったようです)。

韓国の大学修学能力試験(日本で言うセンター試験に相当する統一試験です)の際は試験会場に間に合わない受験生が白バイなどで送り届けられる、という話をよく聞いたり動画でも観たりしますが、警察が受験会場まで受験生を送り届けるというのは、日本ではこれまでに例のないことだそうです。苫小牧署によれば

「今まで勉強してきた受験生を思い、常識的に判断した」

とのこと。これぞまさに神対応と言うべきでしょうね。


さて、今年のセンターは比較的に控えめだったかもしれませんが、それでも話題に事欠かないのはいつものこと。今回は地理Bでこんな設問が登場しました。

(図1.2018年 センター地理B 第5問 問4)

 


皆さんお馴染の「ムーミン」など、北欧の童話をモチーフにした日本のアニメが題材となりました。恐らく出題サイドはサービス問題のつもりで出したのでしょう。勿論、私もサービス問題だと思いました。

 

・・・が、いまどきの受験生には通用しなかったようです(笑)。Twitterなどではムーミンを逆恨みした受験生が公式アカウントに殺到、あえなく炎上した模様です。2ch(いまでは「5ch」というらしいですが)では次のようなAA(アスキーアート)が出回る始末。

(図2.「2018年度センター試験爆死スレ」より)

 

この異常事態に公式アカウントは次のようなコメントを発表しました。

(図3.公式アカウント「ムーミン公式サイト」より)
(2018/01/14  15:30閲覧)

 

なんて健気なのでしょうか・・・。一時、公式サイトのあまりのアクセス数に、サーバーの処理が追い付いていなかったとか・・・。これも神対応と言うべきでしょう。中の人に恐れ入った次第。

このままではあんまりだと思ったので、本問について当サイトで少し解説してみることにします!興味のある方は少しお付き合い下さい・・・。

 

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2018年センター地理B第5問問4解説


まずは各アニメの放送時期から振り返りましょう。

◎各アニメの放送時期◎

・「ムーミン」(1969年版)(フジテレビ)
:1969年10月5日~1970年12月27日

・「小さなバイキング ビッケ」(フジテレビ)
:1974年4月3日~1975年9月24日

・「ニルスのふしぎな旅」(NHK総合テレビ)
:1980年1月8日~1981年3月17日

ムーミンは1972年の、いわゆる「新ムーミン」(フジテレビ系列)や1990年の「楽しいムーミン一家」(テレビ東京系列)として度々テレビアニメが放送されているので馴染みのある方も多いのでは。

・・・とは言うものの、今回受験する年齢層は皆1999年か2000年の生まれが大半です。アニメ自体を知らなかったというのも無理はないかもしれませんね・・・。

我々からしてみれば

「ビッケ=バイキング=海賊⇒ノルウェー」

「ムーミン⇒フィンランド」

という等式は常識の範疇です(ですよね・・・?)が、しかし受験生はまだ10代後半であり、この等式がすぐに思い浮かぶのはどちらかと言えばむしろ親世代でしょう。そして恐らく作問者は40~50代辺りでしょうから、まさにリアルタイムでアニメを観ていた世代ではないかと推測されます。ですから、本問が(出題サイドにとっては)サービス問題のつもりで出題されていたのだとしてもおかしくはありませんね・・・。


それはともかくとして、まずは北欧地誌を簡単におさらいしておきましょう。

(図4.「Satellite Applications for Geoscience Education」より

これは世界の主な海流を模式的に表したものですが、北欧に着目してみると、赤い矢印がかなり北の方にまで伸びているのが分かりますね。これは北大西洋海流と言い、ノルウェーの北まで届く暖流です。海流は強弱の差こそあれ、年中流れているため、ノルウェーは冬でも海水が凍ることはなく、極寒のロシアが羨むような不凍港を多数有し、広範な好漁場の海域を有します。この気候は輸出の面でも影響を及ぼしています。スウェーデン北部にはキルナ鉄山という大規模な鉱山があり、そこで採掘される鉄鉱石は、スウェーデンの港町ルレオとノルウェーの港町ナルヴィクを結ぶオーフォート鉄道で輸送され、夏の間は鉄道の東端にあるボスニア湾に面したルレオから、そして湾が凍結する冬の間は鉄道の西端、大西洋側の不凍港であるノルウェーのナルヴィクから輸出されます。地理選択者であれば押さえておきたい重要ポイントですね。

また、文化、特に言語においても北欧には特徴があります。スカンジナビア半島のノルウェー、スウェーデンの2国の言語はゲルマン語族であるのに対し、フィンランド語(スオミ、またはフィン語とも言います)はウラル語族の言語です。因みにロシア語はインド・ヨーロッパ語族のスラヴ語派に属するのでフィンランド語とは系統が違うということも押さえておきましょう。

それから、これは世界史の範囲の知識になりますが、ロシアとフィンランドは歴史的にみて仲良くありません。領土を巡って度々戦争をしている間柄です。しかし一方で昔から両国は経済的な結びつきが強いということも忘れてはいけません。今回のセンターでも北欧3国の貿易額に関する問題が出題されていますよね?世界史の知識は不要ですが、バックグラウンドとしてある程度の世界史の知識を持っていると地理でも思わぬところで役立つことがしばしばあります。世界史では当然、バイキングに関しても扱いますから、世界史の内容を知っていると他の受験生に対して知識面でかなり優位に立てます。

