アンチモンは、鉛を硬くする合金元素として印刷を支え、現代では難燃材料や半導体にも使われます。少量の添加が製品の性質を変える元素です。
Sb|原子番号51|アンチモン
第5周期・第15族の元素。金属光沢を持ちますが、硬くてもろい性質があります。
見てみよう:姿・色・三態の変化
銀白色でもろい固体です。金属らしい光沢があっても、銅のように細い線へ簡単に引き延ばせる物質ではありません。鉛などに少量加え、合金を硬くする働きを使います。活字の材料史にもつながる元素です。

画像:images-of-elements.com(撮影者名の記載なし) / Antimony-4.jpg(Wikimedia Commons) / CC BY 3.0。Commons掲載版の縮小画像。元画像の加工・合成に関する記載は出典をご覧ください。
| 項目 | 状態・温度 |
|---|---|
| 20℃・約1気圧 | 固体 |
| 融点の目安 | 約630.6℃ |
| 沸点の目安 | 約1587℃ |
| 三態の見取り図 | 融点より低温で固体、融点と沸点の間で液体、沸点より高温で気体(約1気圧・平衡状態の目安) |
温度は純物質の代表値を読みやすく丸めています。約1気圧を基本とし、同素体・純度・圧力で値は変わります。融解や沸騰の境界では二つの相が共存します。
同素体と原子の並び方
通常の銀灰色の結晶のほか、特殊な条件で黄色や黒色の形が得られます。安定な形と、いったんつくれても変わりやすい形を分けて考えます。鉱物の輝安鉱Sb₂S₃は硫黄を含む化合物です。
出典:英国王立化学会(RSC):アンチモンの基本物性・発見史
同位体の分布:原子核の違いを読む
¹²¹Sbと¹²³Sbが天然の主要同位体です。質量数が違っても、どちらも陽子51個をもちます。
同位体は、陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子です。次はCIAAWの2024年版にある代表組成、または試料間で認められる範囲です。割合は質量ではなく原子の個数で表します。
| 同位体 | 代表的な割合・範囲(原子数%) |
|---|---|
| 121Sb | 57.21% |
| 123Sb | 42.79% |
割合は近似値です。測定の不確かさは表では省略し、原資料に示されています。範囲の上下端は異なる試料の値で、上下端どうしを足して100%にするものではありません。100%の表記でも、特殊な環境や人工試料まで他核種が存在しないという意味ではありません。
出典:CIAAW:Isotopic Compositions of the Elements 2024
発見の歴史:古代の鉱物と印刷
硫化アンチモンを含む輝安鉱は古代から知られ、顔料などに使われました。後には鉛を硬くする成分として活字合金に加えられました。鋳造した文字を繰り返し使う印刷技術は、合金の硬さと成形性によって支えられていました。
性質:合金と酸化物を使い分ける
鉛にアンチモンを加えると硬さや鋳造後の性質を調整できます。酸化アンチモンは一部の難燃材料で他の成分と組み合わせて使われます。金属の硬さを変える作用と、燃焼反応に関わる化合物の作用は別の用途です。
具体例:赤外線を検出する結晶
インジウムとアンチモンの化合物InSbは、赤外線を検出する半導体材料です。結晶の電子構造に応じて感度を持つ波長域が決まります。活字のような大きな鋳物から、光を電気信号に変える結晶へと用途が広がっています。
具体的な用途と製品
| 製品・用途 | 使われる形 | 性質と役割 |
|---|---|---|
| 一部の鉛蓄電池 | 鉛・アンチモン合金 | 格子材の強さなどを調整する |
| 難燃材料 | 酸化アンチモンを含む配合 | 他の成分とともに燃焼を抑える |
| 赤外線検出器 | InSb半導体 | 赤外線を電気信号に変える |
主な産地と供給網
中国、ロシア、タジキスタンなどが供給に関わります。鉱石の採掘と精鉱の輸出、金属・酸化物への加工を経て利用されます。タジキスタンの公表資料には、2024年のアンチモン鉱石・精鉱の輸出先が中国だったことが記されています。産出国と加工国を結ぶ流れが明確な資源です。
資源貿易と地政学
供給の集中と特定の加工経路への依存が、需要国の調達に影響します。難燃剤の代替には製品の防火性能を確認する必要があり、単純に別物質へ置き換えられません。使用済み鉛蓄電池などからの回収は、合金中のアンチモンを循環させる経路になります。
国別シェアは統計の改訂差があるため掲載していません。化合物ごとの有害性と用途規制は異なります。
資料確認:2026年10月。資源統計の対象年は各出典に記載しています。
