方程式2^x=x^2の解について

皆さんは方程式 $2^x=x^2$ が解けますか?今回は名古屋大学の入試問題を題材に、この式の初等的な性質からランベルトのW関数との関係までを紹介します。

 

 $2^x=x^2$ の解は?

方程式 $2^x=x^2$ の解を探してみて下さい。$x=2,\,4$ はすぐに見つかると思いますが、実はこの方程式には解がもう一つ存在します

$y=2^x$、$y=x^2$ のグラフを図示すると以下のようになります。

この方程式には実は負の解 $x=\alpha$ が存在するのです。これに関して、2015年の名古屋大学理系数学に次のような出題があります。


 

次の問いに答えよ。

(1)関数 $f(x)=x^{-2} 2^{x} \ (x \neq 0)$ について、$f^{\prime}(x)>0$ となるための$x$に関する条件を求めよ。

(2)方程式 $2^x=x^2$ は相異なる$3$個の実数解をもつことを示せ。

(3)方程式 $2^x=x^2$ の解で有理数であるものをすべて求めよ。

(2015年/名古屋大学理系第1問)

この問題を簡単に解いてみます。

(1)

$f(x)=x^{-2} 2^{x}$ の導関数は$$\begin{aligned}
f^{\prime}(x)&=\dfrac{2^{x} \log 2 \cdot x^{2}-2^{x} \cdot 2 x}{x^{4}} \\ &=\dfrac{2^{x}(x \log 2-2)}{x^{3}} \\ &=\dfrac{2^{x}}{x^{2}} \cdot \dfrac{x \log 2-2}{x}
\end{aligned}$$と求められるので、$$\dfrac{x \log 2-2}{x}>0$$となるような$x$の範囲を求めればよいことが分かります。よって求めるべき$x$の条件は$$x(x \log 2-2)>0$$ $$\therefore \color{red}{x<0, \dfrac{2}{\log 2}<x}$$となります。

(2)

$x=0$ は方程式 $2^x=x^2$ を満たさないから、この方程式は $x^{-2} 2^{x}=1$ つまり $f(x)=1$ と同値となります。$$\begin{array}{|c||c|c|c|c|c|}
\hline x & \cdots & 0 & \cdots & \dfrac{2}{\log 2} & \cdots \\
\hline f^{\prime}(x) & + & & – & 0 & + \\
\hline f(x) & \nearrow & & \searrow & \text{極小} & \nearrow \\
\hline
\end{array}$$ $f(x)$の増減は上の表のようになっており、$\displaystyle\lim _{x \rightarrow-\infty} f(x)=0$、$\displaystyle\lim _{x \rightarrow 0} f(x)=\infty$、$\displaystyle\lim _{x \rightarrow \infty} f(x)=\infty$ となるので、$f(2)=f(4)=1$ と $x>0$ で $y=f(x)$ が下に凸であることに注意すると、曲線 $y=f(x)$(赤線)と $y=1$(青線)の位置関係について下図のようなグラフが描けます。

これより、方程式 $2^x=x^2$ は相異なる$3$個の実数解 $x=\alpha,\,2,\,4$ をもつことが示されます($\alpha$は負の解)。

(3)

方程式 $2^x=x^2$ の解で有理数であるものを探しますが、$x=2,\,4$ は明らかに有理数です。したがって、$x=\alpha$ が有理数かどうかが問題となります。

そこで$\alpha$が有理数と仮定し、互いに素な自然数$m$、$n$を用いて$\alpha=-\dfrac{n}{m}$と置くと、$$2^{-\frac{n}{m}}=\left(-\dfrac{n}{m}\right)^{2}$$より、両辺を$m$乗して$$2^{-n}=\left(\dfrac{n^{2}}{m^{2}}\right)^{m}$$ $$\therefore \dfrac{1}{2^{n}}=\dfrac{n^{2 m}}{m^{2 m}}$$ $$\therefore m^{2 m}=2^{n}n^{2 m}$$を得ます。$m$、$n$は互いに素なので$$\begin{cases} m^{2 m}= 2^{n} \\ 1=n^{2 m} \end{cases}$$が必要となります。これより$n=1$を得ますが、$$m^{2 m}= 2$$を満たすような自然数$m$は存在しません。

よって$\alpha$が有理数とする仮定は誤りであり、背理法によって$\alpha$は有理数でない、すなわち無理数となります。以上より、方程式 $2^x=x^2$ の解で有理数であるものは$$x=2,\,4$$のみと分かります。

 

 $2^x=x^2$ とランベルトのW関数

名古屋大の問題を手引きに、方程式 $2^x=x^2$ の有理数解は $x=2,\,4$ という自明なものに限られ、負の解 $x=\alpha$ は無理数であることが分かりました。

それでは、この負の数$\alpha$はどんな値なのでしょうか?


