積分区間が無限に長いときや、途中で関数が無限大になるときは、原始関数に端点を代入するだけでは答えが出ません。まず有限の区間で積分し、その後に極限を取ります。特異点が複数あれば別々に調べ、正負の無限大を相殺しないことが出発点です。
実数の広義リーマン積分を中心に扱います。$\log$は自然対数です。条件収束・主値・数値計算の誤差まで、通常の定積分との違いを整理します。
1.広義積分は、切り取った積分の極限
右辺が有限の実数へ近づくとき収束といいます。両端や内部に特異点がある場合は、それぞれの片側積分が収束することが必要です。例えば$c\in(a,b)$が特異点なら、$\int_a^cf+\int_c^bf$の2つを独立に定義します。
無限区間$(-\infty,\infty)$も、有限の$c$で分けて$\int_{-\infty}^cf$と$\int_c^{\infty}f$を別々に調べます。定義と分割の考え方はトロント大学の広義積分資料でも確認できます。
2.べき関数の境界は、0付近と無限遠で逆になる
$p\ne1$では原始関数$x^{1-p}/(1-p)$から分かります。$p=1$では$\log x$が両方の境界で発散します。無限遠では速く減るほど収束しやすく、有限点の近くでは弱く発散するほど収束しやすいという違いです。
解答
前者は$\lim_{\varepsilon\downarrow0}[2\sqrt x]_{\varepsilon}^1=2$です。後者は$\lim_{R\to\infty}(2\sqrt R-2)=+\infty$で発散します。同じ関数でも、調べる端によって結論が変わります。
3.原始関数を求めずに収束を判定する
非負関数に対し、$0\le f\le g$で$\int g$が収束すれば$\int f$も収束します。$\int f$が発散すれば$\int g$も発散します。特異点や無限遠で$f/g\to L,\ 0<L<\infty$なら、2つの積分の収束性は一致します。
解答:両端を別々に評価
0付近では$x^{-1/2}$と同程度なので収束し、無限遠では$x^{-3/2}$と同程度なので収束します。値は$x=t^2$と置換して
置換はまず$\varepsilon\le x\le R$で行い、その後に両端の極限を取れば、端点で$dx/dt=0$になることを気にせず正当化できます。
さらに$0<a<1$なら$\int_0^{\infty}x^{a-1}/(1+x)\,dx$は収束します。0付近では$a>0$、無限遠では$a<1$がそれぞれ必要です。値の計算より先に、2つの条件の共通範囲を確定させます。
4.対数が現れる境界の積分
よって$p>1$で収束し、値は$1/(p-1)$です。一方、0付近の例
も同じ条件になります。置換後の積分の向きと$dx/x=-dt$が両方変わることに注意します。$p=1$では二重対数が発散し、ゆっくりした増加でも収束とはいえません。
5.対数が無限大でも積分できる
解答:境界項の極限を確認
$\varepsilon>0$で積分すると$[x\log x-x]_{\varepsilon}^1$です。$\varepsilon\log\varepsilon\to0$なので値は$-1$。$\log0$を代入するのではなく、$x\log x$全体の極限を取っています。$\int_0^1|\log x|dx=1$なので絶対収束です。
一般に、実数$\alpha>-1$と非負整数$m$に対し
導出:指数関数の積分へ変える
$t=-\log x$とおくと$\int_0^{\infty}e^{-(\alpha+1)t}t^m dt$です。さらに$s=(\alpha+1)t$により$(\alpha+1)^{-m-1}\int_0^{\infty}e^{-s}s^m ds$となります。最後の積分は部分積分を$m$回繰り返すと$m!$です。各回の無限遠の境界項は、指数関数が任意の多項式より速く減衰するため0になります。
6.絶対収束と振動による条件収束
$\int|f(x)|dx$が収束すれば$\int f(x)dx$も収束します。後者だけが収束するときは条件収束です。典型例が$\int_1^{\infty}\sin x/x\,dx$です。
収束の証明と尾部の誤差
$1\le R<T$で部分積分すると
右辺の絶対値は$1/R+1/T+\int_R^T x^{-2}dx=2/R$以下です。したがって尾部がコーシー条件を満たし、収束します。また
絶対収束はしません。各$k\ge1$について$[k\pi+\pi/6,k\pi+5\pi/6]$では$|\sin x|\ge1/2$なので、この区間の積分は$1/[3(k+1)]$以上です。調和級数との比較で$\int_1^{\infty}|\sin x|/x\,dx$は発散します。
