未来が現在の状態から一意に決まることと、その未来を実際に計算して当てられることは同じではない。カオスを示す系では、出発点のごく小さな違いが時間とともに増幅する。法則が正しくても、初期状態を有限の精度でしか測れなければ、遠い未来の細部には予測の限界が生じる。
決定論と予測可能性を分ける
振り子の位置や速度を測り、運動方程式から次の状態を計算する。ここには、方程式の妥当性、初期状態の測定精度、数値計算の誤差という別々の問題がある。方程式だけを完全に知っても、残る誤差がゼロになるわけではない。
安定した系では小さな誤差が減衰することもある。カオス的な領域では、近くから出発した二つの軌道の差が、ある時間範囲で急速に広がる。この初期値鋭敏性が、天気の細かな推移などを長期に当てる難しさと関係している。
精度を上げても、予測できる時間は無限には伸びない
差の大きさが近似的にδ(t)=δ(0)exp(λt)で増える範囲を考える。許容誤差を固定すると、予測できる時間は初期誤差の逆数の対数に比例する。初期誤差を10分の1にしても、予測時間が10倍になるわけではなく、増える時間はln(10)/λである。
ローレンツが1963年に扱った大気対流の簡略モデルは、少数の決定論的方程式でも複雑な非周期運動が生じることを示した。必要な方程式の数が多いから予測できない、という説明だけでは捉えられない問題である。
細部を当てられなくても、分布を調べられる
一点の初期値から一本の軌道を計算する代わりに、観測誤差の範囲で初期値を少しずつ変え、多数の予測を行う方法がある。結果の広がりから、どの展開が起こりやすいか、いつから予測の幅が大きくなるかを調べられる。
特定の日の天気を遠い将来まで当てる問題と、外部条件が変わったときの平均的な気候や極端現象の頻度を調べる問題も異なる。カオスは「何も分からない」という意味ではない。予測したい対象を、個々の軌道、確率分布、長期の統計量のどれにするかによって、使える情報と方法が変わるのである。
λは誤差の成長率を説明するために用いた量で、厳密にはリャプノフ指数と関係する。誤差は無制限に指数増大するのではなく、系の大きさなどによって飽和する。
参考資料
参考資料確認日:2026年10月13日。
