横浜市立大学の入試からネイピア数eの値を評価する問題を紹介します。数Ⅲの良問と言える問題です。
《問題》
$a>0$ とする。以下の問いに答えよ。
(1)$0 \leqq x \leqq a$ をみたす$x$に対して$$1+x \leqq e^{x} \leqq 1+\dfrac{e^{a}-1}{a} x$$を示せ。
(2)(1)を用いて$$1+a+\frac{a^{2}}{2}<e^{a}<1+\frac{a}{2}\left(e^{a}+1\right)$$を示せ。
(3)(2)を用いて$$2.64<e<2.78$$を示せ。
(横浜市立大学2010年 理系第4問)
《考え方》
(1)は $y=e^x$ のグラフが下に凸であることを利用すると良いでしょう。式変形だけで押し切っても良いですが、図形的に式の意味を考える方が分かりやすい解答になります。
(2)一般に $\quad p \leqq x \leqq q$ において $f(x) \leqq g(x)$ が成立するならば$$\int_{p}^{q} f(x) d x \leqq \int_{p}^{q} g(x) d x$$が成り立ちます。この等号は $p \leqq x \leqq q$ で常に $f(x)=g(x)$ となるときに限って成立します。
(3)$a$ に色々な値を代入してみましょう。サービス問題です。
解答例
(1)
$y=e^{x}$ に対して$$y^{\prime}=e^{x}, \quad y^{\prime \prime}=e^{x}$$となるから $y^{\prime \prime}>0$ であり $y=e^x$ のグラフは下に凸である。
したがって、この曲線上に2点 $A(a, e^{a})$、$B(0,1)$ をとると、
(ⅰ) $B$における曲線の接線は、$B$を除き曲線より下側にあり、
(ⅱ) 線分$AB$は両端を除き曲線より上側にある。
ここで、点$B$における接線の方程式は$$y=x+1$$であり、直線$AB$の方程式は$$y=\dfrac{e^{a}-1}{a} x+1$$である。よって $0 \leqq x \leqq a$ をみたす$x$に対して不等式$$1+x \leqq e^{x} \leqq 1+\dfrac{e^{a}-1}{a} x$$が成り立つ。
□
(2)
(1)の不等式は $0<x<a$ では等号が成り立たないことに注意すると、各辺を積分して$$\small \begin{array}{c}
\displaystyle \int_{0}^{a}(1+x) d x<\int_{0}^{a} e^{x} d x <\int_{0}^{a}\left(1+\dfrac{e^{a}-1}{a} x\right) d x \\
\therefore {\left[x+\dfrac{x^{2}}{2}\right]_{0}^{a}<\left[e^{x}\right]_{0}^{a}<\left[x+\dfrac{e^{a}-1}{2 a} x^{2}\right]_{0}^{a}} \\
\therefore a+\dfrac{a^{2}}{2}<e^{a}-1<a+\dfrac{a}{2}\left(e^{a}-1\right) \\
\therefore 1+a+\dfrac{a^{2}}{2}<e^{a}<1+\dfrac{a}{2}\left(e^{a}+1\right)
\end{array}$$と示される。
□
(1)(別解)
$$\begin{array}{l}
f(x)=e^{x}-(1+x) \\
g(x)=\left(1+\dfrac{e^{a}-1}{a} x\right)-e^{x}
\end{array}$$と置く。
$$f^{\prime}(x)=e^{x}-1$$より、$f(x)$の増減は次のようになる。$$\begin{array}{|c||c|c|c|}
\hline x & \cdots & 0 & \cdots \\
\hline f^{\prime}(x) & – & 0 & + \\
\hline f(x) & \searrow & 0 & \nearrow \\
\hline
\end{array}$$よって $f(x) \geqq 0 \ \cdots ①$ となる。等号成立は $x=0$ のとき。
