バーゼル問題を解いてみよう!(1/n^2の無限和)

こんにちは。管理人のpencilです。

「バーゼル問題」とは、

平方数の逆数をすべて足し合わせると和はいくらになるか?

という問題で、名前を知らずとも一度は(区分求積法の分野などで)目にしたことがある問題だと思います。今回はそのバーゼル問題を取り上げてみます。

 

 バーゼル問題について

無限級数$$\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}}={\dfrac {1}{1^{2}}}+{\dfrac {1}{2^{2}}}+{\dfrac {1}{3^{2}}}+\cdots$$の値が幾らになるのかという問題は17世紀後半から18世紀前半の西洋数学界における大きな関心事でした。これは「バーゼル問題」と呼ばれ、多くの数学者の挑戦を撥ね退けてきた難問として当時から広く知られていましたが、遂に1735年、数学者レオンハルト・オイラーによってエレガントに解決されます。その極限値は $\dfrac{\pi ^{2}}{6}$ と求められ、円周率が出現するという誰も予想しないような興味深い値でした。当のオイラーはこの値を得たとき、宇宙の神秘を感じたと伝えられています。

※余談ですが「バーゼル問題」の「バーゼル」という名前はスイスにある都市の名前で、この問題に挑戦した数学の名門であるベルヌーイ家や、オイラーの故郷に因んでいます。

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現代日本の大学入試では以下のようなタイプの問題が頻繁に出題されています。

例題

無限級数 $\displaystyle \sum_{n=3}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}-4}$ の和を求めよ。

2014年津田塾大学/学芸(数)

バーゼル問題によく似た見た目の問題ですが、部分分数分解で解ける基本レベルの問題です。

» 解答例はこちら

$n=N$ までの部分和は$$\small \begin{aligned} & \ \ \ \sum_{n=3}^{N} \dfrac{1}{n^{2}-4} \\ &=\sum_{n=3}^{N} \dfrac{1}{4}\left(\dfrac{1}{n-2}-\dfrac{1}{n+2}\right) \\ &=\dfrac{1}{4}\left\{\left(\dfrac{1}{1}-\dfrac{1}{5}\right)+\left(\dfrac{1}{2}-\dfrac{1}{6}\right)+\cdots+\left(\dfrac{1}{N-2}-\dfrac{1}{N+2}\right)\right\} \\ &=\dfrac{1}{4}\left(\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4}-\dfrac{1}{N-1}-\dfrac{1}{N}-\dfrac{1}{N+1}-\dfrac{1}{N+2}\right) \end{aligned}$$となるので、$$\small \begin{aligned} & \ \ \ \sum_{n=3}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}-4} \\ &=\lim _{N \rightarrow \infty} \dfrac{1}{4}\left(\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4}-\dfrac{1}{N-1}-\dfrac{1}{N}-\dfrac{1}{N+1}-\dfrac{1}{N+2}\right) \\ &=\dfrac{1}{4}\left(\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4}\right) \\ &=\color{red}{\dfrac{25}{48}} \end{aligned}$$と求められます。

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さて、一方のバーゼル問題に登場する級数 $\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}}$ は一筋縄ではいきません。$\dfrac{1}{n^{2}}$ が部分分数分解ができないため、式変形だけではそう簡単に解けないのです。

そんな難問のバーゼル問題ですが、実は2003年の日本女子大学理学部の自己推薦入試や、1990年の東工大後期第2問に出題歴があります(もしかしたらもっと最近のAO入試などでも取り上げられているかもしれません)。

・・・とは言っても、これまで推薦入試や後期入試などの特殊な入試でしか出題されておらず、あまり人目に触れることはありませんし、丁寧に誘導を付けてくれているので決して高校生が解けないレベルという訳ではありません。

 

 収束することの証明

無限級数 $\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}}$ の極限値を正確に求めるのは困難ですが、収束性の証明は比較的容易です。

例題

級数 $\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}}$ が収束することを示せ。

単調増加(減少)で上(下)に有界な数列はある実数の極限値に収束する、という定理が知られていますが、高校の範囲では習わないと思います。大学の範囲かもしれませんが、例えば以下のようにします。

$n \geqq 2$ で不等式 $n^2>n(n-1)$ が成り立つことを用いて、$$\small \displaystyle {\begin{aligned} & \ \ \ \sum _{n=1}^{\infty }{\dfrac {1}{n^{2}}} \\ &<1+\sum _{n=2}^{\infty }{\dfrac {1}{n(n-1)}}\\&=1+\sum _{n=2}^{\infty }\left({\dfrac {1}{n-1}}-{\dfrac {1}{n}}\right)\\&=1+\left({\dfrac {1}{1}}-{\dfrac {1}{2}}\right)+\left({\dfrac {1}{2}}-{\dfrac {1}{3}}\right)+\left({\dfrac {1}{3}}-{\dfrac {1}{4}}\right)+\cdots \\&=2\\\end{aligned}}$$となります。$\dfrac{1}{n^2}$は正であり、$\displaystyle \sum _{n=1}^{N}{\dfrac {1}{n^{2}}}$ は$N$の増加に伴って単調増加します。単調増加で上に有界な数列はある実数の極限値に収束するので、級数 $\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}}$ が$2$より小さい実数値に収束することが示されます。ただ、このままでは$$1<\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}}<2$$程度の粗い評価しかできません。