0付近では$\sin x/x\to1$なので特異点は取り除けます。したがって$\int_0^{\infty}\sin x/x\,dx$も通常の広義積分として収束します。振動があることと主値を必要とすることは同じではありません。
7.コーシーの主値は別の極限
内部の特異点$c$を左右対称に除く極限を、コーシーの主値と呼びます。
通常の広義積分では左右を独立に収束させます。主値では同じ$\varepsilon$で結び付けるので、発散が相殺する可能性があります。
解答:通常の積分は発散、主値は0
左側は$-\infty$、右側は$+\infty$へ発散するので、通常の広義積分は存在しません。しかし対称に除くと
したがって主値は0です。左右を別の幅$\varepsilon,\delta$で除くと結果は$\log(\varepsilon/\delta)$です。例えば$\delta=k\varepsilon$なら$-\log k$となり、近づけ方によって値が変わります。
無限区間では$\operatorname{PV}\int_{-\infty}^{\infty}f=\lim_{R\to\infty}\int_{-R}^Rf$という対称極限も使います。例えば$x/(1+x^2)$は奇関数なのでこの主値は0ですが、左右の積分が別々には発散し、通常の広義積分は存在しません。
「奇関数だから積分は0」は、積分の存在を確認した後、または主値と明示した場合の議論です。$\infty-\infty$を0と計算しているわけではありません。
8.原始関数の差を取ってはいけない例
解答:途中の特異点で分ける
できません。$x=0$で被積分関数が未定義なので、区間全体へ通常の微積分学の基本定理を適用できません。左右を除いた和は$2/\varepsilon-2\to+\infty$です。主値でも発散します。非負の関数の積分を負の値にしてしまうことも、誤りを発見する手掛かりです。
部分積分でも、まず有限区間で公式を使い、境界項と残りの積分をそれぞれ極限で確認します。無限大での値を最初から0と置くのは、正当化の省略になります。
9.数値積分では打切り誤差も加える
$\int_0^{\infty}f$を$\int_0^Rf$で近似すると、有限区間の数値積分誤差に加えて、$R$より先を捨てた誤差が残ります。
例えば$f(x)=1/(1+x^2)$では$R>0$に対して尾部は$\int_R^{\infty}x^{-2}dx=1/R$以下です。有限区間の積分が高精度でも、$R=100$で止めたままなら、この単純な上界では打切り誤差は$10^{-2}$までしか保証できません。
0付近の特異性には置換も有効です。$\int_0^1g(x)/\sqrt x\,dx$なら$x=t^2$で$2\int_0^1g(t^2)dt$となり、$g$が連続なら新しい被積分関数も連続です。変換後の滑らかさを確認して数値積分を選びます。
10.確認問題8題
- $\int_0^1x^{-3/4}dx$。
- $\int_1^{\infty}x^{-3/4}dx$。
- $\int_e^{\infty}dx/[x(\log x)^2]$。
- $\int_0^1x^2(-\log x)dx$。
- $\int_{-\infty}^{\infty}dx/(1+x^2)$。
- $\int_{-2}^3dx/x$の通常の収束性と、0を対称に除く主値。
- $\int_0^{\infty}x^{a-1}/(1+x^2)dx$の収束範囲。
- $\int_1^{\infty}\sin x/x\,dx$を$R$で切るとき、尾部誤差$10^{-3}$以下を保証する十分な$R$。
解答
- $[4x^{1/4}]_0^1=4$、収束。
- $4R^{1/4}-4\to\infty$なので発散。
- $t=\log x$で$\int_1^{\infty}t^{-2}dt=1$。
- 一般式の$\alpha=2,m=1$から$1/9$。
- 左右とも収束し、逆正接から$\pi$。
- 通常は発散。主値は$\log(3/2)$。実際、対称に除いた和は$\log\varepsilon-\log2+\log3-\log\varepsilon$です。
- 0付近で$a>0$、無限遠で$a<2$なので$0<a<2$。
- $2/R\le10^{-3}$を満たす$R=2000$で十分です。これは単純な保証で、最適な打切り点を意味しません。
関連:積分のギャラリー。積分値を答えるときには、通常の広義積分としての値か、主値としての値かを必ず区別してください。
