問題#Ⅰ018 ★★★☆
正の整数$n$に対して$$S_n=\displaystyle \sum_{k=1}^{n}\dfrac{1}{k}$$とおき、$1$以上$n$以下のすべての奇数の積を$A_n$とする。
(1)$\log_2 n$以下の最大の整数を$N$とするとき、$2^N A_n S_n$は奇数の整数であることを示せ。
(2)$S_n=2+\dfrac{m}{20}$ となる正の整数の組$(n,m)$をすべて求めよ。
(3)整数$n$と $0 \leqq b < 1$ をみたす実数$b$を用いて、$$A_{20} S_{20}=a+b$$と表すとき、$b$の値を求めよ。
《ポイント》
調和数列(harmonic sequence)に関する問題です。各問が後続の設問のうまい誘導になっています。
(1)について、$\log_2 n$以下の最大の整数を$N$とすると、$n$以下の正の整数で最も多く$2$で割り切れる整数は$2^N$に限ります。これは文字に具体的な数字を入れてみると納得できると思います。
難所はやはり(3)で、当時の受験生の出来もあまり芳しくないものでした。$A_{20} S_{20}$は有理数であり、これをなんとか整数の形にして議論しやすくします。そこで(1)の内容が効いてきます。途中の式変形も工夫次第で計算量が抑えられます。
《解答例》
(1)
$T_n=2^N A_n S_n$ とおくと、$\log_2 n$ 以下の最大の整数が$N$だから、$$N \leqq \log_2 n<N+1$$ $$2^N \leqq n < 2^{N+1} \tag{★}$$が成り立つ。$T_n$は$$T_n=2^N A_n \sum^{n}_{k=1}\dfrac{1}{k}=\sum^{n}_{k=1}\dfrac{2^N A_n}{k}$$と表せる。
$n=1$ のときは $T_1=1$ となり奇数であるので、以下 $n>1$ のときを考える。
$\dfrac{2^N A_n}{k}$の値は$k=2^N$のとき$A_n$に等しく、奇数となる。$k \ne 2^N$のとき$k$の素因数$2$の冪は高々$N-1$であるから、$k$を割り切る最大の奇数を$k’$として$$k=2^j k’\ \ \ (0 \leqq j \leqq N-1)$$と置けて、$$\dfrac{2^N A_n}{k}=2^{N-j}\dfrac{A_n}{k’}$$となる。$\dfrac{A_n}{k’}$は整数であるから、これは偶数である。
故に$T_n$は$1$個の奇数と $n-1$ 個の偶数の和となるから、奇数である。
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(2)
$S_n=2+\dfrac{m}{20}$ より、$$S_n=\dfrac{m+40}{2^2 \cdot 5}$$となる。$N \leqq 2$ であるから(1)の$(★)$式より、$n \leqq 7$ を得る。この範囲で等式$$m=20(S_n-2)$$を満たすような正の整数の組$(n,m)$を求めると、$$(n,m)=\color{red}{(6,9)}$$を得る。
(3)
$2^4<20<2^5$ より、(1)の結果を用いると$2^4 A_{20}S_{20}$が奇数であることが分かる。これを$16$で割った商を$q$、余りを$r$とすると$$2^4 A_{20}S_{20}=2^4 q+r$$となるから、$$A_{20}S_{20}=q+\dfrac{r}{16}$$と表せる。即ち、$a=q$、$b=\dfrac{r}{16}$ である。
奇数$k$に対して$\dfrac{A_n}{k}$は整数だから$$\begin{align}&\ \ \ \ \ A_{20}S_{20} \\ &= A_{20}\left( 1+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\cdots+\dfrac{1}{20} \right) \\ &= A_{20}\left( \dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{4}+\cdots+\dfrac{1}{20} \right)+(\text{整数}) \\ &= A_{20}\cdot\dfrac{1}{2}\left( 1+\dfrac{1}{2}+\cdots+\dfrac{1}{10} \right)+(\text{整数}) \\ &= \dfrac{A_{20}}{2}S_{10}+(\text{整数}) \end{align}$$と式変形できる。よって$$2^4 A_{20}S_{20}=2^3 A_{20}S_{10}+(2^4\text{の倍数})$$と表せる。
ここで(2)より $S_6=2+\dfrac{9}{20}$ であるから、$$\begin{align}&\ \ \ \ \ 2^3 A_{20}S_{10} \\ &= 2^3 A_{20}\left( S_6+\dfrac{1}{7}+\dfrac{1}{8}+\dfrac{1}{9}+\dfrac{1}{10} \right) \\ &= 2^3 A_{20}\left( 2+\dfrac{9}{20}+\dfrac{1}{7}+\dfrac{1}{8}+\dfrac{1}{9}+\dfrac{1}{10} \right) \\ &= 2^4 A_{20}+2^3 A_{20}\left\{\left( \dfrac{1}{7}+\dfrac{1}{9}\right)+\left( \dfrac{9}{20}+\dfrac{1}{8}+\dfrac{1}{10}\right)\right\} \\ &= 2^4 A_{20}+2^7 \cdot \dfrac{A_{20}}{63}+2^3\cdot\dfrac{27A_{20}}{40} \\ &= (2^4\text{の倍数}) + \dfrac{27}{5}A_{20}\\ &= (2^4\text{の倍数}) + \underline{27 \cdot 3 \cdot 7 \cdot 9 \cdot 11 \cdot 13 \cdot 15 \cdot 17 \cdot 19} \end{align}$$となる。ここで下線部について$16$を法とした合同式を考えると、$$\begin{align}&\ \ \ \ \ 27 \cdot 3 \cdot 7 \cdot 9 \cdot 11 \cdot 13 \cdot 15 \cdot 17 \cdot 19 \\ &\equiv 81 \cdot 63 \cdot 11 \cdot 13 \cdot 15 \cdot 17 \cdot 19 \\ &\equiv 1 \cdot (-1) \cdot (-5) \cdot (-3) \cdot (-1) \cdot 1 \cdot 3 \\ &= 45 \\ &\equiv 13 \end{align}$$となる。
故に $2^4 A_{20}S_{20}$ を$16$で割った余りは$13$となり、$$b=\color{red}{\dfrac{13}{16}}$$を得る。
《コメント》
本問の肝は$A_{20}S_{20}$の小数部分を求めるというものですが、アイデア勝負の面もある問題で、時間制限のある試験場で解決の道筋がすぐに捉えられるかというと、なかなか難しいところでしょう。(3)で計算しなければいけないのは調和数列の$20$項程度なので、正攻法が思い浮かばなければ手計算で直接求めることも現実的な選択肢と言えるかもしれませんね・・・。
(出典:大阪大学 2016年)