美術館の照明を変えると、同じ絵でも色の鮮やかさや、画面全体の印象が変わる。絵の具が変化しなくても、目へ届く光が変わるためである。展示の照明には、作品をよく見せる仕事と、光による劣化を抑える仕事が重なっている。
光源と顔料の組合せで、届く色が変わる
物の色は、照らす光のうち、表面がどの波長をどれだけ反射するかに関係する。照明に含まれる成分が違えば、同じ顔料から戻る光も違う。ある波長の光が少ない照明では、それをよく反射する絵の具の特徴も現れにくい。
白っぽく見える光でも、含まれる波長の配分が同じとは限らない。暖かい白か冷たい白かを表す色温度と、物の色をどう見せるかという演色性は、別の情報である。同じ色温度の照明を選んでも、作品の色が同じように見えるとは限らない。
明るさ以外の条件も整える
カナダ保存研究所の技術資料は、美術館のLED照明について、色温度だけでなく色の再現やスペクトルを検討している。機器にLEDと書かれていることだけで、展示へ適した光の質が決まるわけではない。
照らす角度を変えると、絵の具の凹凸や額縁の影、表面の光沢も変わる。明るさを増すだけでは、反射が目に入り、かえって見づらくなる場合がある。鑑賞者の位置や周囲の壁も含めて、作品から目へ届く光を整える必要がある。
今の見え方と、将来の色を両方守る
光は一部の色材へ化学変化を起こし、退色の原因になる。紫外線を減らすことは重要だが、可視光による変化もあるため、紫外線が少なければ光の影響がなくなるというわけではない。照度に加え、照らす時間も管理の対象になる。
染料、顔料、支持体などの違いによって、光への弱さは異なる。作品を暗めに展示したり、展示期間を区切ったりすることには、将来も見られる状態を残す意味がある。美術館の照明は、今ここで色を伝える条件と、その色を長く残す条件を同時に調整しているのである。
照度は面へ届く光の明るさを、人の視覚の感度で重み付けして表す。照度が同じでも、スペクトルや材料が違えば退色への影響まで同一になるとは限らない。
参考資料
- Canadian Conservation Institute:LED Lighting in Museums and Art Galleries
- Canadian Conservation Institute:Light, ultraviolet and infrared
- Canadian Conservation Institute:Microfade testing services
参考資料確認日:2026年10月14日。
