マグニチュードを理解しよう【地震の数理】

マグニチュードは地震の規模を表す尺度で、地震のエネルギーを数値化したものです。本稿ではマグニチュードの考え方や、マグニチュードと震度の違いについて解説します!

 

 マグニチュードは対数値!

マグニチュード」とは地震のエネルギーを$1000$の平方根を底とした対数で表した数値です。具体的には、マグニチュードを$M$、地震のエネルギーを$E$とすると、$$\log_{10}E = 4.8 + 1.5M$$という関係式が成り立ちます(ただし、これはあくまでも経験式であることに注意して下さい)。これより、マグニチュードが $1$ 増えると地震のエネルギーは約 $31.6$ 倍($\sqrt{1000}$ 倍)になり、マグニチュードが $2$ 増えると地震のエネルギーは$1000$倍($\sqrt{1000^2}$ 倍)になることが分かります。

例えば、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の本震のモーメントマグニチュード (Mw) は9.0で、2016年の熊本地震の本震はMwが7.0でした。つまり地震の大きさだけを見ると、東北地方太平洋沖地震は熊本地震の約1000倍のエネルギーが放出された、と言うことができます。

マグニチュードは放出される地震エネルギーとほぼ相関していて、マグニチュードが大きければ大きいほど、大きな地震ということになります。マグニチュードは地震の相対的な「大きさ」や「強さ」を表す値であり、この値からどの程度の地震の揺れを引き起こすのか、どの程度の津波が発生するのかを推定することができます。

 

 マグニチュード$\ne$震度

ここで注意しなければならないのは、日本でよく用いられる「震度」という指標との違いです。マグニチュードは地震の大きさ自体を指しますが、震度は観測地点の各点における揺れの大きさの程度を数値化したものを指します。

気象庁の震度階級は「震度0」「震度1」「震度2」「震度3」「震度4」「震度5弱」「震度5強」「震度6弱」「震度6強」「震度7」の10階級となっています。計測震度の算出方法については気象庁のページ(外部リンク)に詳しく記載されています。

以下に震度と揺れの状況の模式的なイメージを掲載します。これは気象庁の「震度について」(外部リンク)のページから引用したものです。

震度と揺れの状況

マグニチュードと震度の違いの要点は次のようにまとめられます。

要点

 

マグニチュード=地震の大きさ自体を表す対数値

 ➥地震ごとにただ一つ決まる値

 

震度=観測地点における揺れの程度を表す尺度

 ➥観測する地点によって様々に異なる値

 

 

 マグニチュードの歴史

実は「マグニチュード」よりも、日本で用いられている「震度」という指標の方が古い歴史を持っています。1916年(大正5年)に、建築家の佐野さの利器としかたは「佐野震度」(現在の工学的震度)を定義しました。これが震度という概念の元祖とされています。

一方、マグニチュードの概念は、アメリカ合衆国の地震学者であるチャールズ・F・リヒター(Charles Francis Richter)によって1935年に初めて提案されました。彼の提案した「ローカル・マグニチュード」(英: Local magnitude scale)は「リヒター・マグニチュード」とも呼ばれており、地震学の論文などでは$\mathrm{ML}$や$\mathrm{M_L}$などと表記されます。ローカル・マグニチュードは$$\mathrm{M_L}=\log _{10}A$$と定義されます。ここで $A$ は地震計で観測される最大振幅を表します。この値によって地震の大きさを客観的に規定できるようになりました。

しかし、ローカル・マグニチュードを使用して測定を行う場合、$\mathrm{M_L}>6$ の地震はすべてマグニチュード$6$の地震として誤認されてしまいます(文献によっては値が$5.5$や$6.5$になっています)。つまり、ローカル・マグニチュードによる計測ではマグニチュードの値が頭打ちになってしまうのです。これを「マグニチュードの飽和」と呼びます。

 

「マグニチュードの飽和」とは

マグニチュードの飽和が起きるのは、ローカル・マグニチュードの測定方法が地震波の最大振幅に依存するためです。地震が比較的短時間で完結する場合は、地震計で観測される地震波の振幅を用いるだけである程度の地震の規模を見積もることができます。しかしながら、数十~数百キロメートルにわたる断層のズレが発生する巨大地震の場合は、地震計で観測される最大振幅だけでは地震の規模を測れません。例えば、東日本大震災の被災地では震度4~5を超える揺れが数分間もの間ずっと続いた地域もありました。最大振幅が観測されるのは一瞬ですが、このような巨大地震の場合はエネルギーの放出が長時間続くため、最大振幅を測るだけでは地震の規模を正しく計測できないのです。

