テイラー展開は、関数を多項式で近似する方法であると同時に、無限級数が元の関数を表すための条件を調べる方法です。係数を計算できること、級数が収束すること、その和が元の関数に等しいことは、それぞれ別に確認します。
中心を$a$とするべき級数$\sum_{n=0}^{\infty}c_n(x-a)^n$を扱います。$\log$は自然対数、誤差は特に断らない限り絶対誤差です。
1.収束半径を求め、端点は別に調べる
べき級数には収束半径$R\in[0,\infty]$があり、$|x-a|<R$では絶対収束し、$|x-a|>R$では発散します。$0<R<\infty$のとき、$x=a-R,a+R$での収束はこの情報だけでは決まりません。
右辺が0なら$R=\infty$、無限大なら$R=0$と解釈します。隣接係数比が存在して使いやすければ、比の判定法で$|x-a|$の条件を直接求めても構いません。
解答:半径3の後に2つの端点を確認
絶対値の隣接比は$|x-2|n/[3(n+1)]\to|x-2|/3$なので、内部$-1<x<5$で絶対収束します。$x=5$では$\sum1/n$で発散、$x=-1$では$\sum(-1)^n/n$で条件収束です。収束区間は$[-1,5)$です。
2.項別微分・積分は収束円の内側で使う
$|x-a|<R$では
微分・積分後の収束半径も$R$です。ただし端点の収束は変わることがあります。例えば$\sum x^n$は$x=\pm1$の両方で発散しますが、0から項別積分した$\sum x^{n+1}/(n+1)$は$x=-1$で収束します。
内側の閉区間なら、なぜ積分と無限和を交換できるのか
$0<r<\rho<R$を選びます。$\sum|c_n|\rho^n$が収束するので、$|x-a|\le r$では$|c_n(x-a)^n|\le|c_n|\rho^n$という$x$によらない上界が得られ、一様収束します。このため、連続な項の和と積分を交換できます。微分級数も$n(r/\rho)^{n-1}$が有界であることなどから内側で一様収束し、項別微分を正当化できます。
定理の適用範囲はOpenStaxのべき級数の性質にまとまっています。端点を代入する場合は、別途収束と関数値との一致を証明します。
3.等比級数から対数・逆正接を作る
$t=-x$として0から積分すると
また$t=-x^2$を代入して積分すると
$x=1$は開区間の外なので、ここまでの議論だけでは代入できません。有限等比和の剰余を積分すれば、端点も直接扱えます。
最後の積分の絶対値は$1/(N+1)$以下で0へ近づくため、端点での一致が証明されます。逆正接でも剰余は$(-1)^{N+1}\int_0^1t^{2N+2}/(1+t^2)\,dt$となり、$\pi/4=1-1/3+1/5-\cdots$が得られます。
4.テイラーの定理は有限多項式と剰余の等式
$f$が$a$と$x$を含む区間で$N+1$回連続微分可能なら、$a$と$x$の間のある$\xi$について
区間内で$|f^{(N+1)}(t)|\le M$なら、$|R_N(x)|\le M|x-a|^{N+1}/(N+1)!$です。有限の$N$に対するこの定理と、$N\to\infty$で剰余が0になるかどうかは別問題です。基本形はOpenStaxのテイラーの定理でも確認できます。
解答
$0\le t\le0.2$で$e^t\le e^{0.2}<1.25$を使えば、$|R_3|<1.25(0.2)^4/24=1/12000\approx8.34\times10^{-5}$です。$e^{0.2}<1.25$は、$e^x=\sum x^n/n!\le\sum x^n=1/(1-x)$($0\le x<1$、$x>0$では厳密不等号)から得られます。剰余は正なので、近似値は真の値より小さいことも分かります。
$e^x$の級数表示をこの評価で初めて使う場合は、循環論法を避けます。先に$0\le t\le0.2$で$e^t\le e$と粗く抑えれば、階乗により剰余が0へ近づくことを示せます。その後で上の鋭い評価を使えます。
