人工知能(AI)の基礎知識

AIブームと言われて久しい。だが未だに「人工知能=何かすごそう」程度の認識で止まっている方も少なからずいるのではないだろうか。本稿では近年隆盛を極めているAI周辺の知識を整理したいと思う。



・AIについて

AIには、自律思考が可能な「強いAI」と、そうでない「弱いAI」の2種類が存在する。

かの有名な22世紀からタイムマシンでやって来た猫型ロボットは自律思考が可能なので「強いAI」に分類される。このタイプのAIは「汎用型人工知能」と呼ばれ、これまで人類が開発に成功した例は無い。

図1. 22世紀の猫型ロボットのイメージ図
(著作権に配慮しています)

近年話題になっているのはどちらかと言えば「弱いAI」の方で「特化型人工知能」と呼ばれ、ある特定の領域のデータを基に条件を最適化したり傾向を予測したりする人工知能を指す。ビジネスの文脈で単に「AI」と表記されているものは大抵の場合、こちらのタイプである。

では、特化型人工知能は大したことができないのかと言えば、そんなことはない。

以下に、最近のAIの応用例のごく一部を列挙する。

画像認識・高解像度化、
音声認識・ノイズ除去・会話の文字起こし、
ゲーム内キャラクターの行動パターン、
顧客の購買パターン予測、
気象予報、
創薬におけるスクリーニング、
不良品検知、
営業・マーケティング戦略の立案、
為替・株式などの資産運用、
美術品の復元作業、
・・・等々

今後、産業と連携して特に活発に研究され、世界的に発展すると考えられるAI技術として、

「運転・操縦の自動化」

「農業の自動化」

「介護や医療の自動化」

が挙げられる。

自動運転技術の開発の歴史は長く、構想自体は既に1920年代からあったようである。画像認識システムを導入した無人運転技術としては80年代のドイツの例が有名だ。メルセデス社の車を改造して作ったサーバー室を積んでいるような車で、“VaMoRs”や“VaMP”と検索すれば画像が出てくる。現在、自動運転車の開発や実用化はGoogleを擁するアメリカが世界のトップを突き進んでいる。日本においては日産、本田技研工業、SUBARUが自動運転技術の開発を進めており、2020年までに自動運転車の発売を目指すと発表している。来年には自動運転車がその辺を走っているかもしれない。

後継者不足が深刻化している日本の農業をICT、ロボティクスを活用して再生させるプロジェクトにもAIの活用が大いに期待されている。卑近な例だと、TVドラマ化された国民的人気小説『下町ロケット』のヤタガラス編に無人農業ロボットが登場する。実際に農機メーカーのクボタは自動運転農機『アグリロボトラクタ』を実用化し、販売している。こうしたITを新たな軸とする農業形態は「スマート農業」と呼ばれ、日本農業再興のモデルとなりつつある。さらに国内だけでなく、スマート農業は農業立国の発展途上国においても応用の可能性が見出せる。そのため、AI関連分野の中でも特に世界規模で競争が激化することが予想される。

また、AIは医療分野でも活用が期待されている。画像診断をAIが行っているケースなどは既にメディアでも紹介されている通りで、最近では外科手術をAIの助けを借りながら行うことのできるロボットも導入が進んでいる。超高齢化社会の到来が待ち受ける日本において、人手不足で困窮している介護の現場を支援するロボットの開発は焦眉の課題である。AI搭載型介護用ロボットの実用化は徐々に進んでおり、国は助成金を出して導入を後押ししている。こうした介護関連のAI産業は今後ますます大きな市場になると考えられる。


・AIブームの歴史

そもそも、なぜ今AIブームが起きているのか?まずはAI開発の歴史を概観しておこう。

最初のAIブームは1950年代後半、“AI”という用語を定めた「ダートマス会議」の後に訪れる。当時、コンピュータと言えば、命令された処理をこなして結果を吐き出すという単純な作業しかできないと考えられていた。ところが、コンピュータは数学の問題を解いたり定理を証明したりするなど、人間のような知的な振る舞いが可能であることが示された。これによりAIが注目すべき新技術であるとして、多くの資金がこの分野に投入された。これが第1次AIブームである。

