今年(2023年)の京都大学の整数問題を取り上げます。
を以上の素数とする.また,を実数とする.
(1) と を の式として表せ.
(2) のとき, となるような正の整数,が存在するか否かを理由を付けて判定せよ.
(2023年 京都大学 理系第6問)
考え方
(1)は単純な式変形なので無難に解決できると思います。問題の主眼は(2)で、前問の結果をいかに利用できるかが勝負です。が「素数」であることに着目するとすこし突破口が見えてくるでしょうか。チェビシェフ多項式の知識があると解きやすかったかもしれません。
一般に「はの次多項式で表すことができる」という事実が知られています。このとき現れる次多項式は「チェビシェフ多項式」と呼ばれます。問題文中にはありませんが、 …と続きます。ここで注目したいのが最高次の係数です。チェビシェフ多項式を列挙すると次のようになります。これより、のの係数はとなっていることに気が付くと思います。今回の問題はここから攻めていきます。
解答例
(1)
(2)
となるような正の整数、が存在するならば となる。これより、 のときを満たすような整数が存在するか否かを調べればよい。
ここで、正の整数に対して を満たすような、最高次の係数がで整数の係数をもつ次多項式が存在することを数学的帰納法により証明する。
(ア)、のときは、 が存在する。
(イ)(は正の整数)のとき、 としておよびの存在を仮定する。和積の公式からより、が成り立つ。仮定よりは最高次の係数がで次の多項式、は次の多項式であるから、上式よりは最高次の係数がで次の多項式であることが従う。
以上より多項式の存在が示された。したがって、と置ける。これより、はつまり、と表せる。いま、 であるから、となり、辺々にを乗じてを得る。この下線部はの倍数であるから、等式が成り立つためにはもの倍数でなければならない。しかしは以上の素数であるからこれは不可能。
よって背理法により、 となるような正の整数、は存在しないことが示された。
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コメント
チェビシェフ多項式の予備知識がないと上記のような解答をいきなり記述するのは難しいと思います。まずは を幾つかの多項式に代入してみて、どんな方程式が得られるかを調べていくのが普通でしょうか。次くらいまでやってみて、そこで最高次の係数に着目して数学的帰納法に思い至れるとベストでした。
同じく京都大学の1996年後期理系数学第1問にチェビシェフ多項式に関する出題がありますが、本問の方がヒントが少なく、取り組みにくかったのではないでしょうか。1996年後期の問題は今回の問題の丸ごと誘導設問のような形になっています。
は自然数とする。
(1)すべての実数に対しをみたし、係数がともにすべて整数である次式と次式が存在することを示せ。
(2) であることを示せ。
(3)を以上の素数とするとき、の次以下の係数はすべてで割り切れることを示せ。
(京都大学 1996年後期 理系第1問)
問題文中のを「第1種チェビシェフ多項式」、を「第2種チェビシェフ多項式」と呼びます。いずれの多項式も解答例の中で示したという漸化式を満たすことが知られています。
30年近く前の過去問をチェックしていた受験生は僅かだと思いますが、チェビシェフ多項式そのものは様々な大学で出題例があります。そのなかでも本問は特に掴みどころがなく、経験の差が得点の差に直結した問題だったと言えるでしょう。
今年の京大数学は良問の多そうな雰囲気です。個人的には第5問の立体図形の問題も面白そうでした。こういった回転対称性のある立体の求積問題は最近増えてきているように思います。