イッテルビウムは、金属を加工するレーザーと、時間を精密に測る原子時計に使われます。強い光を出す技術と微細な周波数を測る技術が、同じ元素を利用します。
Yb|原子番号70|イッテルビウム
原子番号70の希土類元素。複数の安定同位体を持ち、用途に応じた同位体の選別も行います。
見てみよう:姿・色・三態の変化
銀白色の柔らかい金属で、希土類の中では比較的低い温度で融け、蒸発しやすい元素です。加熱した金属を蒸気にしてから冷やして結晶を育てるといった操作では、元素ごとの揮発しやすさの違いが役立ちます。

画像:Jurii / Ytterbium-3.jpg(Wikimedia Commons) / CC BY 3.0。Commons掲載版の縮小画像。元画像の加工・合成に関する記載は出典をご覧ください。
| 項目 | 状態・温度 |
|---|---|
| 20℃・約1気圧 | 固体 |
| 融点の目安 | 約824℃ |
| 沸点の目安 | 約1196℃ |
| 三態の見取り図 | 融点より低温で固体、融点と沸点の間で液体、沸点より高温で気体(約1気圧・平衡状態の目安) |
温度は純物質の代表値を読みやすく丸めています。約1気圧を基本とし、同素体・純度・圧力で値は変わります。融解や沸騰の境界では二つの相が共存します。
同素体と原子の並び方
温度によって結晶構造が変わり、室温付近では面心立方構造を取ります。多くの希土類と異なる密度や融点は、電子の状態の違いとも関係します。
出典:英国王立化学会(RSC):イッテルビウムの基本物性・発見史
同位体の分布:原子核の違いを読む
¹⁷⁴Ybや¹⁷²Ybなど複数の天然同位体があります。イッテルビウム原子を使う光格子時計は、非常に高い精度で時間を測る研究を支えています。
同位体は、陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子です。次はCIAAWの2024年版にある代表組成、または試料間で認められる範囲です。割合は質量ではなく原子の個数で表します。
| 同位体 | 代表的な割合・範囲(原子数%) |
|---|---|
| 168Yb | 0.126% |
| 170Yb | 3.023% |
| 171Yb | 14.216% |
| 172Yb | 21.754% |
| 173Yb | 16.098% |
| 174Yb | 31.896% |
| 176Yb | 12.887% |
割合は近似値です。測定の不確かさは表では省略し、原資料に示されています。範囲の上下端は異なる試料の値で、上下端どうしを足して100%にするものではありません。100%の表記でも、特殊な環境や人工試料まで他核種が存在しないという意味ではありません。
出典:CIAAW:Isotopic Compositions of the Elements 2024
発見の歴史:名前の故郷はイッテルビー
1878年、マリニャックはエルビウム系の試料からイッテルビウムを見いだしました。1907年には、その試料にさらに別の元素ルテチウムが含まれることが判明しました。希土類の発見史では、分離の精度を上げるたびに新しい成分が現れました。
性質と用途:ファイバーの中で光を増やす
イッテルビウムを添加した光ファイバーは、1μm付近のレーザーに使われます。ファイバーを通じて光を増幅する構造は、工業用の高出力光源に適します。金属加工では光を狭い場所に集め、溶接や切断に必要なエネルギーを与えます。
現代の研究:光格子時計
米国NISTはイッテルビウム171を使う光格子時計を研究しています。冷却した原子を光で捕らえ、光の周波数に相当する遷移を基準として時間を測ります。原子の動きや外部環境の影響を制御することが精度を高める鍵です。
具体的な用途と製品
| 製品・用途 | 使われる形 | 性質と役割 |
|---|---|---|
| 工業用ファイバーレーザー | Ybを添加した光ファイバー | 加工用の強い光をつくる |
| 精密な周波数標準の研究 | イッテルビウム171原子 | 原子の遷移周波数を測る |
| 医療用同位体の原料 | 濃縮イッテルビウム176 | ルテチウム177の製造につなげる |
主な産地と供給網
中国などの希土類分離拠点が通常のイッテルビウム原料を供給します。同位体を選ぶ用途では別の濃縮工程が必要です。米国DOEの同位体プログラムは、ルテチウム177製造用などにイッテルビウム176を供給しています。
資源貿易と地政学
金属や酸化物の供給網と、特定の同位体の供給網を分けて考えます。医療用同位体の原料では、同位体濃縮、照射、化学分離、輸送をつなぐ技術が必要です。元素の資源量だけでは完成品の供給力を説明できません。
光格子時計は高精度な周波数標準の研究・運用に使われます。SIの秒の定義はセシウム133を基準としています。
出典:英国王立化学会(RSC):イッテルビウムの発見史・性質
資料確認:2026年10月。資源統計の対象年は各出典に記載しています。