しかし70年代に入って、AI分野は一度冬の時代を迎える。コンピュータには常識が無い(学習=inputしなければならない)ため、誤った推論や現実的ではない推論を導くことがあった。また、当時はコンピュータというもの自体が登場して間もない時代であり、コンピュータ性能も非常に限られたものだった。そのため、簡単な問題は処理できても組み合わせが多くなると同じアルゴリズムでは忽ち解答不能に陥った。当時は人間が得意・苦手な問題とコンピュータが得意・苦手とする問題の区別が付いておらず、ブームは次第に下火になっていった。

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2回目のAIブームは「エキスパートシステム」の登場により再燃する。エキスパートシステムには、扱う領域を限定することで複雑な問題でも素早く解くことができるという特長があった。コンピュータの性能が第1次AIブームの時代に比べて向上していたことも、AI開発を促進する材料となった。

しかしエキスパートシステムを運用するには特徴量(AIの判断材料となる基準や要素)を人間が規定しなければならないため、莫大な労力と時間が必要であるという根本的な問題があった。しかも定義やルールから逸脱するような例があると使い物にならないため、人間の頭脳に及ばない性能しか発揮できないこともしばしば起きていた。結局、この期間におけるAIを用いた事業の成功は限定的で、AI開発はまたも冬の時代を迎えることになる。

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昨今のAIブームは第3次AIブームとされる。特に2000年代以降、インターネットやクラウドの普及により、それ以前の時代では考えられないほど大量のデータを誰でも容易に収集できる時代となったことが、ブームの大きな要因である。さらに、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれるデータ解析手法が確立されたことで、AI技術によって実現可能なことが飛躍的に増加した。機械学習的手法の充実がAI技術の進歩にとって追い風になっていることは間違いないが、その中でも特にディープラーニングはAI技術の発展を強力に促進している。

ディープラーニングの基となるニューラルネットワークを多層化するというコンセプトはコンピュータ黎明期から提案されていたが、計算コストの問題で近年まで研究が進んでいなかった。前回・前々回のAIブームの時代と比べると、現代のコンピュータのスペックは遥かに向上しており、これらの計算処理が実用時間内に可能となった。解析に有用なライブラリの配布や取得がインターネットを通じて相互的に行える環境が整備されたこともIT系の事業への参入のハードルを下げていると言える。個人用PC内でもプログラミングの知識さえあれば、自分で開発環境をカスタマイズできるし、ネット環境さえあればサーバーにリモートアクセスして作業ができる。こうした通信技術の発展もあり、スターバックスでコーヒー片手に作業するというワークスタイルが珍しくない時代になったからこそ、AIが必要とされる場面も増え、結果的にブームになっているのではないか。

AIブームの歴史については以下のウェブサイトが分かりやすい。
AI人工知能テクノロジー「人工知能AIブームの歴史」(外部リンク)


・AIの利用例、入試問題

2019年3月21日、Googleは可愛らしい見た目ながら、一風変わった目新しいDoodle(=「落書き」を意味するGoogleのロゴデザインの呼称)を公開した。「西洋音楽の父」とも呼ばれるドイツの大作曲家ヨハン・セバスチャン・バッハの生誕334周年を記念するロゴだという。これはただのロゴではなく、ユーザーが打ち込んだ音階の羅列にAIがバッハ調の伴奏を付けるという遊びの機能が付いている。実際に生成される和声もなかなかそれらしい雰囲気になっていた。

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また、最近になってキャラクターの顔イラストをAIによって自動生成するアプリケーションがcre8tiveAIに追加された(2019年9月10日)。

彩ちゃんはキャラクターの顔イラスト(アイコン)を描くAIです。キャラの特徴を学習しているので、100万種類以上の多種多様なオリジナルのイラストを超高速で描くことができます。

cre8tiveAIのHPより抜粋)

