2020年防衛医科大学入試における出題ミスについて

先日、防衛医科大学校(通称:防医)の入試が行われました。防医は難関大志望者や医学部志望者に併願者の多い大学で、1次試験が例年10月末に行われています。今年はその数学の試験において重大な出題ミスが発覚しました。今回はこのことについて解説します。

まずは件の問題を概観してみましょう。


 

実数xの関数 f(x)=14x4+ax32a2+a2x2+a2x(ただし、a0でない実数とする)について、以下の問に答えよ。

(1) 関数 y=f(x) のグラフは x=a に関して対称であることを示せ。

(2) 関数f(x)が異なる2つの極大値をもち、x=a で極小値をとるとする。このようなaの範囲を求めよ。

(3) aは(2)の範囲にある定数とする。関数f(x)の極大値を与える2つのxのうち、小さい方をαとする。y=f(x) のグラフは点(α,f(α)))で直線 l1 に接しているとする。また、l1 に平行な直線 l2y=f(x) のグラフにちょうど1点で接しているとする。曲線 y=f(x)l1 で囲まれた部分の面積S1と曲線 y=f(x)l2 で囲まれた部分の面積S2をそれぞれ求めよ。

(2020年防衛医科大学 (1次)数学第3問)

 

 検証

一見するとよくある4次関数の問題ですが、(2)の問題設定が誤っています。

(1)は正しく解答することが可能です。実際、tを実数として関数f(x)についてf(a+t)およびf(at)を計算すると、いずれもa44+a32+a2a2t2t44に一致し、f(a+t)=f(at)が常に成立するので、関数 y=f(x) のグラフは x=a に関して対称であることが示されます。

問題は(2)です。関数f(x)の導関数はf(x)=x3+3ax2(2a2+a)x+a2となるので、f(x)=0 の解としてx=a,a±a2aが得られます。したがって増減表は次のようになります。

(ⅰ)0a1 のとき

増減表は以下のようになります。xaf(x)+0f(x)↗14a3(2a)↘

(ⅱ)a<0 もしくは 1<a のとき

p=aa2aq=a+a2ap<q)と置くと、増減表は以下のようになります。xpaqf(x)+00+0f(x)↗14a2↘14a3(2a)↗14a2↘このとき(1)で確認した通り、グラフは x=a に関して対称なので f(p)=f(q)=14a2 が常に成り立ちます。

問題文には「異なる2つの極大値をもち」という記述がありますが、上記の通り異なる2つの極大値は存在し得ないので、問題設定が誤っていることが分かります。受験生の方はこの時点で「何か変だぞ?」と気が付いて下さい。

因みに、関数 y=f(x) のグラフは下図のようになります(点をスライドしてaの値を変えられます)。

 

 講評

y軸に平行な対称軸を持ちながらも、異なる2つの極大値を持つような4次関数というのは存在するのでしょうか?

まず、4次関数が異なる2つの極大値を持つためには4次の項の符号が負である必要がありますが、f(x)の表式を見る限り、この条件は満たしています。また、異なる2つの極大値を持つためには少なくとも1つの極小を持つ必要がありますが、この上さらに対称軸を持つとなると、極大が少なくとも3つは必要になります。3つの極大を有する4次関数というのは有り得ないので、結局、これらの2つの条件は両立しません。

結論としては

f(x)の表式が誤りで(1)の設問が不適切」

もしくは

「(2)の設問文の『異なる2つの』という文言が不適切」

のいずれかでしょう。管理人個人の意見としては後者の方のミスだと思います。

(1)の設問が誤っているかというと、f(x)がこの形で与えられている以上、y軸に平行な対称軸を持つことは紛れもない事実です。f(x)の表式が正しいとすれば、(2)の「異なる2つの」という文言が誤りである可能性が高いと考えられます。

「極大」は英語で言う所の “local maxima” (或いは “local maximum”) ですが、英語の場合は「極大値」の意味だけでなく「曲線あるいは曲面上の極大となる点」を指す場合があります。「異なる2つの極大」という表現であれば好意的に解釈することもできましたが、本問の場合は「異なる2つの極大」としてしまっているので弁明の余地が無いように思われます(実際には極大は一致するので)。言葉の綾と言えばそうなのですが、3つある大問のうち1問の大半が無効になってしまうという事象は看過できません。出題サイドはもう少し気を使うべきでした。

参考:令和3年度入校防衛医科大学校医学教育部医学科第48期学生採用 第1次試験記述式「数学」における出題ミスについて


・・・という訳で、出題者に代わって勝手に改題して供養しておきます。

 

