ピアノの調律で、すべての音程を完全にはそろえられない理由

雑記Topに戻る

ピアノの調律とは、ずれた音を一つずつ正解の周波数へ戻す作業だと思われやすい。実際には、複数の音程の関係をどう配分するかという問題がある。きれいに響く整数比をすべての調で同時に実現することは、数の性質からできない。

五度を積むと元の音に戻らない

理想化した純正な完全五度では、二つの音の周波数比が3対2になる。これを12回積み重ね、必要に応じてオクターブを移すと、鍵盤上では元と同じ音名に戻るはずである。

ところが、計算すると (3/2) の12乗と2の7乗は一致しない。前者を後者で割った値は531441/524288となり、わずかに1より大きい。純正な五度だけで音の輪を閉じようとすると、最後に食い違いが残るのである。

平均律は食い違いを配分する

十二平均律は、周波数が2倍になる一オクターブを、同じ周波数比の12段階に分ける。隣り合う音の比は2の12乗根である。どの調でも同じ間隔の構造を使えるため、転調や移調を扱いやすい。

その代わり、五度や長三度などの音程は、単純な整数比から少しずつずれる。これは調律の失敗ではなく、さまざまな調を一台の楽器で使うための設計である。白鍵と黒鍵の並びには、響きの純粋さと運用の自由度の折り合いが刻まれている。

調律は数学だけでは終わらない

実際のピアノでは、弦の状態、楽器ごとの特性、音の重なり方を聴きながら調整する。基準の音を合わせても、楽器全体として自然に聞こえるかどうかは別の問題である。調律師は、周波数の測定と耳による判断を組み合わせる。

合唱や弦楽器では、演奏中に音の高さを動かせる。固定された鍵盤楽器とは、和音を整える自由度が異なる。どの音律が唯一正しいかではなく、何を演奏し、どのような響きを求めるかによって、選ぶ配分が変わるのである。

ここでいう「同じ間隔」は周波数の差ではなく比が等しいという意味である。平均律の一半音は、低音域と高音域で同じHz差にはならない。

参考資料

参考資料確認日:2026年10月14日。

雑記Topに戻る