エルミート演算子の性質に関する簡単なメモ書きです。
・証明①
$X = | \alpha\rangle\langle\beta| \iff X^{\dagger} = | \beta\rangle\langle\alpha|$ の証明
【方針】$X| \gamma\rangle \stackrel{DC}{\leftrightarrow}\langle\gamma |X^{\dagger}$ の関係を利用する。
いま、$X=| \alpha\rangle\langle\beta|$ であるから$$\begin{aligned}
X| \gamma\rangle &= | \alpha\rangle\langle\beta| \gamma\rangle \\
&=| \alpha\rangle(\langle \beta | \gamma\rangle) \\
&\stackrel{DC}{\leftrightarrow}\langle\alpha |(\langle \beta | \gamma\rangle)^{*} \\
&=\langle\alpha|(\langle\gamma | \beta\rangle)\\
&=\langle\gamma | \beta\rangle\langle\alpha|\\
&=\langle\gamma | \,Y
\end{aligned}$$ここで $Y=| \beta\rangle\langle\alpha|$ と置いた。ところで、$X| \gamma\rangle \stackrel{DC}{\leftrightarrow} \langle\gamma | \,Y$ を満たすような演算子$Y$は$X$のエルミート共役であるから $Y= X^{\dagger}$ が成立する。
・証明②
エルミート演算子の固有値は実数であることの証明
【方針】エルミート演算子の性質を利用して共役複素数が互いに等しいことを示す。
$\hat{F}$をエルミート演算子とし、その固有値と固有関数をそれぞれ$f$、$\psi$とする。ここで$\psi$は規格化されているものとする。
このとき、$$\hat{F} \psi=f \psi \quad \cdots (*)$$が成立する。この両辺のエルミート共役をとると$$\psi^{*}\hat{F}^{\dagger}=f^{*} \psi^{*} \quad \cdots (**)$$となる。式$(*)$の両辺に左から$\psi^{*}$をかけて座標で積分すると、$\displaystyle\int \psi^{*} \psi\, d q = 1$ であるから$$\int \psi^{*} \hat{F} \psi\, d q=\int f \psi^{*} \psi\, d q$$ $$\therefore \int \psi^{*} \hat{F} \psi\, d q=f$$を得る。また、式$(**)$の両辺に右から$\psi$をかけて座標で積分すると、$\displaystyle\int \psi^{*} \psi\, d q = 1$ であるから$$\int \psi^{*}\hat{F}^{\dagger}\psi\, d q=\int f^{*} \psi^{*}\psi\,d q$$ $$\therefore \int \psi^{*} \hat{F}^{\dagger} \psi\,d q=f^{*}$$を得る。
これは$$\langle\psi|\hat{F}| \psi\rangle=f, \quad \langle\psi|\hat{F}^{\dagger}| \psi\rangle=f^{*}$$を意味しており、$\hat{F}$がエルミート演算子のときこれらは等しくなることが必要である($\hat{F}$はエルミート演算子なので $\hat{F}^{\dagger}=\hat{F}$ が成立する)。
複素数$f$について $f=f^{*}$ が成り立つとき$f$は実数であるから、エルミート演算子の固有値は実数であることが示された。
(※)$\hat{F}$の固有値$f$は古典物理量$F$を測定したときの測定値となるから、$f$は実数でなければならない。これにより上記の条件が要請されている。
・証明③
エルミート演算子$\hat{F}$の異なる固有値に対応する波動関数が直交することの証明
【方針】$\displaystyle\int \psi_{i}^{*} \psi_{j}\,dq=0$ を示す。
$f_{i} \ne f_{j}$ かつ$$\begin{cases}
\hat{F} \psi_{i}=f_{i} \psi_{i} \quad \cdots (*) \\
\hat{F} \phi_{j}=f_{j} \phi_{j} \quad \cdots (**)
\end{cases}$$とする。式$(*)$の両辺について複素共役をとり、左から$\phi_{j}$をかけて座標$q$で積分すると、$$\int \phi_{j} \hat{F}^{*} \psi_{i}^{*}\,dq=\int \psi_{j} f_{i}^{*} \phi_{i}^{*}\,dq=f_{i} \int \psi_{j} \psi_{i}^{*}\,dq$$を得る。また、式$(**)$の両辺に左から$\phi_{i}^{*}$をかけて座標$q$で積分すると、$$\int \phi_{i}^{*} \hat{F} \psi_{j}\,dq=f_{j} \int \psi_{i}^{*} \psi_{j}\,dq$$を得る。$\hat{F}$はエルミート演算子であり$$\int \phi_{j} \hat{F}^{*} \psi_{i}^{*}\,dq=\int \phi_{i}^{*} \hat{F} \psi_{j}\,dq$$が成立するから右辺も等しく、$$f_{i} \int \phi_{j} \psi_{i}^{*}\,dq=f_{j} \int \phi_{i}^{*} \phi_{j}\,dq$$ $$\therefore \left(f_{i}-f_{j}\right) \int \phi_{i}^{*} \phi_{j}\,dq=0$$となる。ここで $f_{i} \ne f_{j}$ であるから両辺を $f_{i}-f_{j}$ で割ると$$\therefore \int \phi_{i}^{*} \phi_{j}\,dq=0$$を得る。これより、エルミート演算子$\hat{F}$の異なる固有値に対応する波動関数が直交することが示された。
証明②における(F\psi)*=F*\psi*は本当に正しいですか?
(F\psi)*=\psi*F^\dagではないでしょうか?
あと,\int\psi*\psidqの値が1になるためには\psiが規格化されてなければなりませんが,それはどの段階で仮定しましたか?
ファマイン さん
コメントを頂き、ありがとうございます。
証明②について、ご指摘の通り共役をとったときに$\hat{F}$が転置になっていなかったので修正しました。規格化についての仮定も付記しました。
ご確認頂けますと幸いです。