今回は今年のお茶の水女子大の後期入試の整数問題を取り上げます。
《問題》
次の問いに答えよ。
(1)$a、b$ を整数の範囲で動かして考えるとき、整数 $a^2+3b^2$ を$6$で割ったときの余りとして実際に得られるものを$0$から$5$の中からすべてあげよ。
(2)$a^2+3b^2=2c^2$ を満たす整数$a、b、c$は、$a=b=c=0$ に限ることを示せ。
(3)実数$x、y$が $x^2+3y^2=2$ を満たすとき、$x$と$y$の少なくとも一方が無理数であることを示せ。
(お茶の水女子大学2017 後期理学部第1問)
《考え方》
(1)は組み合わせのパターンを数え上げるだけですね。
平方数を$2$で割った余りは$0$か$1$に限り、$3$で割った余りは$0$か$1$に限りますから、平方数を$6$で割った余りは$0$、$1$、$3$、$4$に限ります。 よって $3b^2$ を$6$で割ったときの余りは$0$、$3$に限りますから、整数 $a^2+3b^2$ を$6$で割った余りは、すべての組のパターンを尽くして、$$\color{red}{0、1、3、4}$$に限られることが分かります。
(2)では(1)の内容を踏まえて右辺 $2c^2$ を$6$で割った余りに着目します。平方数を$6$で割った余りは$0$、$1$、$3$、$4$に限るので、$2c^2$ を$6$で割った余りは$0$または$2$のいずれかとなります。しかし(1)の結果より、左辺は $0、1、3、4 \pmod{6}$ しか取り得ないので、$2c^2$ を$6$で割った余りは$0$に限られます。このとき整数$c$は少なくとも$3$の倍数であることが必要であり、また左辺を$6$で割った余りは$0$なので$a$も$3$の倍数であることが必要です(※)。
(※)整数$a$、$b$について、$a^2+3b^2$ が$6$で割り切れるためには$$(a^2、3b^2) \equiv (0、0)、(3、3) \pmod{6}$$の場合に限られます。$a^2 \equiv 0、3 \pmod{6}$となるのは$a$が$3$で割り切れる場合に限るので、少なくとも$a$は$3$の倍数でなければなりません。
そこで $a=3A$、$c=3C$ (ただし$A$、$C$は整数)と置けるので、これを与式に代入すると、$$9A^2+3b^2=2 \cdot 9C^2$$ $$\therefore 3A^2+b^2=6C^2$$となります。したがって$b$も$3$の倍数でなければならず、$b=3B$ (ただし$B$は整数)と置けます。これを与式に代入して整理すると$$A^2+3B^2=2C^2$$という最初と全く同じ式が得られます。すると整数$A$、$B$、$C$についても全く同じ議論ができるので、結局、整数$a$、$b$、$c$は素因数$3$を無限に持つことが必要となりますが、そのような整数は存在しません。従って与方程式の解は、自明な解である$$a=b=c=0$$に限られます。
ここまで来れば(3)はオマケ問題のようなものです。$x$、$y$がいずれも$0$でない有理数であるとして $x=\dfrac{p}{q}$、$y=\dfrac{r}{s}$ と置きます($p、q$は互いに素、$r、s$は互いに素)。与式より、$$\dfrac{p^2}{q^2}+\dfrac{3r^2}{s^2}=2$$ $$\therefore (ps)^2+3(qr)^2=2(qs)^2$$を得ます。$ps、qr、qs$は整数なので(2)より、$$ps=qr=qs=0$$が言えます。仮定より$p$、$r$がともに$0$になることは無いので、この条件から、$q$、$s$のうち少なくとも一方が$0$にならなければなりません。しかしこれは$x$、$y$がいずれも有理数であるという仮定と矛盾します。よって背理法により$x$、$y$の少なくとも一方が無理数であることが示されます。
(コメント)
解き方が見えていれば易問なのですが、実際の受験生の出来はどうだったのでしょうか?
(2)で用いた論法は「無限降下法」と呼ばれています。無限降下法は本問や「創作整数問題#15」のような問題で威力を発揮します。解が全部$0$(自明な解)に限ることを証明させるタイプの問題では、ヒントが無くても無限降下法の利用を考えておくべきでしょう。
なお、1987年の東京都立大(現:首都大学東京)の理・工に $x^2+y^2=3$ のバージョンが出題されています。また最近では2006年の東大理科で無限降下法を使う出題がありました。
(おまけ問題)
$x^2+y^2=3$ を満たす有理数$x$、$y$は存在しないことを証明せよ。
(東京都立大1987 (理/工)第?問抜粋)
» 《ヒント》
《ヒント》
整数$a$、$b$について、$a^2+b^2$ が$3$で割り切れるとき、$a$、$b$を$3$で割った余りはどうなっているでしょうか?
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やや上級な参考書に載っているかもしれません。
(2) で,$a^2+3b^2=2c^2$ の両辺を $6$ で割った余りは $0$ に限ることが
(1)の考察から得られますが,
そこからの結論は,「$a,\ b,\ c$ は $3$ の倍数」です.
(実際,$a=b=c=3$ のとき,もちろん等式は成立しませんが,
両辺を $6$ で割った余りはともに $0$ になります.)
きちんと書けば,
・$2c^2$ が $6$ で割り切れるから,$c$ は $3$ の倍数.$c=3C$ とおく.
・$a^2=18C^2-3b^2$ は $3$ で割り切れるから,$a$ は $3$ の倍数,$a=3A$ とおく.
・$b^2=6C^2-3A^2$ は $3$ で割り切れるから,$b$ は $3$ の倍数.
また,「素因数 $6$」とあるのも変で,
上記のことと合わせて,当然「素因数 $3$」ですね.
たけちゃん 様、コメントありがとうございます。
拙稿をいつも丁寧に読んで下さり感激です。
ご指摘の部分について、修正致しました。
$a,b,c$が$6$の倍数であるとは限らないということは表などをしっかり書いておけば分かりますね。大変失礼しました。
無限降下法は数論ではよく使う手法ですが,高校数学では習う機会が少なく,
受験生には手ごわい対象かもしれませんね.
なお,些少なことですが,「$b=3B$」の直後の但し書きは「$B$ は整数」です.
たけちゃん 様、コメントありがとうございます。
ご指摘の誤植を修正致しました。
ありがとうございます。
無限降下法については、進学校と言われる私立高でも教わらない生徒が意外に多いのかもしれません。
本稿の最後の方に「おまけ問題」として紹介した都立大の問題は、実は2014年の九州大学前期文理共通第2問とほとんど同じです。九州大の問題は誘導が丁寧だったので、無限降下法を知らなくても勘が良い受験生であれば完答できたものと思われますが、やはり類題を経験しておくことは重要だと感じます。
新課程になってからは本問のような難しめの整数問題が増えてきていると感じますね。