整数第1章第1節

1.1 整数問題とは

この節では巷で言われる「整数問題」というものがどのようなモノなのかを見ていきます。ちょっと長めの文章なので、斜め読みしてもらって結構です。

それでは、次の問題を見て下さい。


$m$を$2015$以下の正の整数とする。${}_{2015}\mathrm{C}_m$が偶数となる最小の$m$を求めよ。

(2015年度東京大学理科前期)


皆さん解けますか?

こういった問題を試験場で、つまり初見で、かつ制限時間がある中で解ける力が必要なのです。この問題は難しい部類に入る問題だと思いますが、整数の扱いに慣れていれば簡単に解答できてしまいます。

ではなぜこの問題は難しいと感じられるのでしょうか?

続いて、これに似た系統の問題を幾つか並べてみます。


素数$p$、$q$を用いて$$p^q+q^p$$と表される素数をすべて求めよ。

(2015年度京都大学理系前期)


$p$、$q$を異なる素数とするとき、等式$$2^{p-1}-1=pq^2$$を満たす$p$、$q$の組をすべて求めよ。

(2015年度九州大学理系前期改題)


どれもなかなか取っ付きにくい問題ですよね?

中にはこんなの簡単だ!という方もいるでしょうから、そういった方はどうぞ己の道を突き進んでください(笑)。いわゆる「整数問題」の最高峰とは上記のような問題なのです。もちろん、すべての大学でこんなに難しい問題が出題されている訳ではないので、あまりビビる必要はありませんが、「最難関」と言われる大学ではこうしたシンプルな問題が頻出なのです。

シンプルな問題は長文問題、例えば以下のような問題とは「解きにくさ」の性質が異なります。


$D$を$0≦x<y$を満たす整数の組$(x、y)$のなす集合とする。$x=0$である$D$の要素$(0、y)$を「レベル$0$である」という。次の操作$G$を考える。
操作$G$:レベル$0$でない$D$の要素$(x、y)$から新たな$D$の要素$ (x’、y’)$を作る。ここで$x’$は$y$を$x$で割った余りであり、$y’$は$x$である。
この操作を$(x、y)$に$n$回繰り返してレベル$0$になるとき、$(x、y)$は「レベル$n$である」という。$0$以上の$n$に対して、レベル$n$の$D$の要素$(x、y)$のうち、$y$が最小になるものを「レベル$n$の最小組」という。
(1)
$n=0、1、2$について、レベル$n$の最小組をすべて求めよ。それらが操作$G$の繰り返しで、どのようにレベル$0$になるかを書け。

(2)
操作$G$を1回行うことにより$(a、b)$が得られるような$D$の要素をすべて求めよ。

(3)
$n≧1$とする。$(a、b)$をレベル$n$の最小組とする。$(x、y)$をレベル$n$の組とすれば、$a≦x$となることを$n$についての数学的帰納法を用いて示せ。

(4)
(3)により、各$n≧1$に対し、レベル$n$の最小組がただ1つ定まることがわかる。
この組を$(a_n 、b_n)$と表すとき、$$b_{n+1}=a_n+b_n、a_{n+1}=b_n$$であることを示せ。

(2004年度北海道大学理系後期)


こうした長文証明題に初めてチャレンジする人にとっては、これは本当に数学の問題なのかと疑ってしまうほどの文章量です。(大抵の長文問題は見掛け倒しなので、慣れればどうってことはないのですが)

まず受験生の傾向として、見た瞬間に直感的に手が付けにくい、あるいは解きにくいという判断が下される問題には次の2種類のタイプがあります。

A:問題文が超短い

B:問題文が超長い

 

皆さんが学校で受験する(or 受験した)ような模試はとても良心的に設計されており、Aタイプの問題もBタイプの問題も入ってこないようになっています。

ところが実際の入試の現場では普通の問題(=今までに見たことがあるような問題)の他に、Aタイプの問題やBタイプの問題も出題されているのです。これでは試験本番でAやBのタイプの問題に遭遇したときに対処できる訳がありません。

難関大になればなるほど、AやBのタイプの問題はよく出題されます。そしてAタイプの問題は整数分野からの出題数が圧倒的に多いのです。(私の個人的な感覚ではBタイプの問題は微積分や確率の範囲で多いと感じます)最難関と言われる大学入試ではAタイプの整数問題(「短文整数問題」とでも名付けましょう)が頻出で、しかもそれが合否の分かれ目になることもしばしばあるのです。

