録音した自分の声を聞いて、普段の声より高い、細い、よそよそしいと感じることがある。録音機が必ず声を大きく変えているわけではない。話している本人と、録音を聞く本人では、音を受け取る経路が違うのである。
話すときには、体の内側からも音が届く
自分が発した声は、空気を通って耳へ届く。それと同時に、発声による振動が頭部の骨や組織を通じても伝わる。普段聞いている自分の声は、外から来る音と、体を介した振動が重なった感覚である。
録音をスピーカーで再生すると、主に空気を通る音を聞くことになる。頭部を通る経路では周波数成分の伝わり方も変わるため、その成分が抜けると声の響きが違って感じられる。慣れ親しんだ声と、録音の声の差には、物理的な理由がある。
自分の声だと分かる手掛かり
2023年の研究は、本人と他人の声を混ぜた刺激などを使い、空気を通して聞く条件と骨伝導で聞く条件を比較した。骨伝導の条件では、自分と他人の声の区別が改善した一方、よく知る他人の声の区別では同じ効果が見られなかった。
この結果は、自分の声の認識が、単に聞き慣れた音の記憶だけでは説明できないことを示唆する。発声時に伴う振動や感覚が、自分らしさの手掛かりにもなる。音色が低く変わることだけで、すべての違いを説明するのも十分ではない。
録音には、録音の条件もある
マイクの位置、部屋の反響、録音機器や再生機器の特性によっても声は変わる。スマートフォンを顔へ近付けた録音と、広い部屋の遠くで録った音では、同じ人でも響きが異なる。録音された一つの音を、他人全員が聞いている声の完全な再現とは言えない。
違和感を考えるときは、体内から届く経路の有無と、機器や空間による変化を分けると分かりやすい。どちらか一方だけが本当の声なのではなく、同じ発声を異なる位置と経路で聞いているのである。普段の自分に最も近い聞こえ方は、本人だけが経験する特殊な条件でもある。
本文は通常の発声と録音で生じる聞こえ方の差を説明したものである。骨伝導を使った実験も、自然に話している際のすべての感覚を再現するものではない。
参考資料
- Orepicほか:Bone conduction facilitates self-other voice discrimination
- 同研究の補足資料・Royal Society figshare
参考資料確認日:2026年10月14日。
