ホルムズ海峡封鎖は我々に何を迫るのか

ホルムズ海峡をめぐる現在の軍事的・経済的危機は、もはや単なる「中東の紛争」では片付けられない状況と化している。これは世界のエネルギー供給網、海上輸送網、保険市場、化学原料や肥料の流通、さらには食料価格と家計の実質所得にまで連鎖する、グローバルなシステミック・リスクが具現化したものと言える。UNCTAD(国連貿易開発会議)は、ホルムズ海峡の混乱がエネルギー市場、海運、グローバル・サプライチェーンを同時に圧迫すると警告している。多くのシンクタンクもまた、今回の事態は中東と世界との貿易の停滞と金融市場の不安定化を引き起こし、世界経済の成長を押し下げかねないと予想している。

本稿の主眼は、ホルムズ海峡の平時の機能と、今回の軍事危機によってそれがどのように毀損されているかを確認した上で、今後どのような物資の不足と経済的摩擦が生じ、どのようなシナリオで悪化または改善していくかをシミュレーションすることにある。現時点ではガソリン価格以外に市民生活に重大な支障は生じていないが、店頭や統計にまだ表れていない影響は今後確実に私たちの家計を苦しめることになる。既にメーカー各社は塗料やプラスチック製品の値上げを予告しており、医療用品の在庫も心配される状況となりつつある。日本国内では、国家備蓄と民間在庫が短期間ではあるが一定のバッファとして機能する一方、中東情勢が改善しなければ価格転嫁や化学品の供給制限の影響が時間差を伴って顕在化するであろう。

本稿では我々が認識しておくべき現状と、各家庭が実践できる今後の対応策を整理する。

“ホルムズ海峡封鎖は我々に何を迫るのか” の続きを読む

DeepSeekはAI界のプロメテウスか?

2025年1月20日、中国のAI開発スタートアップDeepSeek社が、新たな推論モデル 「DeepSeek-R1」 を発表した。このモデルは、現時点での最高性能を誇るOpenAI社のChatGPT-o1モデルに匹敵、あるいは凌駕するとも言われる高い性能を示し、全世界で爆発的に普及した。

性能もさることながら、真に驚くべきはその開発コストの低さである。DeepSeek-R1の開発費用は、ChatGPT-o1のわずか1/10以下とされ、これまでAI開発に不可欠とされてきた巨額の投資が必ずしも必要でないことを示唆している。特に注目されるのは、米国による中国向けGPUの輸出規制のためにDeepSeekが NVIDIAの型落ちGPU「H800」 を使用してモデルの構築に成功した(と言われている)点である。これは、莫大なコストをかけて最先端のGPU、H100やB200を大量投入する米国のAI開発とは対照的である。一部では「GPUの輸出規制」というハンデが却って中国企業の技術向上を促進してしまった、という意見も見られる。

DeepSeek-R1は単にハードウェアの最適化によってコストを削減しただけではなく、モデルの学習方法やアーキテクチャのブレイクスルーにより、技術的にも革新的な手法が取り入れられている。このため、コスト面の優位性に加え、学術的な関心をも引きつけているという側面がある。

これらの優位性によってDeepSeek社は価格破壊レベルの安さでAPIを提供しており、米国のAI事業者の競争力低下が危惧される事態になった。実際、このニュースを受けてNVIDIAの株価は17%程度下落し、約90兆円(トヨタ自動車の時価総額のおよそ2倍)が失われたことが話題になった。またAIの学習に大量のGPUが必要でない可能性が開けたことで、電力消費の増大を見込んでいた電力インフラ関連株も大きく売られた。

しかし現在、DeepSeekがOpenAIの規約に違反して「ChatGPTの出力結果を教師データとしてDeepSeek-R1モデルの訓練に利用している」との報道があり、OpenAIとMicrosoftが調査に乗り出す意向を示している。不正なデータ利用の可能性を受け、米海軍ではセキュリティと倫理的な懸念から業務でのDeepSeekの使用禁止を通達。イタリアではDeepSeekのダウンロードが禁止されるなど、データの安全性が疑問視されるDeepSeekの利用制限に踏み切る動きも出てきている。

今、生成AI開発の舞台で何が起こっているのか、少し整理してみたい。


※お断り:本稿の内容の大半は2025年1月末頃に執筆されたものです。最新の情報を参照するように努めていますが、4月現在では状況が少し変わっている可能性があります。記事の内容そのものは一般論的なものになっていますが、上記の点についてお含みおきください。 “DeepSeekはAI界のプロメテウスか?” の続きを読む