放射性炭素年代測定は、試料に残った炭素14の割合から、炭素の交換が止まってからの時間を推定する方法です。中心となる数理は「残っている量に比例して減る」という指数関数的な崩壊です。ただし、実際の年代測定では、初めの炭素14の割合、汚染、海洋などの影響を調べ、暦年への較正を行います。
本記事では、まず高校数学の指数・対数と微分を使って基本式を導き、その後で「計算上の経過時間」「慣用的な放射性炭素年代」「暦の年代」を区別します。
炭素14はどこから来るのか
炭素には、原子核の中性子数が異なる同位体があります。炭素12と炭素13は安定ですが、炭素14($^{14}\mathrm{C}$)は放射性同位体で、ベータ崩壊によって窒素14になります。
大気中では、宇宙線に由来する中性子と窒素14の反応などによって炭素14が生成されます。代表的な反応と崩壊は、$$^{14}_{7}\mathrm{N}+{}^{1}_{0}\mathrm{n}\longrightarrow{}^{14}_{6}\mathrm{C}+{}^{1}_{1}\mathrm{p}$$ $$^{14}_{6}\mathrm{C}\longrightarrow{}^{14}_{7}\mathrm{N}+\mathrm{e}^{-}+\bar{\nu}_{\mathrm{e}}$$と書けます。$\bar{\nu}_{\mathrm{e}}$ は電子反ニュートリノです。
生成された炭素14は二酸化炭素などの形で炭素循環へ入り、植物の光合成や食物連鎖を通じて生物に取り込まれます。生物が炭素を取り込んでいる間は、周囲の炭素源の同位体組成を反映します。一方、木の年輪が形成されるなどして、その部分の炭素交換が実質的に止まると、残った炭素14は崩壊によって減っていきます。生成過程と半減期はANSTOの解説でも説明されています。
「生物が死んだ瞬間から時計が動く」という説明は入口として便利ですが、正確には測っている炭素が、いつ外部との交換をやめたかが問題です。木の内側の年輪なら、伐採時より前に形成された炭素を測ることになります。
なぜ指数関数で減るのか
炭素交換が止まった時刻を $t=0$ とし、そのときの炭素14原子数を $N_0$、時刻 $t$ での原子数を $N(t)$ とします。まず、崩壊以外による出入りを無視できる理想的な閉鎖系を考えます。
一つの原子が短い時間 $\Delta t$ の間に崩壊する確率を、およそ $\lambda\Delta t$ とします。$\lambda$ は崩壊定数で、単位は時間の逆数です。原子が $N$ 個あれば、この短い時間に崩壊する個数の期待値は約 $\lambda N\Delta t$ なので、$$\Delta N\simeq-\lambda N\Delta t$$となります。
多数の原子を連続量として扱い、$\Delta t\to0$ とすれば、$$\frac{dN}{dt}=-\lambda N$$を得ます。両辺を $N$ で割って積分すると、$$\int_{N_0}^{N(t)}\frac{dN}{N}=-\lambda\int_0^t dt$$より、$$\ln\frac{N(t)}{N_0}=-\lambda t$$したがって、$$\boxed{N(t)=N_0e^{-\lambda t}}$$です。
ポイントは、毎年同じ「個数」が減るのではなく、短い時間ごとに残っている原子の同じ「割合」が崩壊することです。原子が少なくなるほど、単位時間に崩壊する個数も少なくなります。個々の原子がいつ崩壊するかは確率的ですが、多数の原子をまとめると滑らかな曲線で扱えます。
半減期から年代の式を作る
初めの半分になるまでの時間を半減期 $T_{1/2}$ とすると、$$\frac12=e^{-\lambda T_{1/2}}$$なので、$$\lambda=\frac{\ln2}{T_{1/2}}$$です。炭素14の物理的な半減期を約5730年として、この理想モデルは$$\frac{N(t)}{N_0}=2^{-t/5730}$$と表せます。
残存割合を $f=N(t)/N_0$ と置き、時間について解けば、$$\boxed{t=-\frac{T_{1/2}}{\ln2}\ln f=T_{1/2}\log_2\frac1f}$$を得ます。$f$ は無次元で、半減期を年で入れれば $t$ も年になります。

たとえば、初めの25%が残っているなら $f=0.25=1/4$ なので、$$t=5730\log_2 4=11460\ \mathrm{年}$$となります。これは半減期が2回経過したという意味です。半減期1回で全部なくなるのでも、2回でゼロになるのでもありません。
ここまでの計算は、初期量 $N_0$ が分かり、炭素の出入りがなく、半減期に従って減少したという理想モデルです。この11460年という値を、そのまま発掘試料の確定した暦年代に置き換えることはできません。
実際には何を測定する?
