級数の収束を判定できても、和が求まるとは限りません。和の計算では、一般項を差に分ける、既知の級数を微分・積分する、別の関数の展開係数として読む、といった変換を使います。各手法について「なぜその変換を選ぶか」と「無限の操作が許される条件」をセットで説明します。
前半は数列と微分積分、後半は大学初年級の解析を扱います。$\log$は自然対数、$H_n=\sum_{k=1}^n1/k$は調和数です。例題は標準的な題材であり、独自の新定理として提示するものではありません。
1.一般項から、和を求める方針を選ぶ
| 一般項の形 | 試す変換 | 目標となる形 |
|---|---|---|
| $1/[n(n+k)]$ | 部分分数分解 | 隣接する項の差 |
| $n^m r^n$ | 等比級数へ$r\,d/dr$を作用 | 有理関数 |
| $r^n/n$ | 等比級数の項別積分 | 対数 |
| $H_n r^n$ | 和の順序を交換 | 等比和と対数 |
| 階乗の比・二項係数の逆数 | 積分表示 | ベータ積分 |
| $1/n^2,\ (-1)^n/n^2$ | フーリエ係数を計算して値を代入 | 既知の関数値 |
最初に収束性と開始番号を確認します。発散する2級数を別々に計算して引き算する操作はできません。差で収束する場合は、同じ$N$で切った有限和を整理してから極限を取ります。
2.望遠和――消え残る端の項を数える
解答:3つずれた差に分ける
第$N$項まで足すと
したがって和は$11/18$です。残りの誤差も$R_N=(1/3)[1/(N+1)+1/(N+2)+1/(N+3)]$と正確に分かります。$\sum1/n-\sum1/(n+3)$を別々の無限和として扱ったわけではありません。
一般に正の整数$k$に対して
差の間隔が$k$なら、最初の$k$項と最後の$k$項が残ります。最初の数項を書くだけでなく、第$N$項の後ろに何が残るかを明記します。
3.部分分数分解で、望遠和と既知の和に分ける
解答
第$N$項まで足し、最初の2項は組にしたまま望遠和にします。最後に$\sum1/n^2=\pi^2/6$を使うと
使った二乗逆数和の導出は後半で説明します。部分分数に分けた各項が単独では発散しても、有限和の段階で差を処理すれば問題ありません。
4.等比級数に微分を作用させる
$r$で微分すると係数$n$が現れ、さらに$r$を掛けると指数を元へ戻せます。
このように、数列を係数としてまとめた関数を母関数といいます。べき級数の収束半径の内側では項別微分が許されます。根拠と端点の扱いはOpenStaxのべき級数の性質を参照してください。
解答
$r=1/2$を上の式へ代入して$6$です。第1項の$n=1$から始まることを確認します。さらに$r\,d/dr$を作用させれば、$\sum n^3r^n=r(1+4r+r^2)/(1-r)^4$も得られます。
5.$1/n$は積分で作る
等比級数を0から$r$まで項別積分すると、
解答
前者は$r=1/2$より$\log2$です。後者は$1/[n(n+1)]=1/n-1/(n+1)$から
$r=1/2$を代入して$1-\log2$です。$r=0$では元の級数の値は0であり、右辺は極限で連続に延長します。途中で$r$で割ったため、0の扱いを別に書いています。
6.調和数を含む和は、数える順序を変える
解答:各$1/k$が何回現れるか
$H_n=\sum_{k=1}^n1/k$を代入すると、$1/k$は$n=k,k+1,\ldots$の項に現れます。
$q=|r|<1$とすれば、絶対値の二重和は$-\log(1-q)/(1-q)<\infty$なので、和の順序を交換できます。例えば$r=1/2$では$2\log2$です。
無限和の順序変更は、有限和の添字の付け替えと同じではありません。非負項なら単調性、符号が混じる場合には絶対収束など、交換を保証する根拠を用意します。
7.二項係数の逆数を積分へ変える
正の整数$k$、非負整数$n$について、ベータ積分から