また、$$g^{\prime}(x)=\frac{e^{a}-1}{a}-e^x$$であり、これは単調減少である。ここで、$${\begin{align}g^{\prime}(0)&=\dfrac{e^{a}-1}{a}-1 \\ &=\dfrac{1}{a}\left(e^{a}-1-a\right)\end{align}}$$ $$\begin{align}g^{\prime}(a)&=\dfrac{e^{a}-1}{a}-e^{a} \\ &=\dfrac{e^{a}}{a}\left(1-e^{-a}-a\right)\end{align}$$となる。①より、$$\begin{array}{l}
g^{\prime}(0)=\dfrac{1}{a} f(a)>0 \\
g^{\prime}(a)=-\dfrac{e^{a}}{a} f(-a)<0
\end{array}$$これらと$g^{\prime}(x)$が単調減少であることから、$g^{\prime}(x)=0$ となる$x$が $0<2<a$ に1つだけ存在し、その値をとすると $g(x)$ の増減は次のようになる。$$\begin{array}{|c||c|c|c|c|c|}
\hline x & 0 & \cdots & x_{0} & \cdots & a \\
\hline g^{\prime}(x) & & + & 0 & – & \\
\hline g(x) & 0 & \nearrow & & \searrow & 0 \\
\hline
\end{array}$$これより $0 \leqq x \leqq a$ において $g(x) \geqq 0$ となる。よって $0 \leqq x \leqq a$ において不等式$$1+x \leqq e^{x} \leqq 1+\dfrac{e^{a}-1}{a} x$$が成り立つ。
□
(2)(別解)
$$\begin{array}{l}
F(x)=e^{x}-\left(1+x+\dfrac{x^{2}}{2}\right) \\
G(x)=\left\{1+\dfrac{x}{2}\left(e^{x}+1\right)\right\}-e^{x}
\end{array}$$と置くと、$$\begin{aligned}
F^{\prime}(x) &=e^{x}-(1+x) \\ &=f(x) \\
G^{\prime}(x) &=\frac{1}{2}\left(e^{x}+1\right)+\frac{x}{2} e^{x}-e^{x} \\
&=\frac{e^{x}}{2}\left(-1+e^{-x}+x\right) \\
&=\frac{e^{x}}{2} f(-x)
\end{aligned}$$よって(1)の別解の結果から $F^{\prime}(x) \geqq 0$ かつ $G^{\prime}(x) \geqq 0$ となる。等号は $x=0$ のときにのみ成立し、$F(x)$と$G(x)$はともに単調増加である。したがって$$\left\{\begin{array}{l}
F(a)>F(0)=0 \\
G(a)>G(0)=0
\end{array}\right.$$が言えるから$$1+a+\dfrac{a^{2}}{2}<e^{a}<1+\dfrac{a}{2}\left(e^{a}+1\right)$$の成立が示される。
□
(3)
(2)の不等式に $a=\dfrac{1}{2}$ を代入すると$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{8}<e^{\frac{1}{2}}<1+\frac{1}{4}\left(e^{\frac{1}{2}}+1\right)$$ $$\therefore \frac{13}{8}<e^{\frac{1}{2}}<\frac{5}{3}$$この各辺は正なので二乗して、$$\frac{169}{64}<e<\frac{25}{9}$$を得る。ここで、$\dfrac{169}{64}=2.640…$、$\dfrac{25}{9}=2.777…$ より、$$2.64<e<2.78$$が示される。
□
(コメント)
最終的に得られた不等式は面積の評価に由来しています。もし$a$をうんと小さい数字に取れば、(面積のズレが小さくなるので)さらに高精度で$e$の近似値を求めることができます。(3)で $a=\dfrac{1}{2}$ という値を見つけるのは少し難しいかもしれませんが、このことが頭にあれば「小さい$a$を代入すればよいのではないか?」と見当が付くはずです。
例えば $a=\dfrac{1}{10}$ とすると、計算はやや面倒ですが$$2.714<e<2.721$$くらいの精度で評価可能です。なお、$\small e=2.718281828…$ です。