 改題

 

実数xの関数 f(x)=14x4+ax32a2+a2x2+a2x(ただし、a0でない実数とする)について、以下の問に答えよ。

(1) 関数 y=f(x) のグラフは x=a に関して対称であることを示せ。

(2) 関数f(x)x=a で極小値をとるとする。このようなaの範囲を求めよ。

(3) aは(2)の範囲にある定数とする。関数f(x)の極大値を与える2つのxのうち、小さい方をαとする。y=f(x) のグラフは点(α,f(α)))で直線 l1 に接しているとする。また、l1 に平行な直線 l2y=f(x) のグラフにちょうど1点で接しているとする。曲線 y=f(x)l1 で囲まれた部分の面積S1と曲線 y=f(x)l2 で囲まれた部分の面積S2をそれぞれ求めよ。

(2020年防衛医科大学 (1次)数学第3問【改題】)


原題の趣旨を汲んで改題しました。こちらの問題であれば解答不能ということにはならなさそうです。原題の(3)の設問文の言い回しはヒントを減らそうとするあまり冗長になってしまっている印象を受けますが、意味が通じないという訳でもないので踏襲しました。


解答の概略

 

(1)

(省略)

 

(2)

検証の項で述べた通り、3つの実数解を持つ場合でないと関数f(x)x=a で極小値をとりません。したがって、求めるaの範囲は

a<0 もしくは 1<a ・・・ (答)

となります。

 

 

(3)

a<0 もしくは 1<a のとき、α=aa2a であり、β=a+a2aα<β)と置くと、増減表はxαaβf(x)+00+0f(x)↗14a2↘14a3(2a)↗14a2↘となります(増減表の値はaの正負に依りません)。直線 l1l2 も極大・極小における接線なのでx軸に平行な直線です(特に直線 l1 は「複接線」です)。

 

 

 

よって、S1=αβ{a24f(x)}dx=[a24x]αβαβf(x)dx=a24(βα)[120x5+a4x42a2+a6x3+a22x2]αβとなりますが、この後半の計算はマジメに実行したくないので160[(x22ax+a){3x39ax2+(2a+7)ax+(4a7)a2}+(8a216a7)a2x+(4a+7)a3]と整理してやると、S1=14a2(βα)+160(8a216a7)a2(βα)+160(4a+7)a3=215(a1)2a2(βα)+4a4+7a360=415(a1)2a2a2a+4a4+7a360と求められます。

 

次にS2を求めるために直線 l2 と曲線 y=f(x) の交点を求めます。そこで方程式f(x)=14a3(2a)を解くとx=a,a±2(a2a)を得るので、S2=a2(a2a)a+2(a2a){f(x)14a3(2a)}dx=[120x5+a4x42a2+a6x3+a22x2]a2(a2a)a+2(a2a)[14a3(2a)x]a2(a2a)a+2(a2a)となります。こちらも同様に第1項の多項式を x22axa2+2a で除すると、160{x22ax+(a2+2a)}{3x39ax2+a(5a+4)x+(a4)a2}160(7a214a8)a2x160(a26a+8)a3と整理できるのでS2=160(7a214a8)a222(a2a)160(a26a+8)a3+14a3(2a)22(a2a)=11a2+22a+415a22(a2a)+160(a4)(a2)a3と求められます。

 


思ったよりも得られた結果が煩雑になってしまったので、どこかで計算ミスをしているような気もしますが、一応解けないことはないと思います・・・。(3)のうまい計算方法を発見された方は是非コメントをお寄せ下さい。

 

ケアレスミスは誰にでも生じ得るものですが、出題サイドもミスすることがあります。素直な受験生であればあるほど問題が間違っているなどとは思いも寄らないものです。解いている最中に設問の不備に気が付けばよいですが、将来の掛かった大一番の最中にそんな余裕を持てるという人もなかなか居ないのではないかと思います。思い込みを重ねて余計な時間を費やしてまで解答をでっち上げる羽目になりかねません。後に出題ミスだと判断された場合、その問題の配点は無効になり、全員に加点されるか配点そのものが消滅します。つまり、その問題に掛けた時間は実質的に丸々ロスになってしまうのです。

本問は恐らく出題サイドによる解き直しが甘いか、問題文の不備が見逃されてしまった、というパターンだと思います。出題ミスは許されるものではありませんが、出題者も人間である以上こうしたミスは防ぎきれません。時にはこういうことが起こり得るのだということを気に留めておく必要があります。当サイトの「2018年大学入試総括」の記事で出題ミスに関するコラムを掲載していますので、併せてご覧下さい。

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