クリプトンは、かつて長さの基準に使われ、現在は半導体を加工する紫外線レーザーにも使われます。空気中の微量成分が、精密なものづくりを支えています。
Kr|原子番号36|クリプトン
第4周期・第18族の希ガス。空気中に約1ppm含まれ、通常は単原子の気体として存在します。
見てみよう:姿・色・三態の変化
無色の気体で、液体になっても無色です。放電すると特有の線スペクトルを出します。かつて長さの単位メートルはクリプトン86の光の波長を基準に定義されました。光の色を正確に測ることが、世界共通のものさしになったのです。
| 項目 | 状態・温度 |
|---|---|
| 20℃・約1気圧 | 気体 |
| 融点の目安 | 約−157.4℃ |
| 沸点の目安 | 約−153.4℃ |
| 三態の見取り図 | 融点より低温で固体、融点と沸点の間で液体、沸点より高温で気体(約1気圧・平衡状態の目安) |
温度は純物質の代表値を読みやすく丸めています。約1気圧を基本とし、同素体・純度・圧力で値は変わります。融解や沸騰の境界では二つの相が共存します。
同素体と原子の並び方
通常は単原子で存在します。低温では原子間の弱い引力によって凝縮します。化学反応しにくい希ガスでも、フッ素との化合物が知られます。元素の単体、低温の凝集状態、化合物を別々に整理します。
出典:英国王立化学会(RSC):クリプトンの基本物性・発見史
同位体の分布:原子核の違いを読む
⁸⁴Krが最も多く、⁸⁶Krなど6種類の天然同位体が表に現れます。どの同位体の光を使うかをそろえることで、精密な測定の基準をつくれます。
同位体は、陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子です。次はCIAAWの2024年版にある代表組成、または試料間で認められる範囲です。割合は質量ではなく原子の個数で表します。
| 同位体 | 代表的な割合・範囲(原子数%) |
|---|---|
| 78Kr | 0.355% |
| 80Kr | 2.286% |
| 82Kr | 11.593% |
| 83Kr | 11.5% |
| 84Kr | 56.987% |
| 86Kr | 17.279% |
割合は近似値です。測定の不確かさは表では省略し、原資料に示されています。範囲の上下端は異なる試料の値で、上下端どうしを足して100%にするものではありません。100%の表記でも、特殊な環境や人工試料まで他核種が存在しないという意味ではありません。
出典:CIAAW:Isotopic Compositions of the Elements 2024
発見の歴史:液化した空気の残りから
1898年、ラムゼーとトラバースは液化空気の成分を調べ、クリプトンを発見しました。大量成分を取り除いた後に残る気体を分離し、スペクトルによって識別しました。空気の中に隠れた元素を探す研究は、低温技術と分光学の発展を示しています。
歴史的エピソード:メートルを光で定義する
1960年、メートルはクリプトン86が出す特定の光の波長に基づいて定義されました。金属製の原器から再現できる自然現象へと、物差しの基準が移りました。1983年には光速度に基づく定義へ進みました。元素のスペクトルが国際的な測定を支えた歴史です。
具体例:波長248nmのレーザー
KrFエキシマレーザーは、クリプトンとフッ素を含む気体から紫外線を発生させます。ギガフォトンの製品では波長248nmの光を半導体の露光や加工に利用します。空気から回収したガスを高純度化し、発光が安定する組成に整える工程が品質を左右します。
具体的な用途と製品
| 製品・用途 | 使われる形 | 性質と役割 |
|---|---|---|
| 半導体の露光・加工 | KrFエキシマレーザー用ガス | 紫外線の光源になる |
| 特殊な照明 | クリプトンを含む封入ガス | 放電やランプの性能を調整する |
| 計量の歴史 | クリプトン86のスペクトル | 1960~1983年の長さの基準に使われた |
主な産地と供給網
クリプトンは大型空気分離設備から回収し、さらに高純度化します。製鉄所などの酸素製造と結び付いた供給網です。韓国ではPOSCO Air Solutionが2026年に高純度希ガス工場の完成を公表し、クリプトンやキセノンなどの供給設備を整えました。
資源貿易と地政学
空気中に存在しても、回収設備と精製技術がなければ半導体向けの供給にはつながりません。微量成分を集めるため大きな空気処理量が必要で、酸素需要や工場の稼働に影響されます。ガスの回収・再利用と複数地域の精製拠点が、先端産業の調達を支えます。
新工場の完成と、年間の実際の生産量は別の情報です。国名は設備立地の例として記載しています。
資料確認:2026年10月。資源統計の対象年は各出典に記載しています。
