高校の理論化学:
同位体って何ですか?
$\require{mhchem}$
原子番号と質量数
原子に含まれる陽子の個数を原子番号と言います。陽子の個数は元素ごとに決まっているので、原子番号もそれぞれの元素に固有の値をとります。
例えば、炭素原子は陽子を6個持つので、炭素の原子番号は6。アルミニウム原子は陽子を13個持つので、アルミニウムの原子番号は13。…といった具合です。
ここで、原子に含まれる3つの素粒子を比較してみます。
電気量 (C) | 質量 (g) | 質量比 | |
電子 | $\small -1.602 \times 10^{-19}$ | $\small 9.109 \times 10^{-28}$ | $\small \dfrac{1}{1840}$ |
陽子 | $\small +1.602 \times 10^{-19}$ | $\small 1.673 \times 10^{-24}$ | $\small 1$ |
中性子 | $\small 0$ | $\small 1.675 \times 10^{-24}$ | $\small 1$ |
陽子と中性子の質量はほとんど等しく、電子の質量は前者2つのおよそ1/1840であることが分かります。これはすなわち、原子の質量は陽子と中性子の個数によってほとんど決まっているということを意味します。
陽子の個数と中性子の個数の和を質量数と言います。つまり、
質量数=陽子の個数+中性子の個数
という等式が成り立ちます。
※電子が持つ電気量の絶対値は「電気素量」と呼ばれ$e$という文字で表されます。$e$はおよそ $1.602 \times 10^{-19}$ クーロンという値です。
同位体とは
元素の種類によって陽子の個数は決まっていますが、中性子の個数にはばらつきがあります。例えば、水素原子に含まれる陽子の個数は1個ですが、中性子の個数は0個の場合もあれば1個や2個の場合もあります。これは、質量数が1の水素原子の他に、2や3の質量数を持つ水素原子が存在するということを意味しています。
このように「原子番号が同じで質量数の異なる原子」を互いに同位体(isotope; アイソトープ)であるといいます。言い換えれば、原子核に含まれる中性子の個数が異なる原子のことです。同位体は質量が異なるだけで化学的な性質にはほとんど差がないことが知られています。
同位体には例えば以下のようなものが存在します。地球上には、質量数が$35$の$\ce{^35Cl}$と質量数が$37$の$\ce{^37Cl}$が大体 $3:1$ の割合で存在しているため、塩素の原子量は約35.5程度の値として求められます。
元素 | 同位体 | 存在比(%) |
水素 | $\ce{^1H}$ | 99.985 |
$\ce{^2H}$ | 0.015 | |
$\ce{^3H}$ (放射性「トリチウム」) |
微量 | |
炭素 | $\ce{^12C}$ | 98.90 |
$\ce{^13C}$ | 1.10 | |
$\ce{^14C}$ (放射性) |
微量 | |
酸素 | $\ce{^16O}$ | 99.762 |
$\ce{^17O}$ | 0.038 | |
$\ce{^18O}$ | 0.200 | |
塩素 | $\ce{^35Cl}$ | 75.77 |
$\ce{^37Cl}$ | 24.23 | |
アルゴン | $\ce{^36Ar}$ | 0.337 |
$\ce{^37Ar}$ | 0.063 | |
$\ce{^38Ar}$ | 99.6 | |
カリウム | $\ce{^39K}$ | 93.1 |
$\ce{^40K}$ | 0.012 | |
$\ce{^41K}$ | 6.88 |
半減期
同位体の中には、原子核が不安定で放射線を出しながら原子核が壊れていくものが存在します。このような同位体を放射性同位体と言います。
上の表で示した元素の他にも同位体を持つ元素は多く存在しますが、不安定な原子核を持つ同位体が多いです。
例えば、リンはほとんどが$\ce{^31P}$として安定に存在しますが、$\ce{^24P}$から$\ce{^46P}$の23種類の同位体の存在が知られており、その半減期は数秒~ナノ秒レベルまで様々です($1$ナノ秒は $1.0×10^{-9}$ 秒のオーダー)。
放射性同位体が放射線を放出して安定な原子核へと変化していく現象を、原子核の「壊変」と呼びます。原子核の壊変には「$\alpha$崩壊」と「$\beta$崩壊」の2種類があります。
$\alpha$崩壊:
$\alpha$線(ヘリウム原子核の流れ)を放出して壊変すること。ヘリウムの原子核は陽子2個と中性子2個からなるので、原子番号は2、質量数は4だけ減少する。$$(\text{例}):\ce{_{88}^{226} Ra -> _{86}^{222}Rn + _{2}^{4}He^{2+}}$$
$\beta$崩壊:
$\beta$線(電子の流れ)を放出して壊変すること。放出される電子は電子殻に存在する電子ではなく、中性子1個が崩壊して生じた電子。電子を放出した中性子は陽子に変化するため、原子番号は1だけ増加するが質量数は変化しない。$$(\text{例}):\ce{_{6}^{14} C -> _{7}^{14}N + e^{-}}$$
例を見ても分かる通り、$\alpha$崩壊は重い原子で起こりやすく、$\beta$崩壊は陽子の数と中性子の数のバランスが悪い原子で起こりやすいです。
放射性同位体が壊変して元の半分の量になるまでの時間を半減期と言います。例えば$\ce{^14C}$の半減期は約5700年です。地球では絶え間なく宇宙から飛来する宇宙線が大気中の窒素原子に当たることによって$\ce{^14C}$が生成しており、大気中の$\ce{^12C}$と$\ce{^14C}$存在比はほぼ一定($1:1.0 \times 10^{-12}$)に保たれています。したがって$\ce{^14C}$の半減期を利用すれば、生物の死骸や化石などの$\ce{^14C}$含有量から死後の経過時間が逆算でき、生息していた年代を推定することができるのです。