化合物の命名法は多くの人が苦手としており、有機化学嫌いを増やす鬼門とも言えます。そこで今回は構造式を描いてIUPAC名を検索(またはその逆も)できるオンラインアプリを紹介します!
※参考ページ:化合物の命名に使えるオンラインアプリ
IUPAC命名法
IUPAC命名法とは、国際純正・応用化学連合(IUPAC)が定める化合物の体系名の命名法であり、名称と構造を一義的に対応させるものです。
しかし、化合物には Preferred IUPAC name(優先IUPAC名)や Systematic IUPAC name(組織名)といった複数のIUPAC名が付けられていることがあります。一義的とは言っていますが、既に慣用されている名称を変更するのは混乱を招くという観点で複数のIUPAC名が認められている場合があります。
例えばトルエンのように古くから知られている分子では、優先IUPAC名が “Toluene”、組織名が “Methylbenzene” のようになっています。いずれの名称もIUPAC名として正しいものです。このように、分子によってはIUPAC名が一つではない場合もあります。
IUPAC命名法は有機化学を学ぶ上で大切な知識です。化合物名を検索できるアプリがあれば勉強が捗るだけでなく、問題の答え合わせにも使えます。そこで構造式を描いてIUPAC名を検索することができるオンラインアプリを紹介します。
構造式→IUPAC名
今回紹介するオンラインアプリは「ChemDraw-direct」というものです。UI(ユーザーインターフェース)は以下のようにとてもシンプルです。ただしスマートフォンでの操作性はかなり悪いので、PCでの利用を推奨します。
上部のパレットからパーツを選択してキャンバスに構造式を描いていきます。トルエンの構造式を描くと次のようになります。拡大縮小は虫眼鏡アイコンでコントロールできます。
化合物のIUPAC名は、該当する構造式を選択した状態でパレットの下段右から4つ目の「ベンゼン環→Name」のアイコンをクリックすれば表示されます。テキストモードで名前の英数字部分をクリックすればコピーが可能です。
別の方法でIUPAC名を調べることもできます。メニューバーの “Structure” のタブから “Get Properties” を選択します。
選択すると次のようなウィンドウが出てきます。この “NAME”:”○○○” の部分がIUPAC名に相当しています(下図下線部)。ちゃんと「toluene」と表示されていますね。
Propertiesには分子式や分子量、表記法なども表示されます。
一応、このページは製品のサンプルなので、プログラムを使うなどしてサーバーに短時間で大きな負荷を掛けると使用回数に制限が掛けられてしまう可能性があります。少し調べるくらいなら何の問題も無いと思いますが、検索のやり過ぎには注意しましょう。
構造式からIUPAC名を検索してみた例
実際に幾つか構造式を描いてIUPAC名を検索してみました。
(S)-3-methylpentanoic acid
((S)-3-メチルペンタン酸)
(Z)-2,3-dimethylhex-3-ene
((Z)-2,3-ジメチル-2-ヘキセン)
(2R,3R)-3-bromo-2-chloro-1-methoxypentane
3-bromo-5-vinylpyridine
3-amino-5-chloro-2-ethynyl-4-fluorophenol
このように複雑な化合物でも構造式からIUPAC名を検索することができます。
IUPAC名→構造式
「ChemDraw-direct」にはIUPAC名から構造式を取得する機能もあります。
テキストモードで化合物のIUPAC名を打ち込み、テキストを選択した状態でパレットの上段右から4つ目の「Name→ベンゼン環」のアイコンをクリックすれば構造式が表示されます。先程の操作の逆ですね。IUPAC名をコピーした場合はキャンバスにペーストするだけでもテキストボックス化できます。
もしくは以下のようにします。
メニューバーの “Utilities” のタブから “Convert Name to CDXML” を選択します。この入力窓にIUPAC名を入力してOKを押すとCDXML形式のデータが出力されるので、これをコピーします。
次にメニューバーの “Structure” のタブから “Load CDXML” を選択します。出てきた入力窓に先ほどコピーしたCDXML形式のデータをペースト(貼り付け)してOKを押すとキャンバスに構造式が出力されます。
試しに「4-(tert-butyl)pyrimidine」の構造式を調べてみましょう。以下の構造式が得られていれば成功です。
例えば補酵素である「アセチルCoA」の構造式もこの方法で簡単に得られます。ただし “Acetyl-CoA” はIUPAC名ではないので “This name appears to be ambiguous”(この名前は曖昧なようです)と怒られてしまいます。
名称は正確なIUPAC名でなくとも融通が利きます。アミノ酸などは慣用名でもちゃんとCDXML形式に変換してくれます。変換できない場合は “A structure cannot be generated from the name: ・・・” とポップアップが出てきます。立体化学が曖昧な場合は “Caution: Stereochemical terms discarded: ・・・” というテキストボックスが構造式と一緒に出力されます。
残念ながら、フラーレンのように立体的な分子の場合はChemDraw-directでは裏側の原子が省略されてしまうため、正しく構造式を変換することができません。ただし構造式を得るだけであれば、パレットの右上の教卓のようなアイコンのタブから種々の化合物の構造式のサンプルを選ぶことができます。多数のサンプル構造式が用意されているので触ってみると面白いと思います。
以前公開した「化合物の命名に使えるオンラインアプリ」という記事でもIUPAC名を検索できるオンラインアプリを紹介しましたが、今回紹介したChemDraw-directはデータベースではなく描画専用のアプリであるため、直感的な操作&検索が可能です。とても便利なアプリなので、有機化学を勉強中の方は積極的に利用されることをお勧めします!
理科系の卒業生ではないので命名法について少し理解できました。