先ほどの名古屋大学の問題では比の関数を考察していましたが、ここで $g(x)=2^x-x^2$ という差の関数を見てみます。$y=g(x)$ のグラフは以下のようになります。

ここで $g(-1)=-0.5$、 $g(-0.5)=0.457107…$ となるので、$-1<\alpha<-\dfrac{1}{2}$ の範囲の数であることが分かります。実際、$$\alpha \approx -0.766664695962…$$という値になっており、これはニュートン法など数値微分の手法を使えば手元のプログラムなどで確かめることができます。


さて、結論から言うと、この負の数$\alpha$は初等関数では表すことができません。$\alpha$を明示的に表現するには「ランベルトのW関数」という聞き慣れない関数を用いなければなりません。

ランベルトのW関数は「オメガ関数」とも呼ばれ、$$W(x)e^{W(x)}=x$$という等式を満たすような関数の総称です。この関数$W(x)$を初等関数で表せないため、必然的に$\alpha$も初等関数では表せないのです。

ランベルトのW関数が具体的に何なのかというと、簡単に言ってしまえば「関数$y=xe^x$の逆関数」を指しています。

この図で $y=xe^x$(緑色)に対して、赤線と青線が関数 $y=W(x)$ を表しています。関数 $y=W(x)$ は $y \geqq -1$ の部分(赤色部分;$W_{0}(x)$)と $y \leqq -1$ の部分(青色部分;$W_{-1}(x)$)に分けることができます。

図を見ても分かる通り、関数 $y=W(x)$ は $-\dfrac{1}{e} \leqq x <0$ の範囲では2価関数(一つの$x$の値に対して$y$の値を$2$つ与える関数)となります

※関数 $y=W(x)$ を上下で分けたのが$W_{0}(x)$と$W_{-1}(x)$です(この場合、$W_{0}(x)$が主枝、$W_{-1}(x)$が分枝に相当します)。


では、方程式 $2^x=x^2$ の負の解をランベルトのW関数によって与えてみましょう。ランベルトのW関数について $W(x e^x)=x$ の関係が成り立つことを利用します。

方程式 $x^2 = 2^x$ の両辺に自然対数をとり、$$2 \log |x| = x \log 2$$ $$\therefore x^{-1} \log |x| = \frac{1}{2} \log 2$$ $$\therefore x^{-1} \log |x| = \log \sqrt{2}$$と整理します。

いま、$x<0$ の場合を考えるので、絶対値を外すと$$x^{-1} \log (-x) = \log \sqrt{2}$$となることに注意します。ここで$$-x^{-1} \log (-x) = -\log \sqrt{2}$$として、さらに $-x^{-1}=e^{- \log (-x)}$ により、$$\log(-x) \, e^{- \log (-x)} =-\log \sqrt{2}$$ $$\therefore -\log (-x) \, e^{- \log (-x)} =\log \sqrt{2}$$となります。この両辺についてランベルトのW関数をとると、$$W\left\{-\log (-x) \, e^{- \log (-x)}\right\} = W(\log \sqrt{2})$$ $$\therefore -\log (-x) = W(\log \sqrt{2})$$ $$\therefore x = \color{red}{-e^{-W(\log \sqrt{2})}}$$を得ます(途中でW関数の関係式を利用しました)。これは$$x=\color{red}{-\dfrac{1}{\log \sqrt{2}}W(\log \sqrt{2})}$$と表すこともできます。これこそが求めたかった負の解$\alpha$の値という訳です。負号が付いていてちゃんと負の値になっていますよね。


$\log \sqrt{2}>0$ より、$W(\log \sqrt{2})$の値は一意に定まるため、負の解$\alpha$が1個しかないことが分かります。同様にして正の解を求めると、$$x = \color{red}{e^{-W(-\log \sqrt{2})}}$$という式を得ます。ここで、関数 $y=W(x)$ が $-\dfrac{1}{e} \leqq x <0$ の範囲では2価関数だったことを思い出すと、$$-\dfrac{1}{e} \leqq -\log \sqrt{2} <0$$より、$e^{-W(-\log \sqrt{2})}$は$\color{red}{e^{-W_{0}(-\log \sqrt{2})}}$と$\color{red}{e^{-W_{-1}(-\log \sqrt{2})}}$という2つの値を同時に与えます。

実際、$$e^{-W_{0}(-\log \sqrt{2})}=2$$であり、$$e^{-W_{-1}(-\log \sqrt{2})}=4$$ なので、方程式 $2^x=x^2$ のすべての解がランベルトのW関数を用いて与えられることが分かります。

 

 ちょっとした一般化

方程式 $2^x=x^2$ を一般化して、$n$を正の整数として$$(2 n)^{x}=x^{2 n}$$という形の方程式を考えてみます。途中計算はバッサリ省略しますが、解は$$\pm e^{-W\left(\mp \frac{1}{2n}\log (2n)\right)}$$と求められ、これは確かに3つの解を与えます(正の整数$n$について $\small -\dfrac{1}{e} \leqq -\dfrac{1}{2n}\log (2n) <0$ は常に成り立つので、$e^{-W\left(-\frac{1}{2n}\log (2n)\right)}$は常に2つの値を与えます)。

ここで $n \to \infty$ として無限に飛ばすと、方程式の解のうち1つは $x=2n \ (\to \infty)$ であり、残りの2つは $x \to \pm 1$ に収束します。これは極限$$\displaystyle \lim_{n \to \infty}\dfrac{1}{2n}\log (2n)=0$$を考えれば半ば自明で、$$\pm e^{-W(0)}=\pm 1 \quad (\because W(0)=0)$$となるからです。これはグラフの形からも理解できると思います。



 

今回はランベルトのW関数を使って方程式 $2^x=x^2$ の解が与えられるという事実を紹介しました。ここまで踏み込んだ入試問題はさすがに出題されないでしょうが、面白い結果だと思います。

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