リチウムは最も軽い金属です。イオンと電子の移動を利用して、スマートフォンや電気自動車に電気を蓄えます。鉱石から電池材料までを、発見史、電極の構造、国際供給網からたどります。
Li|原子番号3|リチウム
第2周期・第1族のアルカリ金属。常温では銀白色の固体。原子の電子配置は[He]2s1。
見てみよう:姿・色・三態の変化
切りたては銀白色で、柔らかく、金属の中で最も密度が小さい物質です。空気中では表面が反応して輝きが失われます。水より軽いことと、水に安全に浮かべられることは別です。水とは反応して水素を発生します。

画像:AdvancedTinkering / Purified lithium in an ampoule under argon, dark background.png(Wikimedia Commons) / CC BY-SA 4.0。Commons掲載版の縮小画像。元画像の加工・合成に関する記載は出典をご覧ください。
| 項目 | 状態・温度 |
|---|---|
| 20℃・約1気圧 | 固体 |
| 融点の目安 | 約180.5℃ |
| 沸点の目安 | 約1342℃ |
| 三態の見取り図 | 融点より低温で固体、融点と沸点の間で液体、沸点より高温で気体(約1気圧・平衡状態の目安) |
温度は純物質の代表値を読みやすく丸めています。約1気圧を基本とし、同素体・純度・圧力で値は変わります。融解や沸騰の境界では二つの相が共存します。
同素体と原子の並び方
常圧・室温の金属結晶は体心立方構造です。原子が立方体の頂点と中央に並ぶ配置を取ります。冷却や加圧で結晶構造が変わります。融けてもリチウム原子そのものは変わらず、原子の並び方と動き方が変わります。
同位体の分布:原子核の違いを読む
⁶Liと⁷Liは中性子の数が1個違います。化学的な性質は近くても、原子核の反応では大きな差が生まれます。リチウムでは同位体を分離した工業材料も流通するため、試料の来歴が同位体比を読む鍵になります。
同位体は、陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子です。次はCIAAWの2024年版にある代表組成、または試料間で認められる範囲です。割合は質量ではなく原子の個数で表します。
| 同位体 | 代表的な割合・範囲(原子数%) |
|---|---|
| 6Li | 1.9–7.8% |
| 7Li | 92.2–98.1% |
割合は近似値です。測定の不確かさは表では省略し、原資料に示されています。範囲の上下端は異なる試料の値で、上下端どうしを足して100%にするものではありません。100%の表記でも、特殊な環境や人工試料まで他核種が存在しないという意味ではありません。
リチウムでは同位体分離を経た市販材料も組成の幅に関係します。この範囲を、あらゆる未処理の天然試料にそのまま当てはめません。
出典:CIAAW:Isotopic Compositions of the Elements 2024
発見の歴史:石の分析から生まれた名前
1817年、アルフェドソンは鉱物ペタライトを分析し、ナトリウムやカリウムとは異なる新しいアルカリ金属の存在を見いだしました。「リチウム」という名称は、石を意味するギリシャ語に由来します。植物由来の灰などと関係の深かった既知のアルカリ成分に対し、鉱物の分析が発見の舞台となりました。
アルフェドソンの発見は鉱石の化学分析によるものでした。化合物から金属を単離するには、リチウムイオンに電子を与える還元の工程を要します。元素の発見と金属の製造は、別の技術として発展しました。
出典:英国王立化学会(RSC):Lithium ― 歴史と基本データ
電池に向く理由:軽さと電子のやり取り
リチウム原子は外側に1個の電子をもち、電子を失うとLi⁺になります。金属からイオンが生じる反応はLi→Li⁺+e⁻です。電池は正極と負極の反応を組み合わせ、そのエネルギー差を電圧として取り出します。