そこで1979年、マグニチュードの飽和を解決するための新しい指標として、カリフォルニア工科大学の地震学の教授である金森博雄とアメリカの地震学者であるトーマス・C・ハンクスによって「モーメント・マグニチュード」(英: Moment magnitude scale、$\mathrm{M_{w}}$)が提案されました。これは地震計で記録された地震波の振幅ではなく、地震モーメント($\mathrm{M_{0}}$)に基づいて計算されます。モーメント・マグニチュードは、最も破壊的な地震(マグニチュード8以上)のマグニチュードを確実に測定できる尺度であり、今なお世界中で広く用いられています。

断層面の剛性率を $\mu$($\mathrm{Pa}$)、断層面積の合計を $A$($\mathrm{m^2}$)、断層全体での変位(すべり)量の平均を $\bar{\mathstrut D}$($\mathrm{m}$)としたとき、地震モーメント $\mathrm{M_{0}}$ は、$$\mathrm{M_{0}}=\mu A \bar{\mathstrut D}$$と表されます。この値の単位はニュートンメートル($\mathrm{N \cdot m}$)で、つまりトルク(=力のモーメント)と同じです(※ここで言う$\mathrm{N \cdot m}$は仕事の単位(ジュール)ではありません)。モーメント・マグニチュード$\mathrm{M_{w}}$は$${\mathrm{M_w}}={\dfrac{2}{3}}\log_{10}\mathrm{M_0}-10.7$$という式で定義されます。

このようにして、地震波の最大振幅に依存しないマグニチュードが定義されました。これにより、マグニチュード9程度の巨大な地震であっても、正しく規模(エネルギー)を見積もることが可能となったのです。

 

 マグニチュードには色々な種類がある

マグニチュードの尺度は、地震波のどのような側面をどのように測定するかによって異なります。地震のタイプ、入手可能な情報、マグニチュードを使用する目的などにより、異なるマグニチュードスケールが使われます。上記の「モーメント・マグニチュード」の他にも以下のような種類が存在します。

● 実体波マグニチュード($\mathrm{M_{B}}$)

実体波を用いて測定されるマグニチュードで、周期約1秒の地震動に着目して求められています。ここで「実体波」とはP波・S波など岩盤中を伝わる地震波を指しています。実体波マグニチュードはグーテンベルクおよびリヒターによって定義され、次の式で与えられます。$$\mathrm{M_{B}}=\log _{10}\left({\frac {A}{T}}\right)+B(\Delta ,h)$$ $A$は実体波(P波、S波)の最大振幅、$T$はその周期、$B$は震源の深さ$h$と震央距離$\Delta$の関数をそれぞれ表しています。

表面波マグニチュード($\mathrm{M_{S}}$)

表面波の振幅・周期と震央距離(角度)から計測されるマグニチュードで、周期約20秒の地震動に着目して求められています。ここで「表面波」とは、地球の表面を伝わる波のことで、固体と気体(または液体)の境界のみを伝わるため、境界波とも呼ばれます。表面波マグニチュードの値は$$\mathrm{M_{S}}=\log \left({\frac {A}{T}}\right)+1.66\cdot \log \Delta +3.3$$で定義されます。$A$は表面波変位(µm)、$T$は表面波周期(秒)、$\Delta$は震央距離(角度)を表しており、定数はローカル・マグニチュードに合うように調整するためのものです。

● 気象庁マグニチュード($\mathrm{M_{j}}$)

日本の気象庁が定める地震のエネルギー量を表す指標です。気象庁マグニチュードの算出方法は走時表を用いた複雑なものでこの記事の範囲を超えるため、ここでは特に解説しません。興味のある方は、気象庁のページ(外部リンク)をご覧下さい。この他にも検潮器や津波の遡上高から算出される「津波マグニチュード($\mathrm{M_{t}}$)」などが知られています。


これらのマグニチュードスケールはいずれもチャールズ・リヒターによって考案された対数スケールを保持するように設計されており、ローカル・マグニチュードとほぼ相関するように調整されています。いずれのマグニチュードの指標を用いても、ローカル・マグニチュードに相当する値を外挿することができます。

マグニチュードの飽和は、地震のマグニチュードが8以上のとき、実体波マグニチュード($\mathrm{M_{B}}$)や表面波マグニチュード($\mathrm{M_{S}}$)の計算でも発生します。例えば、1960年のチリ地震が最初に表面波マグニチュードによりマグニチュード8.3と計算された後、数年後にモーメント・マグニチュードによりマグニチュード9.5として再計算されたのは、マグニチュードの飽和が理由でした。実際、これらのマグニチュードの表式には地震波の振幅$A$が用いられていることから、マグニチュードの飽和が起きる可能性があることが分かりますね。


 

以上、マグニチュードの基礎知識をザッと眺めてきました。マグニチュードの他にもpH(水素イオン指数)や恒星の等級など、世の中には意外と多くの対数値が用いられています。

マグニチュードが対数値であるという事実は、上手く扱えば共通テスト数学ⅡBなどの題材にも利用できそうです。実際、横浜市立大学の2010年の入試問題の小問の一つに、マグニチュードの経験式から地震のエネルギーを比較させる問題が出題されています。

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