地球の表面で二地点を結ぶ最短経路は、地図の上では曲線に見えることがあります。地球を球とみなした場合、最短経路は大円の短い方の弧です。一方、メルカトル図法の直線は、一定の方位を保つ経路を表します。この二つは、一般には同じではありません。
球の表面では、直線をそのまま引けない
空間内で二地点を直線で結べば、その線は普通、地球の内部を通ります。地表から離れずに移動する条件では、この直線を使えません。球面上で最も短い道を探すと、球の中心を通る平面で球を切った円に沿う経路が得られます。この最大の円が大円です。
赤道や、向かい合う経線を合わせた円は大円です。赤道以外の緯線は、中心を通らない平面で球を切った円なので、大円ではありません。北緯40度をずっと東へ進む道は、地図では横一直線に見えても、球面上の最短経路とは限らないのです。
二地点が正反対にある対蹠点の場合は、最短の半円が無数にあります。また、大円の長い方の弧まで最短というわけではありません。ここでは、正反対でない二地点の間を短い弧で結ぶ場合を扱います。
メルカトル図法の直線が表すもの
通常のメルカトル図法は、経線を平行な縦線、緯線を横線として描きます。緯線の間隔は高緯度ほど広がります。この投影では、全ての経線と同じ角度で交わる経路、すなわち等角航路が直線になります。航行の方位を一定に保つという意味で便利な性質です。
しかし、方位を一定に保つ条件と、移動距離を最小にする条件は異なります。大円に沿って進む場合、多くの経路では、地点ごとの北に対する進行方位が変わります。大円がメルカトル図法で曲がって見えても、必ずしも遠回りではありません。
同じ北緯40度の二地点で計算する
球の半径を6,371kmと仮定し、北緯40度・西経30度の点と、北緯40度・東経30度の点を比較します。以下は球面上の説明用計算で、地形や国境、実際の運航ルートを考慮したものではありません。

同じ緯線に沿う長さは、緯線の半径$R\cos40^\circ$に経度差のラジアンを掛けて、$$L_{\mathrm{parallel}}=6371\cos40^\circ\times\frac\pi3\approx5111\ \mathrm{km}$$です。
二地点の緯度を$\varphi_1,\varphi_2$、経度差を$\Delta\lambda$とすると、球の中心角θ(ラジアン)は$$\cos\theta=\sin\varphi_1\sin\varphi_2+\cos\varphi_1\cos\varphi_2\cos\Delta\lambda$$で求まり、短い大円弧の長さは$R\theta$です。この例では約5,008kmとなり、緯線沿いより、丸め前の値の差で約102km短くなります。
大円経路は途中で北緯約44.10度まで北へ寄ります。一度北へふくらむ方が短いという結果は、平面の地図だけを見ていると意外ですが、球面の幾何では自然に生じます。数値は図を作るための球面補間と、上の距離式で照合しました。
別の図法なら、大円が直線になる
球の中心から平面へ投影する心射図法では、大円が直線として描かれます。大円を含む平面が球の中心を通り、投影面との交わりが直線になるためです。ただし、これは距離や面積も正しく表すという意味ではありません。中心から遠い所ほど大きくひずみ、全球を一枚に表示する用途にも向きません。
したがって「地球の最短経路は地図では必ず曲がる」という説明も不正確です。図法によりますし、メルカトル図法でも赤道や経線に沿う大円は直線として表せます。
実際の地球と、飛行機の経路
地球をより精密に扱うときは、完全な球ではなく回転楕円体を使います。その表面上の測地線を求める計算法があり、長距離の正確な距離・方位計算に使われます。さらに実際の航空路は、風、空域、気象、運航上の制約にも影響されるため、最短の幾何学的経路と常に一致するわけではありません。
地図上で曲がっている線を見たときには、「何を平面へ写した線か」「どの図法か」「最短なのは距離か、時間か」を順に確認するとよいでしょう。地図の見た目だけで遠回りと決めないことが、球面上の道を理解するコツです。
参考資料
- USGS「Map Projections」:メルカトル・心射図法・大円と等角航路の公式解説
- Charles F. F. Karney「Algorithms for geodesics」:回転楕円体上の測地線の計算法
資料確認日:2026年10月2日。本文の数値例・模式図は、特記したものを除き本記事の説明用に作成しています。