「彩ちゃん」と名付けられたこのAIソフトウェアは、大量の顔イラストを学習データとして用い、好みの顔イラストを非常に細かい精度で作成できる。技術的な面も興味深いが、SNSのアイコンを自由自在に作成することができる実用的なツールとして一時期ネット上で話題になった。詳細が気になる方はウェブサイトを訪問してみて頂きたい。


AIの商用利用はかつてないほど魅力を帯びているが、一方で冷静な受け止め方も紹介されている。人工知能研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授はDeep Learning Lab(DLLAB)2周年記念イベント『ディープラーニングの社会実装を阻むものは何か?』の講演の中で次のように述べている。

「18世紀の産業革命で動力が登場したことにより、1階から2階に上がるエレベーターができた。しかし当時は、1階から2階の移動であれば階段で上がったほうが早いと思われてしまい評価されなかった。それから数年経って高層ビルが立ち始めると、エレベーターは必須の技術になった。エレベーターは、1階から2階へ上がる技術ではなく、高層ビルの建設を可能にした技術。そして現在のディープラーニングはまだ1階から2階に上がるエレベーターのような状況。今後はディープラーニングを活用してこれまでになかった付加価値をどう生み出していくかが重要」
IT Search「AIバブルの崩壊は、いつか起きる – 東大 松尾豊教授が語る深層学習の未来」より引用(2019年12月18日閲覧)

現在のAI産業は、その黎明期にあると言える。松尾教授が指摘するように、AIは今後の社会基盤となり得る技術であることは間違いないが、現在の社会にはその力が100%発揮できる環境が備わっていない。その一方で、もし「高層ビル」が乱立するような時代が到来すれば、AI技術は「エレベーター」としてその時代に必要不可欠な存在となる可能性を秘めている。

その時代は恐らく我々が考えているよりも近い未来なのではないか。

ただし、AIは万能ではない。メディアの取り上げ方のせいか、「人工知能=何でも実現可能」というイメージが先行している感が否めない。AIは、華々しい快挙を次々と成し遂げ、既存の人類社会を直ちに激変させるかのような扱いを受けているが、実際には膨大なデータ空間に蓄積されたデータを如何に処理し、学習させるか、というプログラミングの知識や技術が土台であり、実際に内部でやっていることは統計と数学でしかない。AIの活用法をよく選ばなければ理想の結果は得られない。試されているのは我々ユーザーの方とも言える。


今年の大阪大学薬学部のAO・推薦入試の小論文において、次のような試験問題が課された。

2019年大阪大学(薬)AO入試

近年、DeepMind社が開発したコンピュータ囲碁プログラムAlphaGoが人間このブロ囲碁棋士に勝ったことを契機に、人工知能(artificialintelligence:AI)の産業応用に対する期待が高まっている。AIに関する研究課題の一つとして「機械学習」がある。「機械学習」とは、人間などが自然に行っている学習機能をコンピュータで実現しようとする技術のことを指す。膨大なデータから反復的に学習し、そこに潜むパターン(ルール)を見つけ出すことで、新たなデータが提示された際にその結果を予測するものである。一例として、顔認識システムが挙げられる。

 

問1 医療・薬学分野において、AIの技術はどのようなことに応用できると期待されるかについて、あなたの考えを400字以内で述べなさい。

人工知能は医療、とりわけ創薬の分野で大きな力を発揮しており、製薬企業の間ではマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の知識や技術を持ったエンジニアの獲得競争が激しさを増している。AIの台頭するこれからの時代を見据え、薬学系の分野に携わるであろう人材に対して問うた、時宜を得た出題であると言える。出題サイドは本問について以下のようなコメントを発表している。


人工知能(AI)は、現在様々な分野で活用されており、その技術革新が身近に感じられるものとなってきている。医療や創薬へのAIの応用が期待されるなか、薬学部の入学志願者がどのように感じ、考えているかについて、思考の柔軟性と創造性を見いだすとともに、自らの考えや発想を論理的かつ正確に表現する力を問う問題である。


