部分和分とDirichlet・Abelの判定法――振動する級数を扱う

項の絶対値だけでは見えない相殺を、部分和の有界性として利用します。

レベル:大学初年級・発展

前提知識:数列の和・級数の収束・三角関数

学習の入口:数列・漸化式の型別・レベル別ガイド

1.部分積分の離散版

$A_n=\sum_{k=1}^n a_k,\ A_0=0$ とすると $a_k=A_k-A_{k-1}$。これを有限和に代入して添字をそろえれば、$$\sum_{k=1}^N a_kb_k=A_Nb_N+\sum_{k=1}^{N-1}A_k(b_k-b_{k+1}).$$ これが部分和分(Abelの変形)です。無限和をいきなり並べ替えず、まず有限和の恒等式を作ることが大切です。

例題1:重み付きの和を変形する

$a_k=k,\ b_k=r^k$ とすれば、$A_k=k(k+1)/2$ を使う形になります。一方、等比成分を先に足した方が簡単なこともあります。例えば $\sum_{k=1}^N kr^{k-1}$ は、有限等比和を $r$ で微分して、$r\ne1$ のとき $$\frac{1-(N+1)r^N+Nr^{N+1}}{(1-r)^2}$$ です。有限和の微分には収束条件は要りません。$r=1$ は別に $N(N+1)/2$ とします。

2.Dirichletの判定法

部分和 $A_N$ が一様に有界、つまりある $M$ で $|A_N|\le M$ とし、$b_n$ が非負で単調減少して0に近づくとします。このとき $\sum a_nb_n$ は収束します。$a_n$ 自身が0へ近づく必要はなく、相殺により部分和が抑えられていればよいのです。

証明の中心は尾部です。$B_{m,k}=\sum_{j=m}^k a_j$ とすれば $|B_{m,k}|\le2M$。有限和に部分和分を使うと $$\left|\sum_{k=m}^N a_kb_k\right| \le2M\left\{b_N+\sum_{k=m}^{N-1}(b_k-b_{k+1})\right\}=2Mb_m.$$ $m\to\infty$ で0になるためCauchyの条件を満たします。

例題2:交代調和級数

$a_n=(-1)^{n-1}$ の部分和は0または1、$b_n=1/n\downarrow0$ なので収束します。絶対値の級数は調和級数で発散するため条件収束です。この特別な交代級数では、隣り合う部分和のはさみうちにより、より鋭い余りの評価 $|R_N|\le1/(N+1)$ も得られます。

3.三角関数の振動に応用する

$\theta$ が $2\pi$ の整数倍でないとき、有限等比和から $$\left|\sum_{k=m}^N e^{ik\theta}\right|\le\frac2{|1-e^{i\theta}|} =\frac1{|\sin(\theta/2)|}.$$ 実部・虚部を取れば余弦・正弦の部分和も同じ定数で抑えられます。従って $\sum\sin(n\theta)/n$ は収束し、$$|R_N|\le\frac1{(N+1)|\sin(\theta/2)|}.$$ 複素数を使わず、三角関数の有限和の公式からも示せます。

$\theta=\pi/2$ では級数は $1-1/3+1/5-\cdots$ で条件収束します。$\theta$ が0に近づくと上の評価は悪くなるので、この評価だけで全ての $\theta$ に関する一様収束は示せません。$\theta=2\pi\ell$ の正弦級数は全項0として別に扱えます。

4.Abelの判定法との違い

$\sum a_n$ が収束し、実数列 $b_n$ が単調かつ有界なら、$\sum a_nb_n$ も収束します。これがAbelの判定法です。$b_n$ の極限は0でなくても構いません。$b_n\to b$ として $\sum a_nb_n=b\sum a_n+\sum a_n(b_n-b)$ と分け、後者へDirichlet型の議論を使えます。減少か増加かに応じて符号を調整します。

例えば $\sum(-1)^{n-1}(1+1/n)/n$ は、収束する $\sum(-1)^{n-1}/n$ に単調有界な $1+1/n$ を掛けたものとして収束が分かります。なお、べき級数の端点に関する「Abelの定理」と、この判定法は別の主張です。

作問者の視点――条件と解法の関係

確認演習と解答

まず方針と必要な条件を言葉にしてから計算してください。解答は開いて確認できます。

演習1 $\sum_{n=1}^\infty(-1)^{n-1}/\sqrt n$ の収束と絶対収束を判定せよ。

解答・考え方を開く

交代符号の部分和は有界、$1/\sqrt n\downarrow0$ なので収束。絶対値は $p=1/2$ の $p$ 級数で発散し、条件収束です。

演習2 $\sum_{n=1}^\infty\cos(n\pi)/n$ は収束するか。

解答・考え方を開く

$\cos(n\pi)=(-1)^n$ なので条件収束します。

演習3 $a_n=1,b_n=1/n$ にDirichlet判定を使えるか。

解答・考え方を開く

部分和 $A_N=N$ が有界でないので使えません。積の級数は調和級数で発散します。「$b_n\to0$」だけでは不足です。

参考資料

定理・基本的な方法の確認に使える公開教材です。本ページの例題・演習・作問上のコメントは、解説用に独自に構成しています。