 

 極限値$\dfrac{\pi ^{2}}{6}$を求める

ここからはいよいよ本題です。極限値$$\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^{2}}=\dfrac{\pi ^{2}}{6}$$はオイラーが初めて求めることに成功していますが、そこには常人では成しえない鋭い洞察に基づく着想がありました。

オイラーの方法では $\sin x$ のマクローリン展開を利用します。「マクローリン展開」とは簡単に言うと、$x$の関数を$x$の整級数($x$の無限項からなる多項式)で表すと言うものです。

$\sin x$ は$$\small \sin x={\dfrac {x^{1}}{1!}}-{\dfrac {x^{3}}{3!}}+{\dfrac {x^{5}}{5!}}-{\dfrac {x^{7}}{7!}}+\cdots$$とマクローリン展開でき、この両辺を$x$で割って$$\small (1) \ \ \ \dfrac {\sin x}{x}={\dfrac {1}{1!}}-{\dfrac {x^{2}}{3!}}+{\dfrac {x^{4}}{5!}}-{\dfrac {x^{6}}{7!}}+\cdots$$を得ます。ここで $\sin x =0$ の解を考えると、この左辺は $x = \pm n \pi$($n$は正の整数)解に持つので、右辺は以下のように形式的に因数分解できます(☜ここがポイント!)。$$\small \left(1-{\dfrac {x}{1\pi }}\right)\left(1+{\dfrac {x}{1\pi }}\right)\left(1-{\dfrac {x}{2\pi }}\right)\left(1+{\dfrac {x}{2\pi }}\right)\left(1-{\dfrac {x}{3\pi }}\right)\left(1+{\dfrac {x}{3\pi }}\right)\cdots$$この隣接する2項を掛け合わせることで$$\small (2) \ \ \ \dfrac {\sin x}{x}=\left(1-{\dfrac {x^{2}}{1^{2}\pi ^{2}}}\right)\left(1-{\dfrac {x^{2}}{2^{2}\pi ^{2}}}\right)\left(1-{\dfrac {x^{2}}{3^{2}\pi ^{2}}}\right)\cdots$$という別の表式を得ます。ここで、$(1)$ と $(2)$ の右辺の$x^2$の係数はそれぞれ、$$\color{red}{-{\dfrac {1}{3!}}}\color{black}{\left(=-{\dfrac {1}{6}}\right)}$$および$$\small -\left({\dfrac {1}{1^{2}\pi ^{2}}}+{\dfrac {1}{2^{2}\pi ^{2}}}+{\dfrac {1}{3^{2}\pi ^{2}}}+\cdots \right)=\color{red}{-{\dfrac {1}{\pi ^{2}}}\sum _{n=1}^{\infty }{\dfrac {1}{n^{2}}}}$$となります。これらはともに$\dfrac {\sin x}{x}$を整級数展開したときの$x^2$の係数なので$$-\dfrac {1}{6}=-\dfrac {1}{\pi ^{2}}\sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^{2}}$$即ち$$\sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^{2}}=\dfrac{\pi^{2}}{6}$$が導かれます。

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いかがでしょうか?狐につままれるような印象を受ける導出法ですが、$\dfrac {\sin x}{x}$ を因数分解してしまうところにオイラーの卓越した数学的センスが見て取れます。この他にも $\dfrac {1}{\sin^2 x}$ を式変形していく解法などが知られていますが、オイラーの方法の方が(数学的にはあまり厳密ではありませんが)直感的には分かりやすいのではないでしょうか。

また、$x^4$の係数、$x^6$の係数…と一般化して考えていけば、整数の偶数乗の逆数の総和が得られることも分かります。見事ですね!

 

 偶数・奇数の平方数の場合

$\displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2n)^{2}}$ の値を求めるには以下のようにすればよく、簡単に求められます。

$$\begin{align} & \ \ \ \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2n)^{2}} \\ &= \dfrac{1}{4}\sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^{2}} \\ &= \dfrac{1}{4} \cdot \dfrac{\pi^{2}}{6} \\ &= \dfrac{\pi^{2}}{24}\end{align}$$

これより、$\displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2n-1)^{2}}$ の値を求めると、$$\begin{align} & \ \ \ \displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2n-1)^{2}} \\ &=\displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^{2}}-\sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2n)^{2}} \\ &= \dfrac{\pi^{2}}{6}-\dfrac{\pi^{2}}{24} \\ &= \dfrac{\pi^{2}}{8}\end{align}$$となります。

