和歌山大学2017年前期 文系第1問

近年どこかの入試で見かけたような気がする妙に既視感のある整数問題です。3次方程式の解の公式、いわゆる「カルダノの公式」と関連がありそうな問題ですね。


《問題》

$\alpha =\sqrt[3]{\sqrt{5}+2}-\sqrt[3]{\sqrt{5}-2}$ とする。次の問いに答えよ。

(1)3次方程式 $x^3+3x-4=0$ の解を複素数の範囲で、すべて求めよ。

(2)${\alpha}^3+3\alpha$ は整数であることを示せ。

(3)$\alpha$ は整数であることを示せ。

(和歌山大学2017 文系第1問)


《考え方》

$x=1$ は明らかに3次方程式 $x^3+3x-4=0 \tag{1.1}$ の解ですから因数定理より $x-1$ を因数に持ちます。$x-1$ で括ると$$(x-1)(x^2+x+4)$$と変形できます。$x^2+x+=0$ を解くと $x=\dfrac{-1 \pm \sqrt{15}i}{2}$ を得ますから、3次方程式 $x^3+3x-4=0$ の解は$$\color{red}{x=1、\dfrac{-1 \pm \sqrt{15}i}{2}}$$となります。

(2)からは$\alpha$との格闘になりますが、素直に3乗してみます。以下、見やすさのために $p=\sqrt[3]{\sqrt{5}+2}$、$q=\sqrt[3]{\sqrt{5}-2}$ と表します。$\alpha=p-q$ ですから、$$\begin{align}& \ \ \ \ \ {\alpha}^3 \\ &=p^3-3p^2 q+3pq^2-q^3 \\ &=p^3-q^3-3pq(p-q) \end{align}$$

ここで $pq=1$ を利用します。証明は

$\begin{align}& \ \ \ \ \ \sqrt[3]{\sqrt{5}+2} \cdot \sqrt[3]{\sqrt{5}-2}\\ &=\sqrt[3]{(\sqrt{5}+2)(\sqrt{5}-2)} \\ &=\sqrt[3]{5-4} \\ &=1 \end{align}$

のようになり、$pq=1$ が成り立つことが分かります。これより、

$$\begin{align}\alpha &=(\sqrt{5}+2)-(\sqrt{5}-2)-3(p-q) \\ &=4-3\alpha \end{align}$$となるので$$\color{red}{{\alpha}^3+3\alpha=4}$$で確かに整数になっています。$\alpha$は実数ですから方程式$(1.1)$の実数解の一つとなります。(1)の結果から実数解は $x=1$ に限るので$$\color{red}{\alpha=1}$$となり確かに整数です。


(研究)

実際に $\alpha=1$ となるのですが、俄かには信じがたいですね。冒頭でも触れましたが、$\sqrt[3]{\sqrt{5}+2}-\sqrt[3]{\sqrt{5}-2}$ という形はいわゆる「カルダノの公式」によって導出できます。以下ではより一般的な3次方程式$$x^3+ax^2+bx+c=0 \tag{1.2}$$の解について述べておきます。

$p=-\dfrac{1}{3}a^2+b$、$q=\dfrac{2}{27} a^3-\dfrac{1}{3}ab+c$

と置いて、$$t^2+qt-\left(\dfrac{p}{3}\right)^3=0$$の解の一つを$r$とします。$r$の3乗根の一つを$u$として $v=-\dfrac{p}{3u}$ と置き、3次方程式$(1.2)$の3つの解を$\alpha$、$\beta$、$\gamma$とするとこれらはそれぞれ$$\begin{cases} \alpha = u+v-\dfrac{a}{3} \\ \beta=\omega u+{\omega}^2 v-\dfrac{a}{3} \\ \gamma={\omega}^2 u+\omega v-\dfrac{a}{3} \end{cases}$$で与えられます($\omega \ (\ne 1)$は$1$の3乗根)。表記の仕方は他にもありますが、こんなものは暗記の必要がありませんから何でも良いです。

以上の公式(?)を本問のケース当てはめてみましょう。上記の3次方程式で言うところの係数について$$\begin{cases} a=0 \\ b=3 \\ c=-4 \end{cases}$$ですから$$p=3、q=-4$$となり、$r$は$$t^2-4t-1=0$$で与えられるので $t=2 \pm \sqrt{5}$ となります。ここでは取り敢えず $r=2+\sqrt{5}$ としておきます。これより$$u=\sqrt[3]{\sqrt{5}+2}$$となりますから$$\begin{align}v&=-\dfrac{p}{3u} \\ &=-\dfrac{1}{\sqrt[3]{\sqrt{5}+2}} \\ &=-\dfrac{\sqrt[3]{\sqrt{5}-2}}{\sqrt[3]{(\sqrt{5}+2)(\sqrt{5}-2)}} \\ &=-\sqrt[3]{\sqrt{5}-2} \end{align}$$となるので上記の$\alpha$、$\beta$、$\gamma$について$$\begin{cases} \alpha = \sqrt[3]{\sqrt{5}+2}-\sqrt[3]{\sqrt{5}-2} \\ \beta=\omega \sqrt[3]{\sqrt{5}+2}-{\omega}^2 \sqrt[3]{\sqrt{5}-2} \\ \gamma={\omega}^2 \sqrt[3]{\sqrt{5}+2}-\omega \sqrt[3]{\sqrt{5}-2} \end{cases}$$となります。$\beta$、$\gamma$は$\dfrac{-1 \pm \sqrt{15}i}{2}$となりますから$$1 = \sqrt[3]{\sqrt{5}+2}-\sqrt[3]{\sqrt{5}-2}$$となるワケです。


(コメント)

なかなか険しい道のりでしたが、無事 $\alpha=1$ を示すことができました。この方法によれば他の3次方程式でも遊ぶことができます。その際は2次の項の係数が$0$のものを選ぶと良いでしょう。カルダノの方法は3次方程式を平行移動して(平方完成ならぬ)「立方完成」するという手順に則っていますが、詳しいことは後日まとめようかと思います。詳しく説明しているサイトも色々ありますし・・・。

2005年の弘前大に本問の類題がありますが、こちらは「整数でない」ことを証明する問題です。また、本問は2015年の横浜市立大(医)第3問とほぼ同一題です。

(2017/05/12追記)その他にも2002年大阪教育大後期、2009年東北大後期など類題多数。

 

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