試料が大きければ炭素14の総数も増えるため、原子数だけでは年代を比べられません。実際には、安定な炭素同位体に対する炭素14の比や、炭素量あたりの放射能を測り、標準試料と比較します。
放射能、つまり単位時間あたりの崩壊数は $A(t)=\lambda N(t)$ です。したがって、条件をそろえれば $A(t)/A(0)$ も同じ指数関数で減ります。従来の方法は崩壊を検出して測り、加速器質量分析法(AMS)は同位体を分離して炭素14の量を測ります。AMSでも試料の選び方や前処理は重要で、オックスフォード大学の解説には、骨からコラーゲンを取り出す工程などが紹介されています。
さらに、生物や化学反応が同位体をわずかに選び分ける「同位体分別」の補正も必要です。「昔の生物はすべて現在と全く同じ比率で炭素14を持っていた」と仮定して、生の測定値を式へ入れるだけでは十分ではありません。
5730年と5568年、二つの半減期の使い分け
物理現象の説明で使う約5730年と、慣用的な放射性炭素年代の計算で使う5568年は、役割が違います。後者はLibbyの半減期と呼ばれる歴史的な値で、測定結果を共通の尺度で報告するために用いられています。
同位体分別などを補正し、規定の標準へ規格化した炭素14の量を $F^{14}\mathrm{C}$ とすると、慣用年代は概ね$$t_{14}=-8033\ln(F^{14}\mathrm{C})$$で計算されます。ここで $8033\simeq5568/\ln2$ です。$F^{14}\mathrm{C}$ は先ほどの理想モデルの「初めの量に対する割合 $f$」とは定義が異なることに注意してください。
規格化した値が0.25なら、慣用年代は約11136 14C年BPとなります。BPの基準となる「現在」は1950年に固定されており、測定した年や記事を読んでいる年ではありません。定義と較正の必要性はオックスフォード大学「Radiocarbon Calibration」が参考になります。
この値から単純に1950を引いて「紀元前何年」と決めることはできません。また、5568を5730へ置き換えるだけでも暦年への変換は完成しません。大気中の炭素14濃度が、過去を通じて一定ではなかったからです。
暦年較正と、年代が一つに決まらない理由
暦年が別の方法で分かっている年輪などを測れば、「その暦年の試料が、何14C年BPとして測定されるか」という対応を作れます。この対応関係を使う操作が暦年較正です。
北半球の陸上試料用のIntCal20、南半球のSHCal20、海洋のMarine20など、炭素の由来に応じた較正曲線を選びます。IntCal20の原著論文は、独立に年代を定めた記録からの曲線構築と、55000 cal BPまでの対象範囲を示しています。ただし、曲線の範囲が広いことは、あらゆる試料をその限界まで高精度で測れるという保証ではありません。
較正曲線は単調な直線ではなく、曲がりや平らな部分があります。同じ測定値に対応する暦年の候補が複数に分かれる場合もあります。このため、結果は一点の年号よりも「ある確率に対応する年代範囲」として示すのが普通です。報告を読む際は、未較正のBPなのか、cal BP・cal BCE・cal CEなどの較正済みの表記なのか、使用曲線と範囲の確率を確認します。
何が年代をずらすのか
リザーバー効果:海水などは大気と直ちに同じ炭素14濃度になるわけではありません。古い炭素を含む水や食物に由来する試料は、同時代の陸上植物より古い放射性炭素年代を示すことがあります。貝殻や海産物を多く食べた動物などでは、適切な較正曲線や地域的な補正を検討します。
汚染:土壌の有機物や保存処理剤など、別の時代の炭素が混ざると結果が変わります。初めの基準に対する残存割合が $f$ の炭素へ、炭素量の割合で $c$ だけ基準相当の新しい炭素が混ざる単純モデルでは、$$f_{\mathrm{obs}}=(1-c)f+c$$です。$f=0.01$ の古い試料でも、$c=0.01$ の混入で $f_{\mathrm{obs}}=0.0199$ とほぼ2倍になり、かなり若く見積もられます。反対に、炭素14をほぼ含まない古い炭素の混入は、年代を古くする方向に働きます。
測りたい出来事とのずれ:古木の内側の年輪を含む炭は、火を燃やした時より古い年代を示し得ます。木材が再利用されていることもあります。測定が正確でも、測定対象と遺跡の出来事を結び付ける解釈を誤れば、出来事の年代は誤ります。これらの注意点はオックスフォード大学「Radiocarbon Dating」にもまとめられています。
適用範囲と、数式が教える限界
一般的な対象は木材、炭、種子、紙、繊維、保存状態のよい骨の有機成分などです。通常の放射性炭素年代測定の目安は数万年前、概ね5万年前程度までですが、限界は試料の状態・量・測定法などで変わります。炭素14が少なくなるほど、測定装置の背景やわずかな汚染の影響が相対的に大きくなるためです。
理想式を $f$ で微分すると、$$\frac{dt}{df}=-\frac{T_{1/2}}{f\ln2}$$となり、小さな測定誤差 $\sigma_f$ については$$\sigma_t\simeq\frac{T_{1/2}}{\ln2}\frac{\sigma_f}{f}$$です。同じ絶対誤差でも、残存割合 $f$ が小さいほど年代の不確かさが大きくなることが分かります。これは理想モデルの誤差伝播であり、実際には較正曲線や汚染などの不確かさも加わります。
また、石器そのものや、何億年も前の岩石の形成時期を、この方法で何でも測れるわけではありません。土器に付いた炭化物を測れば、対象はその炭化物です。何の炭素を取り出し、どの出来事を年代付けするのかを明確にする必要があります。
放射性炭素年代測定は、「指数関数を逆算する数学」と「試料の履歴を確かめる科学」の組み合わせです。式の導出だけでなく、炭素がどこから来て、いつ交換を止め、後から何が混ざったかまで考えると、測定値の意味を正しく読み取れます。
参考資料
- ANSTO:Improving carbon dating(炭素14の生成・5730年の半減期・年輪)
- Oxford Radiocarbon Accelerator Unit:Radiocarbon Dating(原理・適用対象・限界・リザーバー効果・汚染)
- Oxford Radiocarbon Accelerator Unit:AMS(測定と前処理)
- Oxford Radiocarbon Accelerator Unit:Radiocarbon Calibration(5568年・1950年基準・較正)
- Reimerほか(2020):The IntCal20 Northern Hemisphere Radiocarbon Age Calibration Curve(較正曲線の原著論文、DOI: 10.1017/RDC.2020.41)
資料確認日:2026年10月2日。本文の残存割合・混入率・計算例は説明用であり、実際の考古試料の測定結果ではありません。
