平衡は反応が止まった状態なのか

反応容器の色や濃度が、しばらくたっても変わらなくなりました。もう反応は止まったのでしょうか。可逆反応では、右向きと左向きの変化が同時に続きながら、見かけの濃度が一定になる場合があります。これが動的平衡です。

この記事では、二つの向きの速度を数値で比べ、「速度が等しい」と「濃度が等しい」を区別します。そのうえで、今の組成から平衡へ進む向きを判断する道具、反応商 $Q$ と平衡定数 $K$ へ進みます。

前提知識:モル濃度、反応速度、比例、可逆反応。後半で登場する活量という言葉は、その場で説明します。全体を通して、温度が一定で、物質の出入りがなく、外部から反応を駆動し続けない系を考えます。 “平衡は反応が止まった状態なのか” の続きを読む

mol計算の増減表はなぜ一つのxで書けるのか

化学の計算では、反応前後の物質量を「はじめ」「変化」「あと」の表に整理します。ところが、窒素が $x$ 減り、水素が $3x$ 減り、アンモニアが $2x$ 増える、と書いたとき、この $x$ は何を測っているのでしょうか。物質ごとに違う文字を使わなくてよい理由も気になります。

一つの反応だけで物質量が変わるなら、その変化は係数の比にそろいます。そこで共通の進み具合を一つだけ決めれば、各物質の量が決まります。高校で使う増減表を丁寧に読むと、大学で学ぶ反応進行度の考え方が見えてきます。

前提知識:物質量とmol、化学反応式の係数、モル濃度。前半には微分を使いません。最後の発展節では、増減表と反応速度を結び付けます。 “mol計算の増減表はなぜ一つのxで書けるのか” の続きを読む

反応式の係数はなぜ速度式の指数と限らないのか

反応式に「2A」と書いてあったら、速度式には必ず $[\mathrm{A}]^2$ が現れるのでしょうか。濃度が濃いほど反応が速そうだ、と考えるところまでは自然です。ただし、「どれだけ使うか」と「どのくらい速く進むか」は、別々に確かめる必要があります。

この記事では、濃度を変えた実験から速度式の指数を読み取ります。その前に、反応速度と物質の消費速度を区別しましょう。最後に、一次反応の半減期までつなげます。

前提知識:化学反応式、モル濃度、比例と指数。微分は「グラフのその瞬間の傾き」と読めれば、前半を理解できます。対数と指数関数を使う最後の節は発展です。 “反応式の係数はなぜ速度式の指数と限らないのか” の続きを読む

ラセミ体とは?分子の「右手・左手」が半々に混ざる化学

分子にも、右手と左手のように、鏡に映した関係にありながら重ね合わせられないものがあります。その二つが同じ量ずつ混ざったものがラセミ体です。2026年のノーベル化学賞で話題になった「左右の偏りを増幅する反応」を理解するうえでも、この半々の状態が出発点になります。

「光を回さない」「左右が打ち消し合う」と説明されるラセミ体ですが、分子の形が変わったり、反応しなくなったりするわけではありません。この記事では、分子一つの性質と、集まった試料全体の性質を分けながら、ラセミ体の作られ方、測り方、分け方を説明します。 “ラセミ体とは?分子の「右手・左手」が半々に混ざる化学” の続きを読む

2026年ノーベル化学賞を解説:分子の「右手・左手」の偏りを増幅する仕組み

2026年10月7日、ノーベル化学賞の受賞者として、フランスのアンリ・B・カガン(Henri B. Kagan)氏と、東京理科大学名誉教授の硤合憲三(そあい・けんそう、Kenso Soai)氏が発表されました。受賞理由は「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒の発見」です。[1]

私たちの右手と左手は、鏡に映すと同じ形に見えますが、向きを変えるだけではぴったり重なりません。分子にも、このような「右手型」と「左手型」があります。今回の研究が示したのは、両者のごくわずかな量の差を、化学反応によって大きく増幅できるということです。分子の形の違いから、反応の仕組み、生命との関係までを順に説明します。 “2026年ノーベル化学賞を解説:分子の「右手・左手」の偏りを増幅する仕組み” の続きを読む