花火の組成と反応

本稿では花火(Fireworks)における物質の役割について簡単に解説する。

 

 花火の組成と反応

夏の夜の風物詩と言えば、花火であろう。花火は化学の分野と関わりが深いことから、色々な教材や試験の題材として使われることがある。

花火の例(筑後川花火大会) (久留米観光コンベンション国際交流協会の公式HPより)

花火では発熱反応を利用して、熱や光、音を発生させている。一般に使われる酸化剤は硝酸塩と過塩素酸塩であり、これらは加熱すると分解して酸素を発生する。燃料は一般に、炭素、硫黄、粉末のアルミニウムもしくはマグネシウム、ポリ塩化ビニル(PVC)、デンプン、ゴムといった有機材料である。最も一般的な花火の成分は、硝酸カリウム、硫黄、木炭の混合物である煙硝あるいは黒色火薬で、酸化剤と燃料の両方を含む。

色、閃光、煙、音といった効果は、花火の火薬に添加物を加えることで得られる。よく知られているように、2族元素は花火の色を出すために使われる。

例えば緑色の炎を得るにはバリウム化合物を花火に加える。色の成因となる化学種は $\mathrm{BaCl}^{+}$ であり、これは $\mathrm{Ba}^{2+}$ イオンが $\mathrm{Cl}^{-}$ イオンと結合すると生じる。$\mathrm{Cl}^{-}$ イオンは、酸化剤である過塩素酸塩の分解や燃料であるPVCの燃焼の際に生成する。イオン反応式は次のようになる。$$\begin{aligned}
\mathrm{KClO}_{4}(\mathrm{s}) & \longrightarrow \mathrm{KCl}\,(\mathrm{s})+2 \mathrm{O}_{2}(\mathrm{g}) \\
\mathrm{KCl}\,(\mathrm{s}) & \longrightarrow \mathrm{K}^{+}(\mathrm{g})+\mathrm{Cl}^{-}(\mathrm{g}) \\
\mathrm{Ba}^{2+}(\mathrm{g})+\mathrm{Cl}^{-}(\mathrm{g}) & \longrightarrow \mathrm{BaCl}^{+}(\mathrm{g})
\end{aligned}$$ $\mathrm{KClO}_{4}$とバリウム化合物の組合わせに代わって塩素酸バリウム $\mathrm{Ba}\left(\mathrm{ClO}_{3}\right)_{2}$ が用いられてきたが、これは衝撃や摩擦に対してあまりにも不安定である。最近ではバリウム源として硝酸バリウムや炭酸バリウム、シュウ酸バリウムなどが用いられる。

また、赤色を作り出すためには、硝酸ストロンチウムや炭酸ストロンチウムが 用いられている。これは赤色の発光が $\mathrm{SrCl}^{+}$ の生成に基づくためである。単に赤色光を得るためであれば、塩素酸ストロンチウムや過塩素酸ストロンチウムなどが効果的だが、これらは衝撃や摩擦に対して非常に不安定であるため花火には普通使われない。

遺難時の閃光信号(信号弾)もストロンチウム化合物を利用する。硝酸ストロンチウムをおがくず、ろう、硫黄、$\mathrm{KCIO}_4$ と混ぜて、防水性の管に詰める。点火すると強い赤色の炎を伴う閃光が生じ、最長で30分にわたって発光が持続する。なお、遺難時の閃光信号が赤色なのは、赤色光の波長が大気中の粒子による散乱の影響を受けにくく、遠方からでも視認しやすいためである。これは信号機の「止まれ」が赤色であることにも通ずる。

 

以下に、炎色反応を示す金属とその代表的な化合物を挙げる。

表.炎色反応を示す金属と化合物の例

金属 化合物の例
ストロンチウム
リチウム

$\mathrm{SrCO_3}$
$\mathrm{Li_{2}CO_{3}}$
$\mathrm{LiCl}$

カルシウム $\mathrm{CaCl_2}$
ナトリウム $\mathrm{NaNO_3}$
バリウム $\mathrm{BaCl_2}$
ハロゲン化銅 $\mathrm{CuCl_2}$ (低温)
セシウム $\mathrm{CsNO_3}$
カリウム
ルビジウム
$\mathrm{KNO_3}$
$\mathrm{RbNO_3}$
木炭、鉄、ランプブラック
チタン、アルミニウム、ベリリウム、マグネシウムの粉末

なお、粉末のマグネシウムは、燃料としてだけではなく非常に強い発光を得るために花火や閃光信号に加えられる。マグネシウムが強い白色光を発するだけではなく、さらに酸化反応生成した $\mathrm{MgO}$ の粒子が高温で白熱光を生じるために明るさが増す。


ところで、昨日(2020年6月1日)、20時から全国各地で一斉に花火を打ち上げる「Cheer up!花火プロジェクト」が決行された。

新型コロナウイルスの影響で花火大会の中止が相次ぐ中、悪疫退散祈願を目的とし、花火で希望と元気を届けようと花火業者の有志により「全国一斉悪疫退散祈願Cheer up!花火プロジェクト」と銘打った企画が立ち上げられた。今回の催しでは見物客の密集を避けるために花火の打ち上げ場所は非公表とされた。5分間という短い時間ではあったものの、日本各地から投稿され拡散された画像や動画により、SNS上で色とりどりの花火が「打ち上げ」られた。

全国的に発出されていた緊急事態宣言が解除され、今月から新たな生活様式による日常が本格的に始まる。まだまだ油断できない状況に変わりはない。家に篭ってばかりで気分の塞ぎがちな日々が続いたが、日本、そして世界の「夜」に明るい華を、との粋な計らいは、人々に多少なりとも勇気を与えたことだろう。


 

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