この結果から、平方数の逆数の交代級数の極限値も求めることができます。$$\begin{align} & \ \ \ \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{k-1}}{n^2} \\ &=1-\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}-\dfrac{1}{4^2}+\cdots \\ &=\displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2n-1)^{2}}-\sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2n)^{2}} \\ &=\dfrac{\pi^{2}}{8}-\dfrac{\pi^{2}}{24} \\ &=\dfrac{\pi^{2}}{12} \end{align}$$ただしこれは$$\begin{align} & \ \ \ \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{k-1}}{n^2} \\ &=\sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^{2}}-2\sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2n)^{2}} \\ &=\dfrac{\pi^{2}}{6}-\dfrac{\pi^{2}}{12} \\ &=\dfrac{\pi^{2}}{12} \end{align}$$と求める方が簡単ですね。

 

 3乗以上の場合は?(リーマン予想との関連)

ここまで $\displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^{2}}$ の値について見てきましたが、同じように $\displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^{3}}$ という無限級数も考えられるのではないか、と思えてきます。

これらを一般化して定義域を複素数まで拡張した$$\zeta (s)= \displaystyle \sum^{\infty}_{n=1} \dfrac{1}{n^s}$$と表される関数は(リーマンの)ゼータ関数と呼ばれ、解析的整数論の分野で盛んに研究されています。$s$に整数を代入した値は「特殊値(particular value)」と呼ばれており、特に$s$に偶数を代入した値については、ベルヌーイ数$B_n$を用いて$$\zeta (2n)=(-1)^{n+1}\cdot \dfrac{\, B_{2n}(2\pi)^{2n}}{2(2n)!}$$という解析的な表示を得ることができます。以下に例を示します。$$\small \begin{align} & \displaystyle \zeta (2)=\sum^{\infty}_{n=1} {1\over{n^2}}={\pi^2 \over 6} =1.6449\dots \\ & \displaystyle \zeta (4)=\sum _{n=1}^{\infty }{1 \over {n^{4}}}={\pi ^{4} \over 90}=1.0823\dots \\ & \displaystyle \zeta (6)=\sum _{n=1}^{\infty }{1 \over {n^{6}}}={\pi ^{6} \over 945}=1.0173\dots \\ & \displaystyle \zeta (8)=\sum^{\infty}_{n=1} {1\over{n^8}}=\frac{\pi^8}{9450} =1.00407\dots \\ & \displaystyle \zeta (10)=\sum^{\infty}_{n=1} {1\over{n^{10}}}=\frac{\pi^{10}}{93555} =1.000994\dots \end{align}$$

一方で$s$に奇数を代入した値については解析的な表示が得られていません。$\zeta (3)$は特にアペリの定数(Apéry’s constant)と呼ばれ数学者アペリによって無理数であることが証明されています。しかしながら、奇数を代入して得られるそれ以外の特殊値が無理数かどうかは分かっていません。恐らくいずれも無理数だろうと考えられていますが、今のところ誰も証明できていません。

「$\zeta (5)$、$\zeta (7)$、$\zeta (9)$、$\zeta (11)$の少なくとも1つは無理数である」という一風変わった事実なら証明されています。

このゼータ関数$\zeta (s)$は数学者リーマンによって詳しく研究されており、1859年にリーマンは、$s$を複素数に拡張した複素関数としてのゼータ関数のゼロ点($\zeta (s)$の値が$0$になるような複素数$s$)について

「$\zeta (s)$のすべての非自明な零点の実部は $\dfrac{1}{2}$ である」

という世に名高い「リーマン予想」を提唱しています。以来160年もの間、誰もこの予想の完全な証明を与えられていませんが、今では多くの数学者の間でこの予想が正しいと信じられています。

 

 この級数から円周率$\pi$を求めてみる

$\displaystyle \sum _{n=1}^{1000}\dfrac{1}{n^{2}}$ の値は $1.64393456668…$となり、極限値$\dfrac{\pi^{2}}{6}(=1.64493406684…)$の$99.9$%の数値が得られます。級数の極限値を使えば$$\pi=\sqrt{6 \cdot \displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^{2}}}$$から円周率$\pi$の値を求められそうですが、$1000$項まで計算したとしても$$\sqrt{6 \displaystyle \sum _{n=1}^{1000}\dfrac{1}{n^{2}}}=3.140638…$$と小数点以下$2$桁までしか正しい値が求められません。残念ながらこの級数は収束が遅く、円周率$\pi$を求めるのには適していません。

無理数の極限値に近付く有理数の級数としては、メルカトル級数$$\begin{align} & \ \ \ \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{n-1}}{n} \\ &=1-\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}-\dfrac{1}{4}+\cdots \\ &=\log_e 2 \end{align}$$や、グレゴリー・ライプニッツ級数$$\begin{align} & \ \ \ \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1} \\ &=1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\dfrac{1}{7}\cdots \\ &=\dfrac{\pi}{4} \end{align}$$などが知られています。有理数なのに無限個足し合わせると無理数になる、というのは直感的には不思議な感じがしますね!

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