日本の標高0メートルは、原則として東京湾の平均海面を基準にしています。したがって、海抜10メートルの場所は「すぐ近くの海の、いまの水面から10メートル上」とは限りません。高さを比べるには、どの基準面を使っているかをそろえる必要があります。
さらに、2025年4月1日には全国の基準点の標高成果が改定され、衛星測位を基盤とする仕組みに移行しました。東京湾平均海面という基準の意味と、高さを全国へ伝える測量の方法を分けると、この変更も理解しやすくなります。
どこの海を、いつ測ったのか
海面は潮の満ち引き、波、風、気圧などで動きます。一瞬の水面をそのまま高さのゼロにすると、同じ場所の標高が測るたびに変わってしまいます。そこで、長期間の観測から平均的な海面を定めました。
日本の基準の出発点となったのは、東京・隅田川河口の霊岸島での潮位観測です。国土地理院によると、1873年6月から1879年12月までの観測に基づいて東京湾平均海面が定められました。場所は現在の東京都中央区新川に当たります。これがT.P.と表される高さの基準です。詳しくは国土地理院「平均海面」を参照してください。
重要なのは、この基準が「今日の東京湾全体の水面の平均」を毎日求め直したものではない点です。潮位の変動や長期的な海面の変化を調べるためにも、比較のものさしとなる基準を区別して扱います。
海面のゼロを陸上に残した「日本水準原点」
毎回、霊岸島まで戻って海面を測るのは不便です。そこで、高さの基準を陸上の安定した標識に結び付けるため、1891年に東京・永田町に日本水準原点が設けられました。
2026年10月時点の原点数値は、東京湾平均海面上24.3900メートルです。原点という名前でも、その標識自体が標高0メートルの場所にあるわけではありません。「この目盛りの高さは24.3900メートル」と分かっていれば、そこから高低差を測って別の場所の高さを決められます。
原点数値は過去に地震に伴って改定されています。現在の値は2011年の東北地方太平洋沖地震に伴う改定後の値です。陸上の標識も地殻変動で動くため、基準の維持には観測と点検が欠かせません。日本水準原点の公式解説には、構造と数値の変遷が整理されています。
海はつながっているのに、どこでも同じ高さではない?
海水が十分に静まれば、その水面は重力の働き方に従った面になります。地球の重力場と自転を考慮した等ポテンシャル面のうち、平均海面におおむね対応するものがジオイドです。陸地の下へも仮想的に延長して考えます。
地球内部の密度分布などは一様ではないため、ジオイドは完全な球面や滑らかな回転楕円体とぴったり一致するわけではありません。また、現実の海には海流や水温・塩分の違いなどがあるため、各地で観測する平均海面も一つのジオイドと完全には一致しません。
「海はつながっているのだから、どの港の平均潮位も同じはず」とは言い切れないのです。国土地理院のQ&Aでも、日本周辺の平均海面の地域差が説明されています。
このため、日本では原則として共通の東京湾平均海面を基準にします。ただし、独自の平均海面を高さの基準にしている離島もあります。「日本のすべての島で、例外なく同じゼロ」と覚えるのは正確ではありません。
GPSが出す高さと「標高」はどう違う?
GPSなどのGNSS(全球測位衛星システム)では、位置を幾何学的に扱います。その基準となる滑らかな面が基準楕円体で、そこからの高さを「楕円体高」といいます。一方、普段使う標高は、重力に関係する高さの基準面からの高さです。
| 記号 | 名前 | 何と何の間か |
|---|---|---|
| $h$ | 楕円体高 | 基準楕円体から地上の点まで |
| $N$ | ジオイド高 | 基準楕円体からジオイドまで |
| $H$ | 標高 | 高さの基準面から地上の点まで |
基本的な関係は$$H\simeq h-N$$です。楕円体に垂直な方向と重力の方向の細かな違いを省いた関係として理解すればよいでしょう。たとえば、説明用に $h=50\,\mathrm{m}$、$N=40\,\mathrm{m}$ と置けば、標高は約10メートルになります。衛星測位で50メートルという値を得たからといって、そのまま海抜50メートルとは言えません。

なお、スマホの「標高」アプリには、ジオイドの補正、地図の標高データ、気圧計などを使って表示を求めるものがあります。画面の数値が楕円体高なのか補正済みの標高なのかは、アプリや機器の仕様を確認する必要があります。
2025年の標高改定で変わったこと
国土地理院は2025年4月1日、電子基準点・三角点・水準点などの標高成果を「測地成果2024」へ改定しました。従来の長距離の水準測量では、全国を測り終えるまでに長い時間がかかり、地殻変動や累積誤差によるずれが問題となっていました。
新しい仕組みでは、電子基準点の衛星測位と、重力観測などから構築した「ジオイド2024日本とその周辺」を基盤に標高を決めます。このジオイド・モデルは東京湾平均海面に整合するように作られています。高さのゼロをGPSの楕円体へ取り替えたわけではなく、標高を求める仕組みが変わったと捉えるのが適切です。
また、独自の平均海面を使う一部の離島では、ジオイド高に加えて「基準面補正量」を用います。詳細と対象地域は国土地理院「全国の標高成果の改定」で確認できます。
古い資料と新しい資料で同じ地点の標高が違っても、差のすべてが、その間に起きた隆起・沈降とは限りません。測量の精度向上や成果の改定も含まれ得ます。精密に比較するときは、測地成果の名称、測定時点、使用したジオイド・モデルをそろえることが大切です。
海抜0メートルは、比較のために定めた高さの基準です。日本では東京湾平均海面が基本ですが、目の前の水面、陸上に置いた原点、衛星測位の基準面を区別すると、標高という数字が何を表しているのかがはっきりします。
参考資料
- 国土地理院:平均海面(東京湾平均海面と霊岸島の観測)
- 国土地理院:日本水準原点(原点数値と変遷)
- 国土地理院:国土の情報に関するQ&A(各地の海面・標高の考え方)
- 国土地理院:日本の測地系(基準楕円体・ジオイド)
- 国土地理院:全国の標高成果の改定(2025年改定・衛星測位・離島の補正)
資料確認日:2026年10月2日。標高体系の記述は2025年4月1日の改定を反映しています。
