【有機化学】化合物の命名に使えるオンラインアプリ

有機化学でぶつかる最初の難関は化合物の命名でしょう。化合物名を検索できるアプリがあれば勉強が捗るだけでなく、問題の答え合わせにも使えます。そこで、今回は有機化合物を命名するオンラインアプリを紹介します!

※参考ページ:構造式でIUPAC名を検索できるオンラインアプリ

 

 オンラインアプリ一覧

まず、今回紹介するオンラインアプリを一覧にしておきます。これを使えば痒い所にも手が届くはずです!

※クリックorタップすれば該当する欄にジャンプできます。

・PubChem

・ChemSpider

・Organic Chemistry Portal

・Chemspace(企業が共同で設立)

(・ChemDoodleほぼ料)

これらはデータベースとして世界中の研究者によって利用されており、本来は命名法に使うというよりも、ある特定の部分構造を持った化合物を検索したり、類似した化合物を検索したりするために用いられています。しかし使い方次第では構造式からIUPAC名に変換することができるため、命名法の学習に適したツールとも言えます。

上に示した五つのウェブサービスの他にも、東京化成工業株式会社やメルク株式会社など、化学系のメーカーの中にはウェブサイトで自社商品を検索してもらうための化合物検索アプリを公開している企業があります。しかし、商品として取り扱ってない化合物はそもそも検索したところで出てこない(化合物の網羅的なデータベースにはなっていない)ので、皆さんが化合物名の検索に使う場合は上記のようなデータベースとして特化しているウェブサイトを選びましょう!

 

 PubChem

PubChemは、アメリカ国立衛生研究所が維持・管理している世界最大規模の化合物データベースで、誰でも無料でアクセスすることができます。データベースとして非常に使い勝手が良く、世界中の研究者に使われています。化学系のコースを専攻した人なら一度は見たことがあるのではないでしょうか。

ウェブサイトに移動すると、次のようなエントランス画面が表示されます。

PubChemのエントランス画面

“Draw Structure”(左下)をクリックorタップすると、構造式を描画するためのキャンバスが出てきます。

今回検索するのはE体の2-ブテン

ここに目的の構造式を描いて検索することによって、化合物を検索することができます。ここでは、検索結果の欄には “IUPAC NAME” もちゃんと記載されています。

検索結果

この検索結果によると、

Identity「同一の化合物」が1個、
Similarity「類似した化合物」が72個、
Substructure「部分構造が一致する化合物」が1000個以上、
Superstructure「一部分のみを含む化合物」が265個、
3D Similarity「3次元的に類似した化合物」が273個

が得られたようです。これらの追加機能でも遊んでみて下さい。

 

 ChemSpider

ChemSpiderは英国王立化学会 (Royal Society of Chemistry)が運営している化合物データベースで、5000万以上の化学構造、特性、関連情報が収集されています。PubChemと同等規模の情報が集積されており、こちらも同様に化合物を構造式から検索することができます。

ChemSpiderの “Structure search” の機能を使うことで、構造式を描いて化合物を検索することができます。検索するときは一番右下のSearchボタンを押してください。

ChemSpiderの検索UI

完全一致検索の場合は結果がシンプルに表示されます。化合物の種類にもよりますが、ものによっては物性に関するデータも取得することができます。

(E)-2-ブテンの検索結果

ChemSpiderでは検索のタイプを以下の5つから選ぶことができます。

Exact Match(完全一致)
All Tautomers(すべての互変異性体を含む)
Same Skeleton (Including H)(同一骨格(Hを含む))
Same Skeleton (Excluding H)(同一骨格(Hを除く))
All Isomers(すべての異性体)

例えば(2E)-2-Buteneの構造で「Same Skeleton (Including H)」による検索を実行すると、この部分構造を有する12個の化合物のリストが検索結果として得られます。

恐らく、PubChemかChemSpiderを使えば、望みの化合物のIUPAC名が得られると思います。あまりにも複雑な化合物や、この世に存在しない(存在したとしても安定でない)化合物はデータベースで検索してもヒットしません。そういう時は黙ってChemDrawの “Structure to Name” 機能を使いましょう・・・。

 

 Organic Chemistry Portal

Organic Chemistry Portalはその名の通り、有機化学系の情報ポータルサイトです。有機化学ジャーナルのアブストラクトや化学物質に関する情報、新規の有機合成に関する簡単な要約記事などが検索可能なデータベースを提供しています。

このサイトの「Chemicals」カテゴリ内の “Structure Search” を利用すれば、構造式から化合物を検索することができます。使い勝手はそこまで悪くないのですが、データベースの規模としてはPubChemやChemSpiderに比べて見劣りします。

※このサイトは化合物検索にも利用できますが、有機化学反応に関する情報の方が充実しています。Organic Chemistry Portalに関しては、化合物のデータベースというよりは有機反応のデータベースと思った方が良いでしょう。

 

 Chemspace

ChemspaceはEnamineやChemBridgeコーポレーション、UORSY、FCHグループといった主に東欧の化学メーカー群が共同で設立したデータベースです。企業が管理しているものですが、小分子の化合物検索に関しては非常に優秀なので、紹介する価値があると判断して今回掲載しました。

Chemical Building Blocks Search” が目当てのアプリケーションです。

Chemspaceの検索UI

結果は次のようになります。

検索結果

上の方でも述べましたが、企業が運用しているデータベースのため、商品として扱っている化合物しかヒットしないという欠点はあります。

 

 ChemDoodle

ChemDoodleは化学に関する様々な図を描くための描画用ソフトウェアとして販売されているものです。有料の描画用ソフトウェアとしては他にChemDrawが有名ですね(因みにChemDrawには構造式からIUPAC名に変換する機能があります)。

公式ホームページによると、「ChemDoodle 2D」の機能の一つとして “IUPAC Naming” が搭載されており、独自のアルゴリズムによって高精度で化合物を命名することができる、と宣伝されています。ウェブ上ではこの機能に相当する無料で利用できるデモ版が公開されています。ただしこのキャンバス上ではクリックやドラッグなどが5回程度しか操作できず、それ以降はライセンスを購入しないと動かせなくなってしまいます。・・・残念!

若干ケチ臭いような気もしますが、化合物の命名はかなり正確です。どういうアルゴリズムを使ってるのかは分かりませんが、ヘンテコな分子でもしっかり命名してくれます。例えば、次のような実在するのかアヤシイ構造でも「2-(sec-Butyl)spiro[4.4]nonane」とちゃんと命名されています。

ChemDoodleの入出力UI

なお、この構造を最新のChemDraw Professional(有料)で “Structure to Name” に掛けると、「2-(sec-butyl)spiro[4.4]nonane」と正しく命名できます。大抵の大学の学内共用PCなどにはChemDrawが入っていると思いますし、大学によっては学生向けにライセンスを無償で配布しているところもありますので、早まってChemDoodleのライセンスを買う必要は無いと思います(笑)。

 


 

今回は、化合物の命名に使える色々なオンラインアプリを紹介してきました。これらのアプリはどんどん使って頂いて結構なのですが、勉強の目標は化合物の命名法のマスターです。あくまでも自学自習の補助のために使いましょう!

(2022/04/21追記:画像サイズを変更)

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