今回は普段とは少し趣向を変えて、今年の東京大学の入試英語から1A(英文要約)の問題を取り上げてみます。
2020年東大英語1A問題
今年の要約問題は以下のようなものでした。解答時間の目標は10分以内です。後の問題のことを考えると、7分くらいで片付けられれば後々ラクになります。
1(A)
以下の英文は、高齢者にやさしい (age-friendly) 町づくりを促進するための世界的な取り組みについて論じたものである。この文章の内容を70〜80字の日本語で要約せよ。句読点も字数に含める。
The age-friendly community movement has emerged as a powerful response to the rapidly growing aging population. Although definitions of “age-friendly community” vary, reflecting multiple approaches and methods, many models highlight the importance of strengthening social ties and promote a vision that takes into account all ages. For example, Kofi Annan, who served as the seventh Secretary-General of the United Nations, declared in the opening speech at the UN International Conference on Aging in 1999, “A Society for All Ages embraces every generation. It is not fragmented, with youths, adults, and older persons going their separate ways. Rather, it is age-inclusive, with different generations recognizing and acting upon their common interests.”
The World Health Organization and other international organizations further articulate this premise by defining aging as a lifelong process: “We are all aging at any moment in our life and we should all have the opportunity to do so in a healthy and active way. To safeguard the highest possible quality of life in older age, WHO endorses the approach of investing in factors which influence health throughout the life course.”
In practice, however, the age-friendly community movement has focused primarily upon the needs and interests of older adults and their caregivers and service providers. In doing so, it has failed to gather enough data from youth and families about what produces good living conditions in a city or about opportunities for and barriers against working together with older adults.
What accounts for this gap between vision and practice? One answer may lie in the common assumption of the age-friendly community movement that what is good for older adults is good for everyone. In other words, if the age-friendly movement succeeds in making communities suitable for older adults, those communities will then be suitable for all generations. While there are many shared interests among different generations, recent studies in the United States and Europe indicate that young adults and older adults differ in their voting patterns and attitudes more than at any time since the 1970s. These studies suggest that in order to fully understand what constitutes a city that is friendly to people at different stages of the aging process, it is critical to gather data from multiple generations about what makes a city good for both growing up and growing older.
解説
要約問題を解く際のポイントは幾つかありますが、まずはテーマが何かを押さえる必要があります。今回はリード文があるので話の導入には全く困りませんね。内容も高齢化社会に関する問題が題材となっており、それほど目新しさはありません。
テーマと議論のおおまかな流れが把握できたら、次に文章の要点を抽出していきます。この作業は文全体の議論の仕方に注目しながら進めなければなりません。要点を抽出するとは言ってもいきなり飛ばし読みをするのではなく、少なくとも一度は文章全体を流し読むべきです。
