ヨウ素(I):海藻の発見から日本の輸出資源へ

元素の世界:索引

ヨウ素は、液晶の偏光板や医療用材料に使われ、日本が世界へ供給する重要な元素資源です。千葉県の地下に残る古い海水が、現代の化学産業につながっています。

I|原子番号53|ヨウ素
第5周期・第17族のハロゲン。単体は暗色の結晶で、紫色の蒸気を生じます。

見てみよう:姿・色・三態の変化

黒紫色で光沢のある固体です。紫色の蒸気を出すため昇華で知られますが、約1気圧では約114℃で融け、液体にもなります。見慣れた「固体から蒸気へ」という一場面だけで、液体がないと決めないことが大切です。

黒紫色に光るヨウ素の結晶。
黒紫色に光るヨウ素の結晶。
画像:LHcheM / Sample of iodine.jpg(Wikimedia Commons) / CC BY-SA 3.0。Commons掲載版の縮小画像。元画像の加工・合成に関する記載は出典をご覧ください。
項目 状態・温度
20℃・約1気圧 固体
融点の目安 約113.7℃
沸点の目安 約184.4℃
三態の見取り図 融点より低温で固体、融点と沸点の間で液体、沸点より高温で気体(約1気圧・平衡状態の目安)

温度は純物質の代表値を読みやすく丸めています。約1気圧を基本とし、同素体・純度・圧力で値は変わります。融解や沸騰の境界では二つの相が共存します。

同素体と原子の並び方

通常の単体はI₂分子です。分子が大きく、互いを引く力が塩素や臭素より強いため、室温では固体になります。でんぷんとの青紫色は、ヨウ素を含む構造がでんぷんのらせんに取り込まれて生じます。

出典:英国王立化学会(RSC):ヨウ素の基本物性・発見史

同位体の分布:原子核の違いを読む

天然の安定同位体は¹²⁷Iです。放射性¹²³Iや¹³¹Iは、甲状腺がヨウ素を取り込む性質を利用した医療で使われます。元素としての化学的な行き先と、核種としての放射線の性質を組み合わせます。

同位体は、陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子です。次はCIAAWの2024年版にある代表組成、または試料間で認められる範囲です。割合は質量ではなく原子の個数で表します。

同位体 代表的な割合・範囲(原子数%)
127I 100%

割合は近似値です。測定の不確かさは表では省略し、原資料に示されています。範囲の上下端は異なる試料の値で、上下端どうしを足して100%にするものではありません。100%の表記でも、特殊な環境や人工試料まで他核種が存在しないという意味ではありません。

出典:CIAAW:Isotopic Compositions of the Elements 2024

発見の歴史:海藻灰から紫の蒸気

1811年、ベルナール・クールトワは海藻灰を使う製造工程で紫色の蒸気と結晶を見いだしました。後に研究者が新元素として確認し、紫色に由来する名が付けられました。初期には海藻が原料で、写真技術の発展もヨウ素化合物の需要を生みました。

性質:光の向きを選ぶ薄膜

液晶ディスプレイの偏光板には、ヨウ素を取り込んで延伸した高分子膜を使う方式があります。光の振動方向によって通し方を変え、液晶と組み合わせて画面の明暗を制御します。元素の色だけでなく、分子が配向した材料の構造が働きます。

具体例:かん水から電子材料へ

千葉県では天然ガスに伴う地下のかん水からヨウ素を回収します。伊勢化学工業の工場は、ヨウ素、ヨウ素化合物、天然ガスを扱います。資源を取り出す設備と高純度化・化合物製造の設備を結び、用途に合わせた原料へ加工します。

具体的な用途と製品

製品・用途 使われる形 性質と役割
液晶ディスプレイ ヨウ素系偏光膜 光の偏光を制御する
医療用の造影剤 ヨウ素を含む化合物 X線の吸収特性を利用する
消毒用製品 用途に合わせたヨウ素製剤 化学的な作用を利用する

主な産地と供給網

チリと日本が大きな供給国です。チリでは硝石鉱床に伴う資源、日本ではかん水が重要な原料になります。日本国内では千葉県を中心に生産され、新潟県や宮崎県にも供給拠点があります。原料の地質条件が違うため、抽出の設備と副産物の利用も異なります。

資源貿易と地政学

日本は多くの金属を輸入する一方、ヨウ素では輸出によって世界の製造業を支えています。地下水の採取と環境管理、製品の精製能力、港からの物流を組み合わせた供給が必要です。医療・表示材料など複数の産業が同じ資源を使うため、需要動向を用途ごとに見ることが役立ちます。

医療用製品の使用は製品表示と医療者の判断に従います。食事由来のヨウ素、工業用単体、放射性ヨウ素は区別します。

出典:英国王立化学会(RSC):ヨウ素の発見史・性質

出典:千葉大学CIRIC:ヨウ素の原料と国内産地

出典:千葉県:ヨウ素の国際供給

出典:伊勢化学工業:ヨウ素・化合物の製造拠点

資料確認:2026年10月。資源統計の対象年は各出典に記載しています。

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