ステンレスなのに磁石につくのはなぜ?

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ステンレスは一種類の金属ではなく、磁石につきやすい種類と、つきにくい種類があります。磁石への反応を決める重要な要素は金属の結晶構造で、さびにくさを生む表面の性質とは別です。「磁石につくから偽物のステンレス」という判定はできません。

さびにくさと磁性は別の性質

ステンレス鋼は鉄を主成分とし、クロムなどを含む合金です。クロムを含むごく薄い不動態皮膜が表面を守ることで、適切な環境では腐食が進みにくくなります。名前の印象から「鉄とは別の銀色の金属」と考えがちですが、鉄を多く含む鋼の仲間です。

しかし、鉄を含む量だけで磁石への反応が決まるわけでもありません。原子の並び方や電子の状態が、強い磁性を示すかどうかに関わります。同じく鉄を多く含む鋼でも、組成や熱処理、加工によって組織が変わり、磁気的性質に差が出ます。

代表的な組織で見分ける

代表的なステンレス鋼と磁石への反応
系統 鋼種の例 通常の状態での特徴
オーステナイト系 SUS304、SUS316など 一般に磁石につきにくい。加工などによる例外がある
フェライト系 SUS430など 磁石につく
マルテンサイト系 SUS410、SUS420系など 磁石につく。刃物などにも利用
二相系 SUS329系など フェライトとオーステナイトを含み、磁性を持つ

台所用品などで見かける「18-8ステンレス」は、代表的にはクロム約18%、ニッケル約8%という組成を示す呼び方です。SUS304はその代表例で、適切に熱処理された通常の素材状態では磁石につきにくい性質を持ちます。SUS430のように磁石につく鋼種も、正当なステンレス鋼です。

「磁性なし」という説明は、日常の磁石で強く吸い付くような性質を示さない、という意味で読むのが適切です。物質が磁場に全く応答しないという意味まで広げる必要はありません。家庭の磁石を近づける方法は、材料分析と同じ精度の検査ではないのです。

同じSUS304でも、加工するとつくことがある

曲げたり絞ったりして大きく変形させる冷間加工によって、オーステナイトの一部がマルテンサイトへ変わる場合があります。これを加工誘起のマルテンサイト変態といいます。その結果、もとの板では磁石につきにくくても、曲げた部分や強く加工した部分ではつくことがあります。

日本製鉄のFAQも、SUS304がプレス加工後に磁石につく例を説明しています。加工によって別の金属が混ざったわけではなく、原子の並び方に変化が起きています。変化の起きやすさは鋼種、温度、加工量などで異なるため、加工したステンレスはすべて同じ強さで磁石につく、という規則でもありません。

磁石だけで分かること、分からないこと

磁石は、強い磁性を持つ部分があるかを簡単に確かめる手掛かりになります。しかし鋼種の特定、耐食性の順位、食品用としての適否、製品の品質保証まではできません。多層構造の鍋では、内側と外側で別の素材が使われることもあります。表面の表示と、磁石が反応した層が同じとは限りません。

IH調理器対応の確認にも、磁石が付くかという条件だけでは不十分です。鍋底の直径や平らさ、層構造、調理器の方式などが関係するため、器具と鍋の対応表示を確認します。材料の性質の簡単な観察を、そのまま機器の適合試験として使わないことが大切です。

また、ステンレスでも塩化物を含む水が長く残るなど、条件によっては腐食します。「磁石につかないから絶対にさびない」という対応関係はありません。手入れは製品の説明に従い、鋼種名が必要な用途では仕様書で確認します。

覚える軸は二つです。さびにくさは主に組成と表面の不動態、磁石への反応は主に金属組織。この二つを分けるだけで、磁石につくステンレスが身近にあることは矛盾ではなくなります。

参考資料

資料確認日:2026年10月2日

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