実際、右辺は$k\,n!(k-1)!/(n+k)!=n!k!/(n+k)!$です。ベータ関数とガンマ関数の関係はNIST DLMF §5.12で確認できます。
解答:積分の中に等比級数を作る
まず$n=0$も含めます。各項の被積分関数は非負なので単調収束定理により和と積分を交換でき、
$n=0$の項1を除くと答えは$1/(k-1)$です。$k=1$なら元の級数は$\sum_{n=1}^{\infty}1/(n+1)$で発散します。計算式の分母が0になるだけでなく、元の収束性も確認できます。
8.発展:フーリエ級数から$\sum1/n^2$を求める
$[-\pi,\pi]$上の$f(x)=x^2$を周期$2\pi$で延長します。偶関数なので正弦係数は0です。余弦係数を定義どおり計算します。
$a_n=4(-1)^n/n^2$の導出
部分積分を2回使うと
境界で$\sin(n\pi)=0$、$\cos(n\pi)=(-1)^n$を使いました。よって$a_n=4(-1)^n/n^2$です。
この周期関数は連続で区分的に滑らかなので、フーリエ級数の収束定理により各点で関数値に一致します。端点でも左右の関数値はともに$\pi^2$です。定理と偶奇性の使い方はMITのフーリエ級数講義資料を参照してください。
$x=\pi$を代入すると$(-1)^n\cos(n\pi)=1$なので
$x=0$からは$\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}/n^2=\pi^2/12$が得られます。これらはNIST DLMFのゼータ関数の特殊値とも整合します。関数展開の根拠を確認してから、都合のよい$x$を代入することが手順です。
9.条件収束する級数を並べ替えると何が起こるか
交代調和級数$1-1/2+1/3-1/4+\cdots$の和は$\log2$です。正の項を2つ、負の項を1つの順に並べると
となります。最初の$N$組の和は
$H_{2N}-H_N=\sum_{k=N+1}^{2N}1/k\to\int_1^2dt/t=\log2$なので、$T_N\to(3/2)\log2$です。組の途中で止めた場合との差も、残る1項または2項が0へ近づくため消えます。元の各項を1回ずつ使っているのに、和は変わりました。
これは条件収束の場合に起こり得る現象です。絶対収束する級数では並べ替えても和は変わりません。数値計算で先に正の項だけを集める操作にも、数学的な根拠が必要です。
10.確認問題8題
- $\sum_{n=1}^{\infty}1/[n(n+2)]$。
- $\sum_{n=1}^{\infty}n/3^n$。
- $\sum_{n=1}^{\infty}n^2/3^n$。
- $\sum_{n=1}^{\infty}H_n/3^n$。
- $\sum_{n=1}^{\infty}1/[n(n+1)3^n]$。
- $\sum_{n=1}^{\infty}1/\binom{n+4}{n}$。
- $\sum_{n=1}^{\infty}1/(2n-1)^2$。
- $\sum_{n=1}^{\infty}1/[n(n+3)]$を第$N$項まで足した誤差が$1/(N+1)$以下であることを示してください。
解答
- $H_2/2=3/4$。
- $r/(1-r)^2$に$r=1/3$を代入して$3/4$。
- $r(1+r)/(1-r)^3$より$3/2$。
- $-\log(1-r)/(1-r)$より$(3/2)\log(3/2)$。
- $1+[(1-r)/r]\log(1-r)$より$1-2\log(3/2)$。
- $1/(4-1)=1/3$。
- 全項から偶数項を引き、$(1-1/4)\pi^2/6=\pi^2/8$。
- 例題1の正確な誤差は3つの逆数の平均です。各項が$1/(N+1)$以下なので、その平均も$1/(N+1)$以下です。
関連:級数のギャラリー。収束の確認、有限和での変形、極限の正当化を残しておけば、公式を別のパラメータへ広げるときにも条件を追跡できます。
