わさびを食べたときの鼻へ抜ける刺激と、唐辛子を食べた後に口に残る熱さは、同じ辛いという言葉で表される。刺激を起こす物質も、それを受け取る体の仕組みも同一ではない。辛さの違いは、食品の化学と感覚の生理が重なるところにある。
わさびは、すりおろすことで辛くなる
わさびの代表的な辛味成分は、アリルイソチオシアネートである。エスビー食品の解説によると、組織が壊れることで、シニグリンという成分に水と酵素のミロシナーゼが作用し、この刺激物質が生じる。形を細かくする操作が、化学反応を始めるのである。
アリルイソチオシアネートには揮発性があり、空気へ移りやすい。口の中だけでなく鼻の側にも刺激が広がり、つんと抜ける感覚につながる。すりおろしてからの時間や、空気への触れ方も、感じる刺激に関係する。
唐辛子の熱さは、温度計の熱さとは違う
唐辛子の代表的な辛味成分はカプサイシンである。これは感覚神経にあるTRPV1という受容体を働かせる。TRPV1は高い温度にも反応するため、食べ物の温度が高くなくても、焼けるような感覚が生じる。
2021年のノーベル生理学・医学賞の解説は、カプサイシンを手掛かりに熱さを受け取る仕組みが明らかになった過程を紹介している。唐辛子は、料理の材料であると同時に、外界の刺激が神経の信号へ変わる過程を調べる手掛かりにもなった。
辛さは一つの物差しではない
わさびやマスタードに含まれる刺激物質には、TRPA1という別の受容体が関わる。辛味は、甘味や塩味などと同じ基本味の一つとして整理するより、化学物質による刺激感覚として捉える方が分かりやすい。舌だけでなく口や鼻の感覚も含まれる。
カプサイシンは、わさびの主要な辛味成分のようには揮発しにくく、口の中に残る刺激が目立つ。辛さを比べる際には、強さだけでなく、どこに感じ、いつ始まり、どれくらい続くかを見るとよい。わさびと唐辛子を料理で使い分ける理由も、その時間と場所の違いにある。
食品の刺激には複数の成分と感覚の経路が関わる。本稿は代表的な成分と受容体を取り上げたもので、食品全体の感覚を一対一の対応だけで説明するものではない。
参考資料
- エスビー食品:和食を知る・わさび
- The Nobel Prize:The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2021 — Advanced information
参考資料確認日:2026年10月14日。
