問題1.1.6
$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n=\alpha、\displaystyle \lim_{n \to \infty} b_n=\beta$を満たす有理数列$\{a_n\}$、$\{b_n\}$を用いて定義される数列$\{a_n b_n\}$は常に収束し、その極限は$\{a_n\}$、$\{b_n\}$の取り方によらないことを示せ。
《ポイント》
定理1.1.1(教科書)の積の極限に関する証明です。
数列の取り方によらないことを示すのがこの問題の肝です。そこで1.4で扱う$\epsilon$-$\delta$論法を利用するため、やや難しい問題と言えます。
($\epsilon$-$\delta$論法を未習の人は先に1.4の内容を済ませましょう)
《解答例》
$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n=\alpha$より、$n>N_1$ならば$|a_n-\alpha|<\epsilon_1$($\epsilon_1$:任意の実数)となるような自然数$N_1$が存在する。また、$\displaystyle \lim_{n \to \infty} b_n=\beta$より、$n>N_2$ならば$|b_n-\beta|<\epsilon_2$($\epsilon_2$:任意の実数)となるような自然数$N_2$が存在する。
ここで、
$\begin{align} |a_n b_n-\alpha \beta| &= |a_n b_n-\alpha b_n+\alpha b_n-\alpha \beta| \\ &= |(a_n-\alpha) b_n+\alpha(b_n-\beta)| \\ & \leqq |a_n-\alpha| |b_n |+|b_n-\beta| |\alpha| \\ & \leqq \epsilon_1 |b_n |+\epsilon_2 |\alpha| & \cdots \cdots (*) \end{align}$
と変形できる。数列$b_n$は有界だから、$|b_n |<M$となるようなある実数$M$を考えると、$$(*) \leqq \epsilon_1 M+\epsilon_2 |\alpha|$$となるが、$\epsilon$を任意の実数として$$\epsilon_1 M+\epsilon_2 |\alpha|<\epsilon$$となるような$\epsilon_1 、\epsilon_2$をとることが可能だから$(*)<\epsilon$となる。
これより、$N_1、N_2$のうち大きい方を$m$とすると、$n>m$ならば$|a_n b_n-\alpha \beta|<\epsilon$となるような自然数$m$が存在する。以上の議論は$a_n、b_n$の取り方に依っていない。
故に数列$\{ a_n b_n \}$は常に収束し、その極限値は$a_n、b_n$の取り方に依らず$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n b_n =\alpha \beta$である。
《コメント》
$\epsilon$-$\delta$論法は上記のような極限を扱う抽象的な証明で重宝します。何を根拠にどんな変形や置き換えをしているのか、しっかり理解しましょう。
教科書にも数列の積の極限を与える証明がありますが、上の解答はそれをもっと詳しく書いたものです。
復習例題1.1.6
$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n=\alpha、\displaystyle \lim_{n \to \infty} b_n=\beta$を満たす有理数列$\{a_n\}$、$\{b_n\}$を用いて定義される数列$\{\dfrac{a_n}{b_n}\}$は常に収束し、その極限は$\{a_n\}$、$\{b_n\}$の取り方によらないことを示せ。