大きな丸い穴の開いたチーズは、絵や漫画でもおなじみである。この穴は、外からくり抜いたものではない。エメンタールなどでは、熟成中に生じるガスが内部に集まって空洞を作る。穴の数や形には、ガスの量以外の条件も関わる。
発酵で生じたガスが集まる
チーズの熟成には微生物の活動が関わり、その代謝によって二酸化炭素が生じる。ガスがチーズの組織の中に集まり、周囲を押し広げると、丸い空洞が成長する。穴は熟成の過程が残した構造である。
ガスが発生するだけで、同じ大きさの穴が均等にできるわけではない。気泡が生じ始める場所、チーズの硬さ、温度や熟成条件などによって、ガスの集まり方と組織の変形が変わる。発酵という化学・生物学の現象が、材料の力学とつながっている。
小さな粒子が穴の出発点になる
2015年に報告されたAgroscopeなどの研究は、微量の干し草由来の粒子が、チーズの穴の形成に関わることを実験で示した。微細な粒子は、気泡が育ち始める核として働き得る。肉眼では見えにくい材料が、大きな空洞の分布に影響するのである。
研究では、微細ろ過した乳に干し草の粉末を加えてチーズを作り、熟成中の穴を調べている。ガスが原因という説明を否定した研究ではなく、ガスがどこで空洞を作り始めるかという、もう一段細かな条件を明らかにした研究と読める。
穴のないチーズも正常である
チーズには多様な製法があり、大きな丸い穴を持たない種類も多い。成形時に粒の間へ残る隙間など、発酵ガスによる穴とは違う空隙もある。見た目の穴をすべて同じ仕組みで説明することはできない。
期待される穴の形は、そのチーズの品質設計の一部となる。食べ物の形を観察するとき、完成品だけでなく、微生物、原料、加工、熟成の条件をたどると理解が深まる。チーズの穴は、作り手が管理する見えない過程を、目に見える形で示している。
干し草の粒子に関する研究は製造条件を管理した実験である。家庭で食品へ異物を加えることを勧めるものではない。
参考資料
参考資料確認日:2026年10月14日。