文章の中で筆者が対比させているものに着目できれば文全体の流れが掴みやすくなります。例えば今回の場合は、the age-friendly community movement「高齢者に優しいコミュニティ運動」の今までの取り組み方と今後求められる取り組み方(この運動が目指す理想と現状の実践状況との乖離)が対比すべきポイントとなります。ここを外してしまうとほとんど加点は無いでしょう。
また、単なる具体例や引用部分は、自説の補強や反論もしくは批判の材料として持ち出されているだけなので要約の際に含めるほど重要度は高くありません。例えば、アナン氏の演説の中身やWHOのスタンスについて、解答の中で詳しく言及する必要はありません。文字数的にそんなに余裕が無いので、要約の際は具体例や引用の内容について触れるにしてもエッセンスのみを抽出してできるだけ圧縮する必要があります。
こうした評論型の文章では、まず問題提起があり、それに対する筆者の考え方や解決策が提示される、という流れになっていることが多いです。しかし今回のテキストでは問題提起が最後の段落に配置されています。英語が苦手な人はここで少し焦ったかもしれませんね。
1パラ(第1段落)では「高齢者に優しいコミュニティ運動」について述べており、“many models highlight the importance of strengthening social ties and promote a vision that takes into account all ages” という部分やアナン氏の演説を引用しつつ、年齢によって分け隔てなく全ての世代を受け入れる社会が望ましいという主張が述べられています。2パラでも同様で “this premise”「この前提」はWHOも支持している立場だということが述べられています。
3パラでは少し流れが変わります。「高齢者に優しいコミュニティ運動」が実際には「主に高齢者とその介護者およびサービス提供者のニーズと関心に焦点を当ててきた」と述べられており、現状では運動の目標となるビジョンに上手く近付けていないことが読み取れます。
そして4パラでやっと “What accounts for this gap between vision and practice?” という問題提起が登場します。直後に「その答えの一つは」とあるので、この要素は解答に上手くまとめたいですね。一番最後の文には筆者の意見が提示されており、これも落とせないポイントです。
ところで、4パラでは “assumption” がネガティブな意味で使われていることに気が付きましたか? “assumption” には「決めつけ」や「思い込み」というネガティブなニュアンスがあり、「(事実に基づかない、ときに誤った)仮定・前提」という語義の単語です。ここでいう「前提」とは「高齢者にとって良いことは全世代の人にとっても良いこと」を指しており、そのために実際には若者や家族から聞き取り調査などのデータ収集を怠っている、ということを筆者は指摘しているのです。
ここを読み違えて、「高齢者にとって良いことと全世代の人にとって良いことは同じだから、高齢世代以外からも積極的にデータを集めた方が良い」という間違った解釈をしてしまった受験生も多少居たのではないかと思います。筆者の考えは「高齢者にとって良いこと ≠ 全世代の人にとって良いこと」です。読み違えていてもそれっぽい解答になってしまうのですが、文意は正確に理解できるようにしておかなければなりません。
全体をまとめると次のようになります。書き出しはリード文にあるように「高齢者にやさしい町づくりは」などで良いでしょう。
要約例①
高齢者にやさしい町づくりは高齢者や介護者のニーズばかりを重視するのではなく、様々な年齢層のデータを集めて若者と老人の双方の世代に有益な社会の構築を目指すべきだ。(80文字)
以下の3点は何とかして解答に盛り込むべきです。
(現状)「高齢者や介護者のニーズばかりに応えている」
(理想)「若者世代と老人世代の両方に有益な社会」
(主張)「様々な年齢層からデータを集めるべき」
あるいは以下のようにポイントの順番を入れ替えても良いでしょう。
要約例②
高齢者にやさしい町づくりを進めるには、高齢世代のニーズだけに応えるのではなく、全世代にとって有益な社会を作るべく様々な年齢層からデータを集めなければならない。(79文字)
ただし試験時間は限られているので、多少不格好でも取り敢えず文意の通る形に仕上げることが何より重要です。制限字数に収まらない場合は適宜、言い換えや熟語化で情報を圧縮しましょう。「という」や「などの」といった言い回しは解答が冗長になってしまう原因なので極力使わないようにしましょう。
全文の和訳
全文の和訳を付けましたので、参考程度にご利用下さい。
世界保健機関やその他の国際機関は、加齢を生涯のプロセスとして定義することで、この前提をさらに明確化している。「私たちは皆、人生のいかなる時においても年老いつつあり、健康的で活動的な形で老いる機会をもつべきです。高齢になっても可能な限り最高の生活の質を維持するために、WHOは生涯を通して健康に影響を与える要因に投資するというアプローチを支持します。」
しかし実際には「高齢者に優しいコミュニティ運動」は、主に高齢者とその介護者およびサービス提供者のニーズと利益に焦点を当ててきた。そのせいで、何が都市の良好な生活条件を生み出すのかについてや、高齢者と一緒に活動する機会や障壁について、若者や家族から十分なデータを収集することができていない。
ビジョンと実践の間にあるこのギャップの原因は何なのだろうか? その答えの一つは、高齢者にとって良いことは誰にとっても良いことであるという、「高齢者に優しいコミュニティ運動」によく見られる前提にあるのではないだろうか。つまり、高齢者に適した地域社会作りが成功したとすれば、それはすべての世代に適したコミュニティになるということである。世代間での共通の利益が多く存在する一方で、最近の米国と欧州における調査は、若年層と高齢者の投票パターンや態度が1970年代以降でかつてないほど異なっていることを明らかにしている。これらの研究は、異なる段階の加齢プロセスにある人々に対して優しい都市を構成するものが何かを十分に理解するためには、何が成長と高齢化の両方に適した都市を実現するのかについて、複数の世代からデータを収集することが重要であることを示唆している。
こうして日本語で読んでみると、意外と短い文章を読まされているんだな、と感じられるのではないでしょうか?