可視光の波長と色の関係

可視光の波長と実際に目で見える色の関係についてまとめました。


色と光の波長$\lambda$の関係は、光速を$c$、光の振動数を$\nu$とすると、$$c=\nu \lambda$$となります。人間の目にはおよそ$350[\mathrm{nm}]$~$750[\mathrm{nm}]$の波長の光を認識できる網膜細胞が存在しており、この波長帯の光が可視光とされます。光のエネルギー$E$と光の波長$\lambda$の関係は、$$E=h\nu=\dfrac{hc}{\lambda}$$なので、光速$c$($2.998 \times 10^{8}[\mathrm{m/s}]$)および、プランク定数$h$($6.626 \times 10^{-34} [\mathrm{m^{2}kg/s}]$)を用いると、$350[\mathrm{nm}]=3.5 \times 10^{-7}[\mathrm{m}]$の光のエネルギーはおよそ$$E=5.676\times 10^{-19}[\mathrm{m^{2}kg/s^{2}}]$$となるので、$5.676\times 10^{-19}[\mathrm{J}]$であることが分かります。これは電子ボルトに直すと$3.542[\mathrm{eV}]$となります。同様に$750[\mathrm{nm}]$の光のエネルギーはおよそ$1.653[\mathrm{eV}]$となります。

●   ●   ●

美術の教科書などで「色相環」というものを目にしたことのある方は多いと思いますが、これは正確には波長と色の関係に対応しません。波長が$350[\mathrm{nm}]$のを下回る光は青寄りの黒色に見え、波長が$750[\mathrm{nm}]$を上回る光は赤寄りの黒色に見えますが、色相環には黒色の部分が無く、全ての色が連続的に接続されています。そのため、近紫外・近赤外の色は色相環では正確に表示できていません。

図.色相環

人為的に「七色」になるように作られている色相環ですが、補色(環の中心に対して反対側の色)の関係はこれを用いて容易に理解することができます。例えば、青色の補色は黄色であることが一目で分かりますし、赤色の補色が青緑色であることも分かります。シアン(cyan)マゼンタ(magenta)イエロー(yellow)は色の3原色と呼ばれ、この三色は色相環上で「色の三角形」を成しています。

色相環は美術デザインなどカラーコーディネートを必要とする場面でよく用いられるほか、物理や化学の分野で蛍光や吸光のスペクトルを調べる際にも使われることがあります。例えばある物質が黄色を呈しているとすると、その物質は補色である青色の光に相当する波長を吸収していることになります。青色光は約$450[\mathrm{nm}]$の光であり、その波長帯域の光のエネルギーはおよそ$2.7[\mathrm{eV}]$ですので、これがフランク・コンドン領域から励起状態($\mathrm{S}_{n}$状態)に垂直励起するのに必要なエネルギーである、ということが予測できます(※注:化合物によっては$\mathrm{S}_{1}$状態に垂直遷移するとは限らないので、$\mathrm{S}_{n}$状態としています。勿論、基底状態が一重項の$\mathrm{S}_{0}$状態でない場合もあります)。

一方で、蛍光スペクトルからは第一励起エネルギー準位($\mathrm{S}_{1}$状態のエネルギー準位)と基底状態のエネルギー差が分かります。吸光スペクトルと蛍光スペクトルの差分からは各励起状態におけるエネルギー準位を求めることができ、物理化学系の演習を行う授業でやったことのある人は多いかもしれません。

●   ●   ●

色と波長の対応のイメージを持って貰うために、リストを作ってみました。発光ダイオードの波長も併記しています。

赤 RED
700nm deep red – LED: some types, low brightness
680nm pure red – LED: ultra red, hyper red, deep red
660nm pure red – LED: ultra red, hyper red, deep red
655nm red
650nm red
645nm bright red – LED: 640-650nm
640nm bright red
635nm ’HeNe laser’ orange-red – LED: super red: 635nm
630nm ’HeNe laser’ orange-red – LED: HE red: 625-630nm
625nm orange-red – LED: HE red: 625-630nm
620nm clear orange-red 

橙 ORANGE
615nm reddish orange – LED: 615-617nm
610nm pure orange – LED: 609-610-612nm
605nm orange – LED: 605nm
600nm amber-orange – LED: 600nm

黄 YELLOW
595nm amber (warm yellow, yellow-orange)
592nm amber (warm yellow, yellow-orange) – LED: 590-592-595nm
590nm Natrium yellow
585nm yellow – LED: HE Yellow,
580nm pure yellow – LED: HE Yellow,
575nm lemon yellow, become a little greenish

黄緑 YELLOW-GREEN
570nm yellowish green (between yellow and green)
565nm yellowgreen – LED: early types
560nm yellowgreen – LED: pure green, 562nm
555nm yellowish lime green
550nm yellowish emerald green
545nm emerald green
540nm emerald green

緑 GREEN
535nm pure emerald green
530nm pure emerald green
525nm pure green
520nm pure green
515nm green
510nm greenish turquoise (RGB pure green)

青緑 BLUE-GREEN
505nm greenishe blue / turquoise
500nm greenishe cyan
495nm turquoisish, a little sky-blue

青 BLUE
490nm turquoisish, light sky-blue
485nm bright, a little azure-blue – LED: 480-485-488nm
480nm bright, a little azure-blue
475nm bright, a little greenish azure-blue
470nm bright blue with a liitle greenishe emphasis
465nm bright blue with a liitle greenishe emphasis
460nm bright blue
455nm bright blue
450nm pure blue – LED: Royal Blue

青紫 BLUE-VIOLET
445nm diep blue / violet-blue
440nm diep blue / violet-blue
435nm diep blue / violet-blue
430nm violettish blue – LED: 626-428-430nm
425nm violettish blue – LED: 626-428-430nm
420nm deep violettish blue

紫 VIOLET
415nm bluish-violet
410nm violet with bluish emphasis
405nm pure violet
400nm deep and more twilight color violet than 405nm

近紫外 Nearly-UV
395nm deep royal purple
390nm deep royal purple with reddish tint
385nm twilight purple with deep red blur
380nm almost no longer visible purple

こうして見ると結構狭い範囲の光しか肉眼で観測できないことが分かります。

●   ●   ●

$10$~$350[\mathrm{nm}]$の波長帯の光は紫外線(ultraviolet:UV)と呼ばれ、エネルギーの高い光です。紫外線は殺菌消毒や分光法に用いられたりするほか、生体に対してはビタミンDの合成、血行や新陳代謝の促進などの作用を示します。「UVスペクトル」と言うと、紫外光のスペクトルを指しています。紫外線は人間の目には視認できませんが、鳥や昆虫は紫外線が見えることが知られています。これは、花の中心に紫外線を当てると濃い黒紫色になるため、花の蜜を効率的に探し出せるように進化したためと考えられます。もっと波長の短い高エネルギーの電磁波にはX線やガンマ線などがあります。

$750[\mathrm{nm}]$を上回る波長の光は赤外線(Infrared radiation:IR)と呼ばれ、比較的エネルギーの低い光です。赤外線は波長によって、さらに近赤外線($750$~$2000[\mathrm{nm}]$)、中赤外線($2000$~$4000[\mathrm{nm}]$)、遠赤外線($4000$~$[\mathrm{nm}]$)に分けられます。バーベキューなどで、炎が落ち着いて赤くなった炭から放出される電磁波は、遠赤外線に相当します。赤外線はこのような熱源や、リモコンなどのセンサー、スペクトル分光法などに用いられており、最近では生体認証の分野でも用いられています。また、近赤外光を用いれば非破壊的な赤外線糖度検査も可能で、実際に製品が農協などで使われています。


 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です