エルビウムは、光ファイバーを進む信号を増幅する元素です。遠くまで情報を届ける通信網を、ガラスの中に加えた少量のイオンが支えています。
Er|原子番号68|エルビウム
原子番号68の重希土類元素。光学材料では主にEr³⁺の発光を利用します。
見てみよう:姿・色・三態の変化
銀白色の金属です。エルビウムを含む化合物には桃色を示すものがあります。光ファイバーに少量含めると、通信で使う光を増幅する働きを持たせられます。遠くへ届く光を、途中で元気にする材料です。

画像:images-of-elements.com / Erbium (68 Er).jpg(Wikimedia Commons) / CC BY 3.0。Commons掲載版の縮小画像。元画像の加工・合成に関する記載は出典をご覧ください。
| 項目 | 状態・温度 |
|---|---|
| 20℃・約1気圧 | 固体 |
| 融点の目安 | 約1529℃ |
| 沸点の目安 | 約2868℃ |
| 三態の見取り図 | 融点より低温で固体、融点と沸点の間で液体、沸点より高温で気体(約1気圧・平衡状態の目安) |
温度は純物質の代表値を読みやすく丸めています。約1気圧を基本とし、同素体・純度・圧力で値は変わります。融解や沸騰の境界では二つの相が共存します。
同素体と原子の並び方
常温では六方最密構造です。光ファイバー内ではエルビウムイオンがガラスの構造に組み込まれます。金属の粒が管の中で光る仕組みではありません。
出典:英国王立化学会(RSC):エルビウムの基本物性・発見史
同位体の分布:原子核の違いを読む
¹⁶⁶Erが最も多く、¹⁶⁸Erなど複数の天然同位体があります。赤外線を出す電子の性質を利用する用途では、まずイオンの状態と周囲のガラスの構造が重要になります。
同位体は、陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子です。次はCIAAWの2024年版にある代表組成、または試料間で認められる範囲です。割合は質量ではなく原子の個数で表します。
| 同位体 | 代表的な割合・範囲(原子数%) |
|---|---|
| 162Er | 0.139% |
| 164Er | 1.601% |
| 166Er | 33.503% |
| 167Er | 22.869% |
| 168Er | 26.978% |
| 170Er | 14.91% |
割合は近似値です。測定の不確かさは表では省略し、原資料に示されています。範囲の上下端は異なる試料の値で、上下端どうしを足して100%にするものではありません。100%の表記でも、特殊な環境や人工試料まで他核種が存在しないという意味ではありません。
出典:CIAAW:Isotopic Compositions of the Elements 2024
発見の歴史:イッテルビーから世界へ
1843年、モサンデルはイットリアから複数の成分を区別しました。エルビウムの名もイッテルビーに由来します。化学的に似た物質を分ける19世紀の研究が、約150年後の情報通信に重要な材料をもたらしました。
性質:光の信号を光のまま強める
エルビウムを添加したファイバーに励起光を入れると、イオンがエネルギーを蓄えます。信号光が通ると、その信号に対応した光が増えます。光をいったん電気へ変換する工程を挟まずに増幅する仕組みがEDFAです。
具体例:1550ナノメートル帯
エルビウムの発光は、光通信で重要な1550nm付近の波長帯と結び付きます。Thorlabsなどはエルビウム添加ファイバーと増幅器を提供しています。通信では複数の波長に情報を載せる技術と組み合わせ、大きな情報量を運びます。
具体的な用途と製品
| 製品・用途 | 使われる形 | 性質と役割 |
|---|---|---|
| 光通信の増幅器 | エルビウム添加光ファイバー | 通信波長帯の光を増幅する |
| 光計測用レーザー | Erを添加した光学材料 | 赤外線の発振・増幅に使う |
| 着色ガラス | エルビウム化合物 | ピンク系の色や吸収特性を与える |
主な産地と供給網
中国などの希土類分離拠点が酸化物を供給し、ガラス原料や光学材料へ加工します。通信用材料は微量の不純物でも光の損失につながるため、化学純度と製造工程の清浄さを管理します。
資源貿易と地政学
原料の使用量に比べ、増幅器が支える通信設備の価値は大きくなります。資源の確保とともに、光ファイバー製造、励起用半導体レーザー、接続部品を安定供給する力が必要です。元素の供給網と通信インフラの供給網がここでつながります。
増幅できる波長帯はファイバーの組成と装置設計によって変わります。
資料確認:2026年10月。資源統計の対象年は各出典に記載しています。