また、これは余談ですが、フィンランドを代表する国民楽派の作曲家にジャン・シベリウス(1865~1957)という人がいます。

ジャン・シベリウス

彼が作曲した交響詩「フィンランディア」の中間部には祖国への愛国心を歌った美しい旋律があります。ロシア帝国の圧政への抵抗の意味合いもあり、勿論、歌詞はスオミで歌われます。この部分はフィンランディア賛歌 (Finlandia-hymni)として合唱曲に編曲されています。以下に参考動画を掲載します。


参考動画:「フィンランディア賛歌」(中間部抜粋)


持論ではありますが、雑学というのは

「雑学=雑な学(=どうでも良い学)」

という訳ではなく、

「雑学=雑多な学(=色々な学)」

というのが本当のところだと思います。「色々な学」なのですから、色々なところで役に立つのは当たり前です。徒に「どこで役に立つか分からないアヤシイ知識」というレッテルを貼り付けてしまうのではなく、「いつか自分のためになる知識」という意識を持って日々の学習や情報に接して欲しいものです!

「これは地理の知識、あれは世界史の知識、・・・」というように関連した情報を別々に記憶してしまうのは本当に勿体無いことです。こうした勉強の仕方は時間の浪費ですし、何より勉強していて楽しくありませんよね?

全ての教科は関連した知識で繋げることができるんだ、ということを皆さんには是非理解しておいて欲しいと思います。そうすればいざという時の話題の引き出しも増えますし、思考が遥かに豊かになります。是非、学生のうちにこのメリットに気付き、貪欲に知識を掻き集めて欲しいと思います!


さて、前置きが長くなってしまいましたが、件の問題について回答したいと思います。Twitter上でも色々言われている通り、基本的な地誌の知識が頭に入っていればそれほど難しい問題ではありません。

まず、選択肢「タ」のムーミンの絵から、モミの木らしき針葉樹が見て取れます。しかしこれだけでは北欧諸国を区別できる情報とは言えません。そこで選択肢「チ」を見ると、バイキングのものと思われる帆船が見て取れます。「バイキング」という言葉は9世紀~11世紀頃に西ヨーロッパ沿海部を侵略した武装船団、海賊を指す言葉です(最近ではスカンディナヴィア半島、バルト海沿岸に住んでいた人々全体を指すようになってきましたが)。

当然、船が生活道具なのですから、港が凍っては仕事になりません。冬に海が凍るフィンランドには住みにくいと考えられますし、ノルウェーには天然の良港となるフィヨルドが各地に存在し、さらに西欧にも近いという地理的な条件が重なります。これらの事情を考えれば、「ムーミン」がフィンランドの地を舞台にした物語だと知らなくてもかなり高い確率で絞り込むことができます。

そして言語は先程解説した通り、スカンディナヴィア半島では「古ノルド語」と呼ばれる北ゲルマン語群の言語が話されていますから、ノルウェーとスウェーデンでは似た言語様式を持つことが推測されます。したがって例示されているスウェーデン語に似た選択肢「A」がノルウェーの言語、「B」がフィンランド語だと判断できますので、正答は

と結論できます。仮に言語を知らなくてもイラストにトナカイが描かれていることから、寒帯に近い地域であることが想像できます(トナカイは寒帯や亜寒帯の特に寒さの厳しい地域に生息しています)。ノルウェーはフィンランドに比べて温暖ですから、トナカイの方がフィンランドと推測できます。もしこれがダメでも、トナカイの絵からサンタクロースを連想できればフィンランドと推測できるはずです。


アニメはかつて、俗な娯楽とまで言われてきましたが、今では日本が誇る文化としての地位を獲得しています。この問題は、アニメと実際の世界の文化との結びつきを日本の若者たちに体感させ、考えさせる良問であるとの評価も可能です。いまやクールジャパンの一環として「アニメ」を官民挙げて世界に輸出している日本の姿勢を見れば、アニメは既に娯楽の域を超え始めているとも言えます。個人的には、アニメが「サブカルチャー」という括りにはもう収まらない、日本の一大産業にまで成長したと思っています。本問はこうした日本の世相を反映した作題だったとも言えるのかもしれません。・・・まあ、それにしては題材が些か古いとも思うのですが(笑)。

 

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全体として今年の地理は解きにくいように感じました。平均点やいかに・・・。


今回の地理Bではムーミンがかなり逆恨み(?)されてしまっているようですが、地誌を十分に学習できていれば難無く解答できる類の出題だったと思います。なお、世界史ではFGO(Fate/Grand Order:フェイト・グランドオーダー)というゲームの元ネタとなった伝説や叙事詩からの出題もありました。これもアニメ関連の出題に該当するとも言えますね。日本史Bでは「くまモン」や「ひこにゃん」等のゆるキャラが登場しましたが、残念ながらイラストまでは掲載されていませんでした。

今年は英語の筆記で、未来の地球(?)に降り立ったと思われる、英語を話すタコ型宇宙人による宇宙探査日誌を読み取る問題が出題されるなど、ユニークな問題が多い印象でした。文系科目では特にリスニングが難化したようですが、全体を通して際立った悪問も見られませんでした。さて、2日目はどうなるのでしょうか・・・?

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