日本全図を拡大しても、住宅街の細い路地までは分からない。地図は、現実を同じ割合で縮めた写真ではないからである。縮尺と利用目的に合わせて、残すものを選び、形を簡略化している。
縮めると線が重なる
幅10メートルの道路を10万分の1にすると、紙の上では0.1ミリメートルになる。さらに小さな縮尺では、そのまま描いても見分けにくい。道路を読み取れる太さの線で描けば、今度は近くの川や鉄道と重なりやすくなる。
地名にも一定の大きさが必要である。すべての建物や細い水路、集落名を入れると、文字と記号で紙面が埋まってしまう。実物を均等に小さくするだけでは、必要な情報を読める地図にならないのである。
取捨選択・総描・転位
取捨選択は、目的に応じて表示する対象を選ぶことである。総描は、川や海岸線などの細かな凹凸を整理し、特徴を保ちながら形を簡略化することを指す。国土地理院は、縮尺に応じたこれらの処理を、地表を地図へ表す工夫として説明している。
近接する道路と鉄道を区別するため、記号を少しずらすこともある。これが転位である。一本ずつは見やすくなるが、線の中心が実際の位置そのものを示すとは限らない。縮尺に合った位置精度と、見やすさの両方を考えて表現している。
何を知りたい地図かで残すものが変わる
登山では尾根や谷、標高差が重要になり、鉄道の乗り換えでは駅と路線の接続関係が重要になる。同じ地域でも、地形図と路線図が違う姿になるのは、伝える情報の優先順位が違うためである。省略の少なさだけでは、地図の良し悪しを決められない。
画面で地図を拡大した場合も、もとの資料以上の細部が新たに測定されるわけではない。表示を拡大することと、詳しいデータに切り替わることを区別するとよい。地図に描かれていないものが現地にもないと判断する前に、その地図が何を表示するために作られたのかを読む必要がある。
縮尺の「大きい・小さい」は分数の大小である。1万分の1は10万分の1より大きな縮尺で、同じ紙面なら狭い範囲を詳しく描ける。
参考資料
参考資料確認日:2026年10月14日。
