具体的な運動の解析に入る前に、運動にはどういう要素があるのかを復習しておきましょう。ここでは物体の変位と速度について復習します。「微分」という重要な数学的操作についても簡単に説明します。
変位=位置の変化量
力学で物体の運動を追跡する際は、物体の位置がどのくらい変化したのかを調べる必要があります。その際に用いられるのが「変位」と呼ばれる物理量です。
図.1次元座標における変位
変位とは位置の変化量を表し、正の値も取れば負の値も取ります。より具体的には、時刻
1点目は、物体の位置が「
「時刻を決めれば物体の位置が決まる」
という性質が横たわっているのです。あまりにも当たり前すぎて、誰も改めてマジメに考えることのない事実なのですが、これはとても重要な性質です。
2点目は、変位
「物体の位置はベクトルで与えられる」
ということを意味しています。位置はベクトルで与えられるので、その差分である変位もまたベクトルで与えられます。
力学的な運動を解析する上で重要な要素は「位置」と「時刻」です。「位置が時刻の(ベクトルの)関数になる」という考え方は、これから力学を学ぶ上での基礎となります。
速度=単位時間あたりの変位
変位をその間の時間間隔
速度 ・・・ ベクトル量(向き+大きさ)
速さ ・・・ スカラー量(大きさ)
※ベクトルは別名「有向線分」と呼ばれる量で「向き」という要素も含んでいます。日常会話でも「あの人は努力のベクトルがズレてるよね…」とか「意識のベクトルを外に向けましょう」とか言ったりします。
※日常生活レベルでは「速度」と「速さ」を厳密に使い分ける人は多くありませんが、物理の世界では厳密に区別されます。例えば、質量、長さ、エネルギー、電荷、温度などはスカラー量です。「でも電荷はプラスマイナスがあるからベクトルなんじゃないの?」と思われた方はなかなか鋭いですね! 実は、スカラーには「座標系に依存しないこと」が要請されています。つまり、止まっている人から見ても、動いている人から見ても、同じ量として観測されるものがスカラーなのです。確かに、プラスマイナスを考えれば電荷を1次元のベクトルと見なすことも可能ですが、+1の電荷は止まっている人から見ても、動いている人から見ても同じ+1の量として観測されます。この判断基準に照らせば電荷がスカラー量であることは明らかですよね。
力学では「瞬間の速度」が重要
「変位」と「速度」という2つの重要な概念について紹介しました。
上で述べた通り、ある時間
例えば、自動車の運転を想像してみて下さい。車を運転していると、気持ちよく走っている時もあれば、赤信号に止められている時もあって、ドライブ中のスピードはまちまちで一定ではありませんよね。もしスピードメーターに平均の速度しか表示されなかったらどうなるでしょうか? いま車がどのくらいのスピードで走行しているのかが全く分からないことになってしまいます。これはとてもキケンです!
・・・というのは極端な例ですが、何を伝えたいのかと言うと物体の運動を解析するには「瞬間の速度」が重要であるということです。
瞬間の速度を求める
ここでちょっとした微分学の出番です。点
図.ベクトルの向きが接線方向に近付く
マジメに数式で書くと次のようになります。
ここで、
時刻 における速度
要するに、時刻
例えば、ある点
(おまけ)多項式の微分公式
どうでしたか? 物体の位置を時刻の関数で表すことができれば、速度も求めることができるのです。とても面白いですよね!
ただし普段、力学の問題を解く際はいちいち定義に従って関数を微分したりしません。なぜなら、便利な微分公式があるからです。
この公式に従って計算すれば関数を簡単に微分することができます。高校では数学Ⅱの範囲の知識なので初めて見た人はよく分からないかもしれませんが、例えば
微分の計算をいちいち定義に従って進めるのは面倒、という訳で公式が活躍します。是非覚えておきましょう!