具体的な運動の解析に入る前に、もう一つだけ復習しておくべき物理量があります。それは「加速度」です。ここでは、加速度とその性質について復習します。
加速度=速度の変化量
これまでに「変位」と「速度」を学びました。しかし物体の運動を解析するには、これだけでは足りません。速度の変化量、つまり「加速度」を考えることでやっとマトモに質点の運動を考察できるようになるのです。その理由については後で述べることにして、まずは加速度の定義を確認しておきましょう。
速度の定義式において$x$を$v$に変えただけであることが分かると思います。速度の変化量を加速度と定義しているので、ある意味当然のことです。
【発展】ドット記法
大学の物理学の授業で力学を学ぶと、微分積分のオンパレードです。すると、微分記号を大量に書かなければならない訳ですが、いちいち $\dfrac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}$ などの記号を書いているのは時間と労力とインクの無駄です。
そこで昔の人は「ドット記法」と呼ばれる上手い書き方を編み出しました(「ニュートンの記法」とも呼ばれます)。
ドット記法では時間微分を$$\dot{x}=\dfrac{d x}{d t}, \ \ddot{x}=\dfrac{d^{2} x}{d t^{2}}, \ \ldots$$のように記述します。変数の上にドットを乗せるだけなので書くのがとても楽チンです。
この記法を使えば、速度$v$は$$v=\dot{x}$$となり、加速度$a$は$$a=\dot{v}=\ddot{x}$$と書き表せます。高校の参考書でドット記法を使っているものは少数(ほぼ無い?)でしょうが、こういった書き方も世の中にはあるのだということを覚えておきましょう。大学受験予備校の中には積極的にドット記法を利用した解説をしているところもあります。
物体を運動させる=加速度を与える
さて、加速度は運動を考える上でとても重要な存在です。なぜかと言うと、物体を運動させるには物体に何らかの力を及ぼす必要があるのですが、力を及ぼしたときに物体に加わる量が加速度だからです。
例えば、静止している物体を動かす(運動させる)には力が必要です。仮に力の大きさを$F$とし、物体の質量を$m$としたとき、物体には$\dfrac{F}{m}$という大きさの加速度が発生します。
図.力を及ぼすと加速度が発生する
これはニュートンによって編纂された大著「自然哲学の数学的諸原理」(通称「プリンキピア」(Principia):1687年刊行)を通して公表された「運動の3法則」のうち、第2法則と呼ばれるものに相当しています。
運動の第2法則:
質点の加速度$\vec {a}$は、そのとき質点に作用する力$\vec {F}$に比例し、質点の質量$m$に反比例する。
すなわち、ニュートンの運動の第2法則は$$\vec{F}=m\vec {a}$$というベクトルの方程式が成立するということを言っています。この関係式を「ニュートンの運動方程式」あるいは単に「運動方程式」と呼びます。
運動方程式は力学の根幹・土台とも言える凄い法則であり、ここに力学の粋が詰まっていると言っても過言ではありません。あらゆる力学的運動はこの方程式を出発点として解析することができるのです。
運動方程式の具体的な使い方については少し長くなるので、次回解説することにしましょう…。