イリジウム(Ir):点火プラグと水素をつくる触媒

元素の世界:索引

イリジウムは、熱や腐食に耐える白金族金属です。エンジンの小さな電極から水電解装置まで、厳しい条件の表面を支えます。

Ir|原子番号77|イリジウム
第6周期・第9族。高密度・高融点で、化学的に安定な金属です。

見てみよう:姿・色・三態の変化

銀白色で硬く、密度が高い金属です。腐食に強く、高温の用途や電極などに使われます。地表に少ない元素だからこそ、特定の地層に濃集していると大きな出来事の手掛かりになります。

イリジウムの試料。銀白色の重い金属です。
イリジウムの試料。銀白色の重い金属です。
画像:images-of-elements.com / Iridium (77 Ir) (cropped).jpg(Wikimedia Commons) / CC BY 3.0。Commons掲載版の縮小画像。元画像の加工・合成に関する記載は出典をご覧ください。
項目 状態・温度
20℃・約1気圧 固体
融点の目安 約2446℃
沸点の目安 約4428℃
三態の見取り図 融点より低温で固体、融点と沸点の間で液体、沸点より高温で気体(約1気圧・平衡状態の目安)

温度は純物質の代表値を読みやすく丸めています。約1気圧を基本とし、同素体・純度・圧力で値は変わります。融解や沸騰の境界では二つの相が共存します。

同素体と原子の並び方

通常は面心立方構造です。元素名は塩の多彩な色に由来します。単体は銀色でも、化合物では電子が光を吸収する仕方が変わり、異なる色を示します。

出典:英国王立化学会(RSC):イリジウムの基本物性・発見史

同位体の分布:原子核の違いを読む

¹⁹¹Irと¹⁹³Irが主要な天然同位体です。恐竜絶滅期の地層で有名なイリジウム濃集は、まず元素の量の異常として見つかったものです。

同位体は、陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子です。次はCIAAWの2024年版にある代表組成、または試料間で認められる範囲です。割合は質量ではなく原子の個数で表します。

同位体 代表的な割合・範囲(原子数%)
191Ir 37.23%
193Ir 62.77%

割合は近似値です。測定の不確かさは表では省略し、原資料に示されています。範囲の上下端は異なる試料の値で、上下端どうしを足して100%にするものではありません。100%の表記でも、特殊な環境や人工試料まで他核種が存在しないという意味ではありません。

出典:CIAAW:Isotopic Compositions of the Elements 2024

発見の歴史:虹の色を持つ塩

1803年、テナントは粗白金の溶け残りからイリジウムを発見しました。化合物が多様な色を示すことから、虹を表す名が付けられました。金属の外観と化合物の色の違いが、発見史に残っています。

地球史の物語:薄い粘土の層が、恐竜の時代の終わりを語る

約6600万年前の地層の境目には、イリジウムが異常に多い薄い層が世界各地で見つかります。地殻には少なく、隕石には比較的多い元素です。この違いが、宇宙から来た物体の衝突を考える重要な手掛かりになりました。

アルヴァレズらが提案した衝突説は、地層の化学分析と、巨大なクレーターなどの地質学的証拠を結び付けて発展しました。恐竜の骨を直接調べるだけでなく、薄い粘土に含まれる微量の元素からも、当時の地球で起きたことを探れます。

金属の用途を知るための周期表が、地球史の事件を解く道具にもなる。元素がどこにどれだけあるかを測ることは、過去に起きた物質の移動を読むことでもあります。

ここでいう恐竜の大量絶滅は、鳥類を除く恐竜などが失われた出来事です。イリジウムだけで原因を確定するのではなく、衝撃を受けた鉱物、クレーター、年代などの証拠を合わせて判断します。

出典:Chicxulubクレーター内部のイリジウム層を報告した研究(2021)

出典:アメリカ自然史博物館:小惑星衝突をどう知るか

具体例:細い点火プラグの電極

NiterraのNGKブランドにはイリジウムを用いた点火プラグがあります。細い電極をつくり、火花を生じやすくするとともに摩耗への強さを確保します。燃焼室の高温と繰り返す放電に、材料の性質で対応します。

現代の用途:水電解の酸素側電極

PEM型水電解装置では、イリジウム系触媒を酸素が生じる側に使います。酸性の厳しい環境で反応を促す能力が求められます。理化学研究所や材料企業は、使用量を抑えながら性能を維持する触媒を研究しています。

具体的な用途と製品

製品・用途 使われる形 性質と役割
エンジン点火プラグ イリジウム系電極 耐摩耗性を保ちながら電極を細くする
PEM型水電解 イリジウム系触媒 酸素発生反応を促進する
高温の結晶育成 イリジウムるつぼ 高温・化学環境に耐える

主な産地と供給網

南アフリカの白金族鉱業が重要な供給源です。白金などとともに採掘・精製するため、イリジウムだけの需要に応じて大量に増産することは難しくなります。鉱石中の割合と回収工程が供給量を決めます。

資源貿易と地政学

水素製造設備を拡大する際は、触媒の単位面積当たり使用量と回収率が重要です。少量化とリサイクルを組み合わせることで、供給の集中が設備拡大を妨げる影響を小さくします。資源の制約が装置設計の課題へ直結する元素です。

水電解には複数の方式があり、すべてがイリジウムを使うわけではありません。

出典:英国王立化学会(RSC):イリジウムの発見史・性質

出典:Niterra:点火プラグの構造

出典:理化学研究所:水電解用イリジウム触媒

出典:Johnson Matthey:PEM水電解触媒

出典:USGS:南アフリカの鉱業(2024年)

資料確認:2026年10月。資源統計の対象年は各出典に記載しています。

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