高校の有機化学:芳香族化合物の問題演習1

高校の有機化学:
芳香族化合物の問題演習1

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$\require{mhchem}$


問題(基本:☆☆☆★)

 

次の文章を読み、(1)~(3)に答えよ。なお、ここではベンゼン環の他に環状構造をもつ構造異性体は考えない

 

ベンゼンの水素原子の一つが別の基で置換されたものを一置換体という。同様にベンゼンの水素原子の二つが別の基で置換されたものを二置換体、水素原子の三つが別の基で置換されたものを三置換体という。
分子式が$\ce{C_8H_8O_2}$であるベンゼンの置換体には、多くの構造異性体が存在する。そのうち、$_{(\text{i})}$不斉炭素原子をもつ構造異性体が一つある。一置換体のエステルは $\fbox{    A    }$ 種類ある。また、二置換体の構造異性体のうち、メチル基が直接ベンゼン環に結合した化合物は $\fbox{    B    }$ 種類ある。さらに、$_{(\text{ii})}$三置換体では組合せが増え、数多くの構造異性体が存在する。

 

(1)空欄 $\fbox{    A    }$、$\fbox{    B    }$ にあてはまる数字を記せ。

 

(2)下線部$(\text{i})$の構造式を記せ。

 

(3)下線部$(\text{ii})$に関連して、三つの異なる基で置換された三置換体に共通の性質を次の(あ)~(お)からすべて選び、記号で記せ。ただし、該当するものがない場合は「なし」と記せ。

 

(あ) 塩化鉄(II)水溶液で呈色する。
(い) 炭酸水素ナトリウム水溶液と反応して二酸化炭素を発生する。
(う) ヨードホルム反応を示す。
(え) 銀鏡反応を示す。
(お) 還元すると第二級アルコールになる。

 

(2019年 北海道大学(後期) 大問3 I 問1)

まずは5~10分くらいで自力で解いてみましょう!


(考え方)

分子式が与えられているので、まず不飽和度を計算しておきましょう。不飽和度(水素不足指数:Index of hydrogen deficiency、IHD)は次の公式で計算できます。$$IHD=\dfrac{2C+2-H-X+N}{2}$$($C$$H$$X$$N$にはそれぞれ炭素水素ハロゲン窒素の数が入る;酸素は不飽和度を増減しない)これより、$$IHD=\dfrac{2 \cdot 8+2-8}{2}=5$$より、不飽和度は$5$です。

「ベンゼン環の他に環状構造をもつ構造異性体は考えない」とあるので、この化合物は不飽和な部分として「ベンゼン環1個+二重結合1個」を含むことが分かります。こうした条件はこの種の問題を解く際に役立つので、不飽和度の求め方は覚えておくべきです。

※注:ベンゼン環の不飽和度は、「二重結合×$3$+環構造」なので$4$と計算できます。

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(1)の解説

 

(1)は置換基の数え上げができればOKです。ベンゼンの化学式は$\ce{C_6H_6}$です。分子式が$\ce{C_8H_8O_2}$なので、ベンゼンの一置換体を考えるときは

$\ce{C_6H_5}+\ce{C_2H_3O_2}$
ベンゼン環+置換基

の組成を考えることになります。

図1.ベンゼン1置換体

したがって空欄 $\fbox{    A    }$には$\ce{C_2H_3O_2}$で表される置換基Xの数が入ります。そのような置換基のうち、エステル基を持つのは以下の3つだけです。

というわけで、空欄 $\fbox{    A    }$ には $3$ が入ります。

メチル基がベンゼン環に直接結合している二置換体を考えるときは

$\ce{C_7H_7}+\ce{CHO_2}$
(ベンゼン環+メチル基)+置換基

の組成を考えることになります。また、メチル基と$\ce{CHO_2}$の組成をもつ置換基Xの位置関係を考慮すると、オルト体・メタ体・パラ体の3種類を考える必要があります。

図2.メチル基を有するベンゼン2置換体

$\ce{CHO_2}$の組成をもつ不飽和度$1$の置換基はカルボキシ基か、ギ酸エステルのいずれかで、オルト位の置換体を書き出すと、

となります。他の位置異性体も同様の置換基を考えると全部で6個あることが分かります。

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(2)の解説

 

不斉炭素原子をもつためには異なる4つの置換基を持つ炭素がなければなりません(☜ 不斉炭素原子の定義!)。ベンゼン環だけで炭素が6個必要なので、残る炭素は2個です。ベンゼン環に含まれる炭素は不斉炭素にならないので、残りの2個のうち一方が不斉炭素になるような構造を考えます。

ここで、不飽和度が5であったことを思い出すと、この化合物は二重結合を1つ持つ必要があります。炭素間二重結合を持つ場合は不斉炭素が存在できないので、炭素酸素間に二重結合を持つことが分かります。(1)の空欄 $\fbox{    A    }$ を考えたときにエステルを全て書き出したので、これらの中で該当する化合物は無いことが分かります。したがって、求めたい化合物の構造にはアルデヒド基が存在することが分かります。そのような化合物で不斉炭素を持つ構造を探すと、以下の構造が該当します。

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(3)の解説

 

(3)は少し頭を使います。環構造はベンゼン環のみなので、2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-オール(下図)のような構造は考えません。

また、問題文に「三つの異なる基で置換された三置換体」とあるので、ヒドロキシ基が2個あるような化合物はNGであることに注意しましょう。ここを見落すと誤りの選択肢を選んでしまう可能性があります。

3置換体になるためには少なくとも1つはOH基を有する必要があるので、この化合物はいずれもフェノール類であることが分かります。したがって、「(あ) 塩化鉄(II)水溶液で呈色する。」を満たします。

不飽和度の条件から、この三置換体はC=C二重結合、もしくはC=O二重結合を有する必要がありますが、C=C二重結合を持つ三置換体はヒドロキシ基が2個になってしまうので「三つの異なる基で置換された三置換体」の条件を満たしません。これより、C=O二重結合が存在することが言えます。

そのような三置換体の構造を書き出すと、ヒドロキシ基の他にアルデヒド基とメチル基が必要となることが分かります。アルデヒド基を有する化合物は銀鏡反応を示しますから、「(え) 銀鏡反応を示す。」を満たします。その他の選択肢には該当しないので、選ぶべき項目は「(あ)、(え)」の2つです。

※緑色下線部について納得できない人のために解説しておきます。ベンゼン環と直接結合している原子はCかOのいずれかで、もしOH基を持たないのであればエーテルになっていることが必要です(もしエステルになっているならさらに炭素が1個必要なので三置換体にできません)。エーテルになるためにはその酸素原子の先にアルキル基が必要になり、そのような酸素は2つあるので結局三置換体にできません。こういう理由でベンゼン環と直接結合しているO原子はOH基として存在するしかなくなります。

$\require{mhchem}$


★答え

(1)空欄A:$3$  空欄B:$6$
(2)
(3)(あ)、(え)


 


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