軽いリチウムを利用すると、材料の質量に対して大きな電荷量をやり取りする電極を設計できます。実用電池では、電極にイオンを出し入れする構造と、電解液・保護回路を組み合わせます。
リチウムイオン電池では何が往復するのか
代表的なリチウムイオン電池は、リチウムを含む正極材料、黒鉛などの負極材料、電解液、両極を隔てるセパレーターを組み合わせています。電解液中を移動するのはイオンで、電子は外部の回路を流れます。充電では外から電気エネルギーを与えてリチウムを負極側に蓄え、放電では逆向きの変化を利用します。
黒鉛負極を例にすると、充電時にリチウムが層の間へ入り込むことを、模式的に次のように表せます。
C6 + Li+ + e− ⇄ LiC6
この式は黒鉛負極側の反応を模式的に表しています。正極にはリン酸鉄系やニッケル・マンガン・コバルト系などがあり、電圧、容量、耐久性を目的に合わせて設計します。
出典:パナソニック:リチウムイオン電池とバッテリーマネジメントシステム
歴史的エピソード:金属を使う発想から、材料の中へ収める発想へ
リチウムイオン電池の成立には、ウィッティンガムによる電極材料の研究、グッドイナフによる高電圧の正極材料、吉野彰による炭素材料を使った負極の開発などがつながっています。吉野は1985年、金属リチウムの代わりに石油コークスという炭素材料を用いる方式を開発しました。これらの仕事は2019年のノーベル化学賞で評価されました。
この歴史で面白いのは、元素自体の発見から約170年後にも、その使い方の工夫が大きな技術変化を生んだことです。性能を引き上げたのは新元素の発見ではなく、既知の元素を適切な構造の材料に組み込み、繰り返し出し入れできるようにする発想でした。
現代の製品と、電池以外の用途
| 製品・用途 | 使われる形 | 性質と役割 |
|---|---|---|
| スマートフォン・ノートパソコン | リチウムイオン二次電池 | 電極材料にリチウムを出し入れして充電・放電を繰り返します。 |
| 電気自動車・蓄電システム | 多数の電池セルと制御装置 | 温度・電圧・電流を管理しながら、必要な容量と出力を得ます。 |
| 時計・機器用のリチウム一次電池 | 金属リチウムを使う負極など | リチウムイオン二次電池とは電極構成が異なり、一般的な一次電池は充電用ではありません。 |
| ガラス・耐熱材料、潤滑グリース | リチウムを含む化合物 | ガラスの組成調整や、グリースの増ちょう剤など、化合物としての性質を利用します。 |
パナソニックの二酸化マンガンリチウム電池は、負極に金属リチウムを使う一次電池です。機器を長期間動かす電源として使われます。充電式のリチウムイオン電池とは、電極材料と反応の組み合わせが異なります。
資源から製品までを考える
リチウムは鉱石や塩水から回収し、炭酸リチウムや水酸化リチウムへ精製します。使用済み電池の再利用では、金属、電解液、樹脂を分離し、材料を必要な純度へ戻します。回収率と再生材料の品質を両立させることが、循環利用の核心です。
電池の性能は、電極の組成と構造、電解液、製造精度、制御装置の組み合わせで決まります。リチウムの軽さを、材料と装置の設計によって実用的な蓄電へつなげています。
歴史・物性・製品の説明は、本文中に示した学会・公的機関・メーカーの資料を参照しています。資料確認:2026年10月。資源統計の対象年は各出典に記載しています。
主な産地と供給網
カナダ天然資源省の2024年統計では、オーストラリア、チリ、中国が主要なリチウム生産国です。オーストラリアは鉱石、チリは塩水資源を中心に供給します。アルゼンチンやジンバブエも生産に加わり、中国は加工・精製で大きな役割を担います。
資源貿易と地政学
鉱山や塩湖の開発、炭酸塩・水酸化物への精製、正極材料の製造、電池組立はそれぞれ別の工程です。原料の採掘地を増やす取り組みと、精製能力を複数地域へ配置する取り組みは、異なる供給上の課題に対応します。電池メーカーの調達先を読むときは、鉱石がどこで電池用材料に変わるかが重要です。
本文の負極反応式は模式図です。電池の構造・材料は製品ごとに異なります。一次電池の充電はできません。