それでは、なぜ最難関大が短文整数問題を好むのでしょうか。

これをお話しする前に、B問題について少し触れておきましょう。


なぜ受験生がB問題を避けるかというと、何と言っても問題文が長いからです。

何を当たり前のことを言っているんだという方、ごもっともです。しかし考えてもみて下さい。

問題文には当然ながら、問題の設定や条件などが書かれている訳ですが、これは問題を解く上での手掛かり、即ち「ヒント」になっています。つまり、問題文の長い問題というのは「ヒントの長い問題」ということになります。出題する側も問題文はなるべく短く済ませたいと思っているはずです。試験とは能力の有る者と無い者を振り分けるものなのですから、ヒントとなる問題文なんて短いに越したことはないのです。

それでもなお問題文を長くしなければならない理由とは、少しでも文章を削ると解けない受験生が続出する恐れがあるからです。言い換えれば、問題文を正しく読めば解答の方針を立てることができるということです。世の中の長文問題の大半は「誘導設問」のせいで長くなってしまっているので、一つひとつの問題を着実に解いていけば必ず完答できるようになっているのです。

それなのに受験生がB問題に手を付けないのは、「問題文の長い問題=難問」という等式を頭の中で勝手に成立させてしまっているからなのです。上記のことを踏まえれば、B問題を「捨て問」と即決するのは得策ではありません。時間的な制約もあるので完答はできないにしろ、問題全体をざっと見ておくこと、そしてできれば(1)や(2)くらいまでの設問で部分点を稼いでおくのが賢いやり方だと個人的には思っています(中には見た目通りの超難問、というパターンも無きにしも非ずですが…)。


一方、B問題の文章量に対してA問題の文章量というのは微々たるものです。つまりヒントがほとんど無いということを意味しています。ヒントのほとんど無いような問題に対してどうアプローチするのかを出題サイドは見ているのです。

長文のB問題が「読解力」を測る問題だとすれば、短文のA問題は「発想力」を測る問題だと言えるでしょう。

近年の学校教育の文脈では「発想力」は思考する能力と同一だと見なされていますから、A問題は「考える力」に直結した問題だと言えます。難関大ではその「考える力」を問う問題が頻繁に出題されているということです。そして整数分野は解法がパターン化しにくいため、思考力を測る素材が十分に揃っています。

ですから、短文整数問題とは「発想力」を問う問題としては格好の題材という訳です。教育改革が叫ばれる中、日本の高校生を知識一辺倒の勉強から脱却させるためかどうかは知りませんが、2015年から整数分野を高校数学の教科書に正式に復活させたこともあって、(大学のレベルに関わらず)近年の入試数学では整数分野からの出題が目立ってきました。

思考力・発想力というものは一朝一夕で身に付くものではありません。だからといって整数問題を苦手にしているままではいつまでたっても数学の成績は伸びません。難関大志望者の場合は整数問題で他の受験生に差をつけるくらいでなければ合格可能性は安定しないでしょう。


ではヒントが少ない問題にはどう対処すれば良いのでしょうか?

当然ながら、試験場で最後に頼りになるのは自分の頭の中にある知識だけです。ある程度の知識が蓄積されていなければ安定した成績は維持できません。前述の通り、整数分野はパターン化しにくい出題が可能な分野であり、斬新で奇抜な問題を作りやすい分野なのです。このことが、整数問題の捉えどころが無さそうに見える理由の一つなのです。

とは言っても整数問題にもある程度のパターンは存在しますし、定石となる考え方や手筋は存在します。残念ながら、これさえ知っていれば満点、というようなものは存在しません。しかし、様々な問題を解いた経験を積み、どんな問題が実際に出題されているのかを知っておくことは、受験をする上で非常に役立ちます。冒頭に示したような短文整数問題を解けるようになるためには、まず整数の世界の「常識」を知っておかなければなりません。

このコーナーの第2章には、ある程度の分類に沿って様々な整数問題を掲載しており、整数の世界の「常識」なるものも多数解説しています。量をこなして整数問題の耐性を身に付けておけば、ちょっとした問題では動じなくなるはずです。さらに慣れてくれば整数問題を解くことが楽しくなってくるはずです!(人によっては遠い未来の話に感じられるかもしれませんが・・・)

 

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