量子力学:スピン1/2系の固有状態とエルミート性に関する証明

スピン1/2系の固有状態とエルミート性に関する簡単なメモ書きです。記号の使い方はJ.J.Sakurai著「現代の量子力学」に準拠しています。

※参考:量子力学:エルミート演算子の性質に関する証明



・前提

一般に演算子(ここではAと表す)はケット|aに対して左から作用し、A|aは別のケットになる。

一般にA|a|aの定数倍ではないが、演算子A固有ケットと呼ばれ|a,|a,|a,のような記号で表される重要なケットが存在する。これらはA|a=a|a A|a=a|a を満たしている。ここで小文字のaなどは定数であり、{a,a,a,}は演算子A固有値という。

固有ケットに対応する物理的状態は固有状態と呼ばれる。例えばスピン12系(m=1/2)の場合、固有値{a,a,a,}と固有ケットの関係はS|S;+=2|S;+ S|S;=2|S;のようになる。これらはまとめてS|S;±=±2|S;±のように表記される。つまりこの場合は|S;±が角運動量演算子Sの固有ケットであり、その固有値は±2ということになる。

以下ではこのことを前提とする。


・証明①

A=aaα|aa|A|aa|α=aa|a|α|2aを得る確率の証明

方針

a|A|a=a|A|aδaa=aδaaの関係を利用する。

A=aaα|aa|A|aa|α=aα|aa|A|aa|α(a|A|a=a|A|aδaa)=aα|aaa|α(a|A|a=a)=aaa|αa|α=aa|a|α|2ここで|a|α|2aという値を得る確率であることに注意すると、これは期待値の定義そのものである。いまaは測定値だから、これにより期待値が測定値の平均になっていることが理解できる。

δaaは「クロネッカーのデルタ」であり、その値は a=a の場合のみ1をとり、それ以外の場合は0となる。


・証明②

ブラケットによる角運動量演算子SxSyの構成

方針

|Sx;+=12|++12eiδ1| |Sx;=12|+12eiδ1|を用いて計算する。

演算子についてA=aa|aa|が成立することを既知とすると、Sx=2[(|Sx;+Sx;+|)(|Sx;Sx;|)]と書き下せる。

ここで|Sx;+=12|++12eiδ1| |Sx;=12|+12eiδ1|であり、これよりSx;+|=|Sx;+=12+|+12eiδ1| Sx;|=|Sx;=12+|12eiδ1|が導かれるから、|Sx;+Sx;+|=(12|++12eiδ1|)(12+|+12eiδ1|)=12(|++eiδ1|)(+|+eiδ1|)=12[(|++|)+(eiδ1|+|)+(eiδ1|+|)+(||)]および|Sx;Sx;|=(12|+12eiδ1|)(12+|12eiδ1|)=12(|+eiδ1|)(+|eiδ1|)=12[(|++|)(eiδ1|+|)(eiδ1|+|)+(||)]となる。よって(|Sx;+Sx;+|)(|Sx;Sx;|)=(eiδ1|+|)+(eiδ1|+|)となるから、Sx=2[(|Sx;+Sx;+|)(|Sx;Sx;|)]=2[eiδ1(|+|)+eiδ1(|+|)]で与えられる。Syの場合も全く同様にして与えることができる。


・証明③

角運動量演算子SxSySzの間に交換関係が成り立つことの証明

方針

[Sx,Sy]=iεxyzSz即ちSxSySySx=iSzを示す。

ここでは位相をSx=2[(|+|)+(|+|)] Sy=2[i(|+|)+i(|+|)]として考える。

SxSySySx=2[(|+|)+(|+|)]2[i(|+|)+i(|+|)]2[i(|+|)+i(|+|)]2[(|+|)+(|+|)]=i(2)2[(|+|)+(|+|)][(|+|)(|+|)]+i(2)2[(|+|)(|+|)][(|+|)+(|+|)]=i(2)2[(|+||+|)+(|+||+|)(|+||+|)(|+||+|)]+i(2)2[(|+||+|)(|+||+|)+(|+||+|)(|+||+|)]=i(2)2[(|+||+|)(|+||+|)]+i(2)2[(|+||+|)+(|+||+|)]=i(2)2[(||)(|++|)]+i(2)2[(||)+(|++|)]=i(2)[(|++|)(||)]=iSzより、交換関係が成り立っている。なお、途中で+|+=|=1の関係を用いた。

εxyzは「エディントンのイプシロン」や「レヴィ=チヴィタの記号」などと呼ばれる数学記号である。εijk={1((i,j,k)=(1,2,3),(2,3,1),(3,1,2))1((i,j,k)=(1,3,2),(3,2,1),(2,1,3))0(otherwise)

※同様にSxSySySx=0が示されるため、反交換関係{Si,Sj}=122δijの成立も確認できる。


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