という整数は平方数であるという以外にも面白い性質を持っています。今回はを起点として「ひっくり返すと倍数になる整数」について考えてみます。
はで割り切れる
ある整数について、各位の数字をひっくり返して得られる整数が、元の整数で割り切れることがあります。例えば、の各位の数字をひっくり返すととなり、 なのでで割り切れます。ちょっと面白いですね。
ここで、ある整数の各位の数字をひっくり返して得られる整数を「逆順数」と呼ぶことにします。の逆順数はであり、の逆順数はです。
このような整数、つまり、逆順数が元の整数の倍数になるような整数は、英語圏では “Reverse divisible number” と呼ばれています。日本語に直すと「反転約数」とでもなるでしょうか。ネット上を探しても見つからないので、この単語の正確な日本語訳は存在していないのかもしれません。ここでは便宜上、頭文字を取って「RD数」と呼ぶことにしましょう。
の他にRD数は見つかるでしょうか? ただし、ゾロ目であるような整数(例えば、など)は自明なので除きます。
桁の整数を考えてもしょうがないので、桁以上の整数を考えます。桁の場合、RD数の探索は単純な組み合わせの問題であり、桁のRD数が存在しないことはすぐに確かめられます。
では、桁の場合はどうでしょうか?
、、を1桁の負でない整数(ただし )とし、桁の整数を 、 と置きます。というのは、、の積ではなく、十進法表記であることを明示する書き方の一種です。
このとき、であり、となります。がの倍数なら左辺はの倍数になりますから、右辺はで割り切れなければなりません。ここで であることなどに注目すると、は少なくともの倍数であることが必要になるので、桁のの倍数を調べれば良さそうです。結論から言えば、桁のの倍数のうち、逆順数との差がの倍数となるようなものは存在しないので、桁のRD数は存在しません。
桁の場合は、先ほど紹介したようにが該当します。これ以外に桁のRD数は存在するでしょうか?
実は2014年の第2回東大実戦模試(駿台)の理系第6問(文系は第3問)に桁のRD数をすべて求めさせる問題が出題されています。場合分けして絞り込むのがやや面倒ですが、機械的に解いていけば決して完答できない問題ではありません(ただ、実際のところ、出来はかなり悪かったようです)。
答えを言ってしまうと、以外の桁のRD数はのみです。これは場合分け&手計算のほか、プログラムを使っても確認できます。
RD数の性質
RD数 “Reverse divisible number” には色々と面白い性質が知られています。
例えば、RD数の逆順数をRD数で割ったときの商はまたはのいずれかであり、と、という形で表される桁()の整数はRD数となることが知られています。とはまさしくこの形のRD数ですね。その他のRD数はこの形のRD数(「基本RD数」などと呼ばれる)を用いて構成することが可能です。
また、RD数とRD数の逆順数の積は必ず平方数になることが知られています。例えばのようになります。ただし、これはRD数であることの十分条件ではありません。 のように、逆順数との積が平方数になる整数は他にも存在します。
RD数の個数についての定理も知られています。()桁のRD数の個数はを番目のフィボナッチ数として で与えられます。ここでは床関数(ガウス記号)であり、を超えない最大の整数(の整数部分)を表しています。例えば のとき、RD数の個数は と求められます。実際、桁のRD数はとのみです。
これらの証明については「On the trail of Reverse Divisors: 1089 and all that follow」などの文献を参照してください。
進法のRD数
RD数は十進法以外の記数法にも定義可能です。例えば、進法においてはで割り切れますし、進法においてはで割り切れます。
以下、進法までの範囲で以下のRD数を列挙します。なお、2進数におけるRD数は の制約により存在しません。
2進数
(該当なし)
3進数
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4進数
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5進数
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6進数
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7進数
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8進数
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9進数
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10進数
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11進数
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12進数
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13進数
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14進数
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15進数
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16進数
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17進数
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18進数
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19進数
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20進数
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基数の種類によってRD数の個数に結構ばらつきがありますね。進法のRD数についての一般的な法則は一応知られているのですが、自力で突き止めるのはなかなか大変です。詳細な考察については論文などに委ね、ここでは深くは立ち入りません。興味が湧いた方はarXiv上の論文を漁ってみて下さい。
進法までの範囲で以下のRD数を「List of reverse divisors in various bases」のページに掲載にしてありますので、興味のある方はご覧下さい。