問題6.2.5
$\theta \left(0<\theta<\dfrac{\pi}{2}\right)$ を $\tan \theta = \dfrac{1}{5}$ に取ると$$\tan 4 \theta=\dfrac{120}{119}, \quad \tan \left(4 \theta-\dfrac{\pi}{4}\right)=\dfrac{1}{239}$$であることを示せ。これと $\tan^{-1} x$ の整級数展開を用いて次の式を示せ。この式をマチンの公式と言う。この右辺を計算することにより$\pi$の値が計算される。$$\pi =16 \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{2 n+1}\left(\frac{1}{5}\right)^{2 n+1}-4 \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{2 n+1}\left(\frac{1}{239}\right)^{2 n+1}$$
《ポイント》
マチンの公式(Machin’s formula) は、イギリスの天文学者ジョン・マチンによって1706年に発見された円周率$\pi$を計算するための有名な公式です。マチンはこの公式を使い、手計算で円周率を100桁まで求めることに成功したと伝えられています。
前半の証明はタンジェントの倍角公式から示すことができます。後半の証明には $\tan^{-1} x$ の整級数展開が必要ですが、$\tan ^{-1}x=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{2 n+1}x^{2 n+1}$ となることは次のように示されます。
整級数展開の式の導出
等比級数に関する基本的な公式である$$\frac{1}{1-x}=\sum_{n=0}^{\infty} x^{n} \quad(|x|<1)$$において$x$を$-x^2$で置き換えると、$$\frac{1}{1+x^{2}}=\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n} x^{2 n} \quad(|x|<1)$$となり、この式の両辺を $0$ から $x(|x|<1)$ まで積分すると$$\tan ^{-1} x=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{2 n+1} x^{2 n+1} \quad(|x|<1)$$が得られます。
《解答例》
(前半の証明)
$$\begin{aligned} \tan 2 \theta &=\dfrac{2 \tan \theta}{1-\tan ^{2} \theta} \\ &=\dfrac{2 \cdot \dfrac{1}{5} }{1-\left(\dfrac{1}{5}\right)^{2} } \\ &=\dfrac{5}{12} \end{aligned}$$であるから$$\begin{aligned} \tan 4 \theta &=\dfrac{2 \tan 2 \theta}{1-\tan ^{2} 2 \theta} \\ &=\dfrac{2 \cdot \dfrac{5}{12} }{1-\left(\dfrac{5}{12}\right)^{2} } \\ &=\dfrac{120}{119} \end{aligned}$$となる。これより、$$\begin{aligned}
\tan \left(4 \theta-\dfrac{\pi}{4}\right) &=\dfrac{\tan 4 \theta-\tan \dfrac{\pi}{4}}{1+\tan 4 \theta \tan \dfrac{\pi}{4}} \\
&=\dfrac{1}{239}
\end{aligned}$$が示される。
(後半の証明)上記の結果から、$$\quad \tan^{-1} \dfrac{1}{239}=4 \theta-\dfrac{\pi}{4}$$ $$\therefore \pi=16 \theta-4 \tan^{-1} \dfrac{1}{239}$$これより、$$\begin{cases} \tan ^{-1} \dfrac{1}{5}=\theta \\ \tan ^{-1} x= \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} \dfrac{(-1)^{n}}{2 n+1} x^{2 n+1} \end{cases}$$を用いると、$$\begin{aligned}
\pi &=16 \theta-4 \tan^{-1} \frac{1}{239} \\
&=16 \tan^{-1} \frac{1}{5}-4 \tan^{-1} \frac{1}{239} \\
&=16 \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{2 n+1}\left(\frac{1}{5}\right)^{2 n+1}-4 \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{2 n+1}\left(\frac{1}{239}\right)^{2 n+1}
\end{aligned}$$となる。よって示された。
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マチンの公式のように円周率$\pi$を計算するための有名な公式として、次の「オイラーの公式」が知られています。$$\displaystyle {\frac {\pi }{4}}=\tan^{-1} {\frac {1}{2}}+\tan^{-1} {\frac {1}{3}}$$これも正接関数$\tan$の加法定理により容易に示されます。