5.ゼロ係数を利用して誤差を鋭くする
解答
4次の係数も0なので、この式を4次までのテイラー多項式とみなします。5階微分は$\cos x$で絶対値が1以下です。よって
3次の剰余として$|x|^4/24$と抑えることもできますが、消えている係数を利用すると改善します。
6.展開する変数を変えて計算を速くする
$\log2$を交代調和級数で求めると、単純な誤差上界では$10^{-6}$の精度に約100万項必要です。ところが
に$t=1/3$を代入すれば$\log2$が得られます。これは$\log(1+t)-\log(1-t)$を取って偶数次を消した式です。$0<t<1$で最初の$N$項を使うと、残りは正で
$t=1/3,N=6$なら上界は約$1.09\times10^{-7}$です。6項で$10^{-6}$以下を保証できます。同じ関数でも、展開点や変数の選び方が計算量を大きく変えます。
7.無限回微分可能でも、テイラー級数と一致するとは限らない
次の関数を考えます。
この関数は全実数で無限回微分可能で、$f^{(n)}(0)=0$がすべての$n$で成り立ちます。そのため0でのテイラー級数は恒等的に0ですが、$x\ne0$では$f(x)>0$です。
すべての導関数が0になる理由
$x\ne0$で微分すると、各階の導関数は$1/x$の多項式と$e^{-1/x^2}$の積になります。任意の正の整数$m$に対して$|x|^{-m}e^{-1/x^2}\to0$です。$t=1/x^2\to\infty$とおけば$t^{m/2}e^{-t}\to0$だからです。差商にも同じ評価を使い、帰納的に各階の0での微分係数が0であることを示せます。
「滑らか」と「解析的」は同義ではありません。無限級数が関数を表すと主張するには、剰余が0に近づく根拠が必要です。
8.極限・積分・微分を交換する前に
$f_n(x)=x^n$は$[0,1]$で各点収束しますが、極限は$x<1$で0、$x=1$で1なので不連続です。連続関数の列だから極限も連続、という推論は成立しません。
微分との交換はさらに注意が必要です。$f_n(x)=\sin(nx)/n$は実数全体で一様に0へ近づきますが、$f’_n(x)=\cos(nx)$は一般に収束しません。関数自体の一様収束だけでは項別微分の保証にならないのです。べき級数の内側で微分が許されるのは、導関数の級数にも必要な収束性があるためです。
9.確認問題6題
- $\sum_{n=1}^{\infty}x^n/n^2$の収束区間。
- $\sum_{n=0}^{\infty}n!x^n$の収束半径。
- $1/(1-x)^2$を$|x|<1$で級数表示。
- $\cos x\approx1-x^2/2$の$|x|\le0.1$での誤差上界。
- $\log(1.1)$を$0.1-0.1^2/2+0.1^3/3$で近似したときの誤差上界。
- 収束半径が1の級数を項別積分したら、収束半径はどうなりますか。端点はどうですか。
解答
- $[-1,1]$。両端とも絶対収束です。
- $R=0$。$x\ne0$では隣接絶対比$(n+1)|x|\to\infty$、$x=0$では定数項だけが残ります。
- 等比級数を微分して$\sum_{n=1}^{\infty}nx^{n-1}$、または$\sum_{n=0}^{\infty}(n+1)x^n$です。
- 3次係数が0なので4階微分で評価し、$|R|\le0.1^4/24\approx4.17\times10^{-6}$。
- 交代級数の次項から$|R|\le0.1^4/4=2.5\times10^{-5}$。次項が負なので、この近似値は真の値より大きいです。
- 半径は1のままです。端点での収束性は変わることがあるため、改めて調べます。
関連する公式一覧:級数のギャラリー。計算結果には、使用した項数・有効な$x$の範囲・誤差上界を添えると、近似値としての意味が明確になります。