今年の大学入試英語としては、青山学院大学(文/教育人間)、大阪市立大学、岡山大学、埼玉大学、滋賀県立大学、島根大学、一橋大学、法政大学(法)の前期試験の他、岐阜大学と九州大学の後期試験など、多数の大学でAIを題材とする文章が出題されていた。これら以外の大学でもこうしたテーマの長文読解が課されているものと思われる。

一橋大学の第1問は、英国放送協会BBCによって運営されているサイト “BBC Future” から、”Why our facial expressions don’t reflect our feelings“(外部リンク)というトピックが選ばれている。試験問題中では出典が伏せられているようであるが、原文はオンラインで閲覧可能である。表情を読み取ることのできるAIを開発するにあたって、表情を正しく解釈できるか否かは非常に重要なポイントである。本問の元々の主題は「文化間における表情の解釈の違い」であるが、人間の表情の認識がAI分野における核心技術の一つであることは注意しておきたい。

因みに、”BBC Future” は科学技術から社会情勢、健康、心理学に至るまで、幅広い分野の話題を取り上げるメディアとして知られている。英語の「試験勉強」に飽きた人はこのサイトを少し覗いてみると良い気分転換になるのではないかと思う。このように入試問題の出典となることもあるので、手近な教材として学生さんや先生方には大変お勧めである。

また、AIには直接触れていないものの、今年の広島大学の前期試験の英語長文において、学術系ウェブサイト “ScienceDaily“(外部リンク)を出典とし、病気や介護のための着替えを支援するロボットについてのトピックが採用されていた。ロボット工学(ロボティクス)はAI産業の勃興に伴って今後ますます重要視されるだろう。

本稿を執筆するにあたり今年の入試問題を漁ってみて、AI関連の評論を出題した大学の多さに驚いた。数年前にはSNSに関連する評論を素材とする出題がちょっとしたブームになったが、AIをテーマとする長文問題はそれと同等かそれを上回るのペースで増加している。来年以降の大学入試英語にもAIに関連する文章は頻出すると思われる。

余談であるが、東京大学では2017年に囲碁に関するリスニングの問題を課しており、その中でチェス専用のスーパーコンピュータであるDeep Blue(IBM)や、囲碁プログラム人工知能のAlphaGo(Google DeepMind)に触れている。更に余談だが、駿台予備学校が実施している東大入試実戦模試の2016年第2回の要約問題に、AIに関するトピックが採用されている(出典は「Robots won’t just take jobs, they’ll create them」(外部リンク))。

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AIが描く未来像の多くは便利で明るいものだと思われているが、そこには負の側面が潜んでいることも心に留めなくてはならない。ダークSFの傑作と言うべき「ターミネーター」シリーズは人工知能v.s.人類の構図になっているし、細田守監督の人気アニメーション映画「サマーウォーズ」もAIの暴走を発端にストーリーが展開する。これらの他にも、人類に敵対するAIを扱った作品は枚挙に暇がない。

SF作品に登場するような自律思考する「強いAI」の登場はまだ先のことだが、人間によって悪用されるAIの存在は日に日に現実味を帯びてきている。つい最近には中国が監視用AIの輸出を世界的に進めているというニュースがあった。各国はテロ対策の名目でこうした監視用AIを導入していくのであろうが、これらの監視技術は人権の制限や抑圧への転用が懸念されている。懸念事項はこれだけに留まらない。新しい技術には未知のリスクが常に潜んでいるのである。


これから少なくとも数年はこの分野に多くの資金と人材が投入されることになるだろう。人工知能、AIは、注目のされ方はやや過熱気味であるものの、各国が競って開発を推進している技術であり、人類社会の最適化に欠かせないツールとしての地位を固めつつある。これからの時代、ますます需要が生まれるであろうAIテクノロジーに投資している企業は、大小問わず大きく成長する可能性を秘めている。いつまたAIに冬の時代が到来するのかは誰にも分からないが、AIが人類にとって良き相棒となってくれることは全人類共通の願いである。

 

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